第3章 4-4 誘拐の機
ヴン、ヴン、ヴンと特徴的な音がして、カンナの稲妻が削られる。共鳴も打ち消されてゆく。仮の生といえど、こちらは効果を抑えられ、向こうの効果はさすがに強い。
「この……!」
カンナは歯を食いしばって、負けじと血液の奥底から共鳴を呼び起こした。同時に電流も音を立てて湧く。
それが一気に先鋭化し、稲妻の槍のようなものとなってカンナの頭上へ浮かぶや、一瞬でミヨンを貫いた。空気が引き裂かれて雷鳴がおき、衝撃波が周囲を舐めた。ミヨンは一撃で砕かれ、爆発し、バラバラと土へ帰る。
「わあお!」
ガラネルが昂奮し、驚喜した。波動で全身が震え、さらに電離でしびれる。閃光で眼がちかちかする。凄まじい力の一端を体感する。カンナへ向け左手を差し伸べ、
「さすがよ、カンナ! その力、本当の目的のために使う時が来たのよ!」
「ハア!?」
「あたしと一緒に来るのよ……来なさいってば!!」
「だれが……」
「来い!!」
ガラネルの眼が真紅に輝く。ざわりと竜の気が膨れあがり、牙がむき出る。
気がつくと、残る三人のガリア封じ専門バグルスが合流している。ようやく、村周辺の森の中で繰り広げられている竜同士の戦いの斥候より戻ってきた。それがカンナを三方に囲んだ。
「ま、まずい、スティッキィ、そちらより回れ!」
パオン=ミが指示するも、ギロアとブーランジュウ、それに続々と現れる村人の死体が行く手を遮る。
「カンナを独りにするでない!」
まだ、月は出ない。キリペも当てにできなかった。
ガラネルめ、ここが機と、一気にカンナ捕獲へ動いた。
「ガリアを封じなさい!」
自らは三方陣の背後で銃を構える。どこからか、鋭く細い翼を持つアトギリス=ハーンウルムの主戦竜の一種、紫月竜も現れ待機している。夜間飛行に長ける、夜行性の竜だ。巨大な黄色の眼が小さな頭部へ爛と輝き、長い首と細い胴体を持ち、尾も異様に長い。四肢はあるが前足が小さく、飛竜に近い外観をしている。
カンナを狙っているのは、麻酔弾だった。ガリアの弾丸は、ガラネルの意思でほぼ無限にその効果を変える。カンナが意識を失うと同時に、一瞬で誘拐するのだ!
バグルス達がカンナへ向けてガリア封じの波動を放つ。このバグルスの波動は重なりあうと効果が劇的に上がるのが判明しており、そのために複数をそろえている。単独の効果では、ギロアやブーランジュウのほうが遥かに強いが、彼女たちにこのような波状効果は認められない。七人そろえば、陣の外側まで効果が漏れ、ガラネル自身のガリアまで影響を受けるほどである。
バン、バン、バンと叩かれるような衝撃を感じ、カンナが怯む。ガラネルに銃で撃たれたかと思ったが、違った。見ると、黒剣が波動を受けて消えてしまい、ほぼ柄しか残っていない。
「まけるかあ……!」
ガリアの力を最大限に発揮するも、やはり敵も然るもの、雷紋黒曜共鳴剣は柄までも消え去り、カンナより湧き出ずる稲妻も収縮した。
カンナ、口惜しさで涙が出る。ガラネルは慎重を期し、稲妻も消え去ってから肩口へ針のような麻酔弾を撃とうと狙いを定める。
しかし、カンナは再び、自分の頭の中で封じられた黒剣が暴れるような、猛烈な頭痛に襲われた。
「……ウウ……」
スーナー村と同じ現象だ。
頭を両手で抱え、腰から引いて痛みに耐える。
「……!?」
ガラネルが思わず銃口を下げ、狙いを外した。
「ううう、わわわ……うわっうわっうわっ、いだッ、いだだ!! 痛い!! イタッ、イタ、イダタタタッ……!!」
バチン、バチンとカンナの周囲に猛烈な電気が弾ける。痛みが尋常ではない。これまでで、最も鋭い激痛が頭を襲う。
三方を囲むバグルス達が思わず身を引いた。地鳴りめいた、低音が地を這う。
「ど、どうしたの、カンナ!? ……おまえたち、もっとカンナのガリアを封じて!」
これが逆効果なのを、読者諸氏は知っておられよう。しかし、ガラネルの命により、バグルスたちはもっと強力にカンナの力を封じこめにかかった。
カンナの頭痛は、スーナー村とは比較にならなかった。いや、それはもう頭痛という生易しいものでもない。電気的な痺れを伴う激痛が、脳天から脊髄を通って足先まで貫く。まるで高圧電流が神経を引き裂いているようだ。




