第1章 4-6 天と地と竜
さすが歴戦の暗殺者……カンナは身震いした。
そして、次は自分だ。
黒い剣……雷紋黒曜共鳴剣を右手に突きあげた。黄金の線模様が脈動、天と地と竜を貫いて共鳴が走る。ゴオオ……!! 地鳴りがラクトゥスを襲った。竜は統率者を失い、動揺して、暴走し始めた。通りを進んでいたものが、建物へつっこむ。グラグラと揺れ、死んだ屈強な竜騎兵が転がってどこかへ落ちた。ライバもあわてる。
「カ、カンナさん!」
「ライバは、あぶないから、いったん下がって!」
「で、でも」
「わたしは大丈夫……!!」
カンナの顔がひきしまる。これまで見たこともないほど頼もしく見えた。ライバはうなずき、
「ご武運を!」
瞬間移動で消えた。
カンナは少し目をつむって息をつき、
「ウアアアア!」
刮目するや、共鳴を一気に開いた。ブワッ! 稲妻が落ちて、雷鳴の轟音が響きわたった。いよいよ百足竜がパニックになって、頭を大きく振って、頭上の共鳴から逃れようとする。カンナは掲げた黒剣を、岩みたいな竜の甲羅へ突き刺した。ガリアの力により、柔らかい土へ剣を刺したかのごとく深々と突き刺さる。そして、そのカンナめがけ再度落雷! 竜の体内へ電流と共鳴の振動が深く浸透する。たまらず百足竜め、地面の下へ逃れようと、一気にその偏平な頭部を振り下ろして地面へ突きたてた。土煙が上がって建物がふきとび、のたうつ竜の身体で街は目茶苦茶に破壊される。
「カ、カンナさん!」
いったん下りたライバが飛んでくる瓦礫を避けながら、なんとか接近する。
その、土煙の中から、膨大な量の稲妻が噴出した。電気に弾かれたようにして、百足竜の身体が逆立ちして伸び上がって、突き刺さった棒めいて直立した。その尾の先の、平べったいこれもシャベルのような大きな突起物の先から、稲妻が吹き出ていた。
それが納まって、地鳴りも聴こえなくなるや、音を立ててその直立していた尾がばったりと地面へ倒れた。と、同時に、地面へ潜ろうとしていた頭が再び鎌首をもたげ、恐るべき怒りと苦痛の悲鳴を発して、その大口より燃焼爆発する火炎弾を連続して吐き出した。
ズボァ、ボッ、ボッ、ボッ、ボッ、ボガアッ………! 火柱が次々に立ち上り、火の雨となって破片が降り注いで、ラクトゥスが火の海にのまれて行く。まさに、超主戦竜級のバケモノの所業だ。
その頭の上で、カンナが懸命に剣を……いや、槍のような棒へ変化した黒剣を握りしめて、振り落とされまいと歯を食いしばっていた。
「……こおおんのおおお……負けるかああああ!」
カンナの瞳が蛍光翡翠に光を発し、さらに凶悪的な共鳴音が雷鳴と地鳴りを混ぜ合わせたような、この世の終わりの音というのがもし聴こえたならきっとこういう音なのだろうという重低音が大気を揺るがした。
ライバはなるべく離れまいとしたが、熱波と火の雨、そしてまきあげられ、これも降り注ぐ瓦礫や人間の死体に、流石に瞬間移動で離れる。比較的高い建物の屋根へ逃れ、カンナがもし振り払われたら助けようと、神経を集中した。
百足竜がいよいよ苦しがって、天へむけて炎を吹き上げ、それが火の塊のまま街へ落ち、さらに広範囲に爆発が広がった。ラクトゥスは壊滅だ。
「うあああああ!!」
カンナも最後の気合!
共鳴が竜の全身を貫いた。脳天から身体を揺さぶられ、その甲羅が内側からひび割れ、血を噴き出しはじめる。
「あっ……!!」
だが、その至近より噴き出した竜の血を頭からかぶって、手が滑り、ついにカンナが振り払われた。ライバの出番だ! 目を皿にしていたライバはしっかりとそのカンナを照りつける炎の明かりの中に見いだした。連続して瞬間移動を行い、空中で見事、カンナを抱きかかえる。そのまま、比較的安全な地面へ降りた。
竜の血でべっとりとメガネが赤い。カンナはそれをぬぐって、ふらついた。気がつくと、右手に黒い槍と化したガリアがある。自動的に解除され、右手に出直したのか。
「あと少し……あと少しなのに……」
カンナが荒く息をついた。まだ行くのか。ライバは止めようとしたが、声が出なかった。
そこへ、もう一人のライバが、スティッキィに肩を貸して瞬間移動してきた。ライバは自分と瓜二つのその者に息をのんだが、すぐにわかった。ウォラのガリアが、自分の分身を出し、どこかでスティッキィを救ったのだ!




