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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第6部「轟鳴の滅殺者」
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第2章 7-1 狂ったストゥーリア人

 異変を察し、どやどやと神官や博士たちが屋上へ集まる。ムルンベもいた。太鼓腹に豪奢な法務ローブ、そして数々の金の装飾品。南部王国人を先祖に持つ南方人種で、黒褐色の濃い肌をし、かろうじて残った髪は縮れて短くほぼ禿頭だ。重そうな金の耳飾りに耳たぶが垂れている。眉毛が濃かった。


 「ムルンベ……」


 カンナよりやや小柄で、髪の短い少年めいた顔立ちのレラは、ゆっくりと顔を上げた。激痛に身をすくめ、苦悶に顔が曲がる。年はちょうど数えでカンナの二つ下なので、十三になる。


 「しっかりしろ、どうしたというのだ!!」

 ムルンベが厚い掌でレラを支えた。


 カンナと全く同じくほとんど真っ白な漆喰肌に、癖毛っぽい短髪は黒鉄食に煌めいている。眼はしかし、カンナのような碧ではなく青白い。空色だ。それがカンナと同じく蛍光色に光っている。体内の電気を反射している。


 「さわんな!!」

 レラは金きり声でムルンベの手を払いのけた。その際、バチンと電気が弾ける。

 ムルンベはため息交じりに、

 「いったいなにがあった。おまえほどの者がこのように……」

 レラが、音が鳴るほど奥歯をかむ。


 「……あたしと、おなじような力を持った奴が……いきなり襲いかかってきて……やりあったけど……とんでもない力で……」


 一同がざわめく。ムルンベの顔が引き締まった。

 「調整槽へいそげ!」


 博士たちへそう指示し、白布の覆面をつけて薄い茶色のローブをまとった数人がこわごわとレラを立たせて連れてゆく。


 お付きの神官が、ムルンベへ耳打ちした。

 「もしや……」

 「来たぞ」

 ムルンベの顔が、緊張から憎しみへゆがむ。

 「神官長の切り札が。戻って来たぞ」

 


 「けっきょく、ラクトゥスでは足止めにもならなかった」


 時系列的に、ようやくラクトゥスへ救援部隊がウガマールより出発したころだった。これは、ムルンベの指示で止めていた船を使った。使わざるを得なかったし、カンナが徒歩で出発した以上、もう船を止めていても意味がない。


 神殿内の打ち合わせ室で、大きな身体を預ける大きな椅子へ座り、ムルンベが高級なコーヒーを飲む。ふくよかな香りが精神を落ちつけてくれた。意外かもしれないが、ムルンベはいっさい酒を飲まない。


 七人いる大密神官だいみつしんかんたちのうち、二人は用務で地方へ行っているため、残る四人とムルンベが打ち合わせを始めた。


 「猊下、ラクトゥスの被害が想定を超えて甚大です」


 本来は神官長のみに対する尊称を、仲間内ではすでにムルンベに対して使っている。四人は、一人が南方人だがムルンベとは人種が異なり、肌がもう少し薄く背が小さく痩せている。髪が天然のドレッドヘアだ。三人はウガマール人だが、二人は古ウガマール人で肌が褐色、小太りと中肉中背。一人は新ウガマール人で、女性だった。混血が進み、褐色肌ながらもう少し色白でひょろりと背が高く、何人というでもない容貌をしている。歳は、みな五十代だった。


 「私も含めて、みな、甘く観ていたということだぞ」

 「御意……」


 職務的に同格のはずだが、ムルンベのみ座り、四人は部下のように立っている。これだけを見ても、いかにムルンベが実力者であり、かつ彼らを取りこんでいるかが分かる。


 「しかし、ラクトゥスの被害は百足竜を送った時点である程度は想像できたことだ。できなかったのなら、覚悟が甘いということだ。トトモスへ草を放ち、見つけ次第なんでもいいので歩かせろ。船を使わせるんじゃあない」


 「御意」


 「時間がない……こっちは、時間がないぞ。あの狂ったストゥーリア人が世界を滅ぼすかどうかの瀬戸際だ。ウガマールだけの問題ではないのだ!」


 ムルンベが大きな眼をぎろりと動かし、朋輩を睨みつける。四人は恐縮し、怖れ、こうべを垂れた。


 「狂ったストゥーリア人」とは、云うまでも無くクーレ神官長のことである。神官長はウガマールの生まれながら、珍しく純粋のストゥーリア人であるのは既に延べている。商人だった両親がストゥーリア人にしては信仰厚く、ウガマールへ帰依し、息子へウガマールの名を与え、神官として育てたのである。

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