第3章 4-2 眠りの驚異
とたん、バグルスたちがバタバタと倒れる。
「なんですって……!!」
ガラネル、目を見張った。しかも、
「……う……!!」
猛烈な眠気が襲ってきた。なんということか。これがキリペの力だ! バグルスへガリア封じの力を使わせる間もなく、眠らせてしまったというのか!? それとも、効果範囲が異様に広いのか!? なんにせよ、
「い、いまぞ!」
カンナが動く前に、スティッキィが死舞闇星剣を振りかざし、闇の星が強烈に回転しながら飛んで、熟睡している無防備なバグルスたちの首の急所へ次々に突き刺さり、鋭く肉を抉った。血が噴水めいてふき上がり、半分以上も首を切断され、四人のバグルスは一撃で全滅した。
「おのれ!!」
ガラネルが、その顔をゆがめ、怒りの牙を見せつけ、唸る。さきほどまでの快活な声とは裏腹に、死に神のような声だった。
思わぬ展開に、パオン=ミも歓喜の声をあげた。凶悪的な睡魔に、ガラネルがたまらず距離をとる。足がもつれていた。パオン=ミが追いすがる。ガラネルが逃げざま、振り返って銃を連発したが、パオン=ミの呪符による火炎の壁と、カンナの音圧に弾かれる。銃声と低音の破裂音が同時に炸裂した。
「逃すでない!」
パオン=ミやスティッキィが距離を詰め、ガラネルは夜空へ向かって一発、弾丸を撃った。それは鏑矢めいた甲高い音を立てて上空へ飛び、炸裂して明るい火の玉がゆっくりと落ちてくる。照明弾だ! また、何かしらの合図を誰かへしたものか!?
そのとき、それまで満天の星と明るい満月だった天が、にわかにかき曇ってきた。月光が、箒で庭を清めるように影となって消える。
すると、キリペの「力」も同じように消えてしまった。ガラネルが、眼を輝かせる。
「ずいぶんとお天気まかせの力だこと!」
キリペが、恐れおののいて下がった。
「バグルスどもを倒しただけで大手柄ぞ、下がっておれ!!」
パオン=ミが前に出た。両手より、ざわざわと呪符が湧き出る。それが端より燃え上がり、青白い炎が鬼火めいてゆらめいた。ボ、ボ、ボッ、と火が宙を舞い、幻惑しつつ渦を巻く。
その背後には、既にスティッキィの闇色の星が音もなく漂っていた。さらには、カンナの共鳴が膨れあがる!
だが、ガラネルは余裕だった。牽制のつもりか、パオン=ミの足元の地面めがけてガリアの石打式騎乗短ライフル銃を二発、発射する。さすがに足を止めるパオン=ミだったが、火炎符は止まらない。触れると燃え上がり、爆発する火球として一気にガラネルを襲った。
しかしガラネルめ、にやついた顔のまま、微動だにせぬ。そして、パオン=ミの火炎弾が次々に粉砕される。
パオン=ミが目を見張って立ちすくんだ。代わりに、スティッキィが前に出る。パオン=ミは異変を感じて止めようとしたが、スティッキィが構わず突進して、その艶消しに漆黒の細見剣より闇に紛れる星形を大量に叩きつけた。
が、それもガラネルの眼前で一気に動きが止まり、鋭い回転が鈍くなって、次々にかき消えてしまった。スティッキィはそれでも剣技をもってガラネルに突きかかったが、この距離で剣と銃では銃に分がある。
すさまじい銃声がし、散弾が発射された。スティッキィの顔面から上半身にかけて穴だらけになるところだが、それは三番目に跳びこんできたカンナの艶やかな漆黒に黄金の線模様が光る剣の音圧がすべて弾いた。
「うあああ!」
カンナが気合を入れ、プラズマ球電を出現させたが、それすら削り取られたように一瞬で消えた。
「下がれ、どこかにガリア封じのバグルスがおるぞ!」
パオン=ミが叫び、二人が下がる。その、二人とガラネルの間の地面が割れ、何かが地面の下から這い出てきた。
カンナは、最初サラティスで見たモグラ竜かと思った。しかし、あまり大きくない。死んだフレイラとサランの森で見た土潜竜は、もっとトンネルを掘る大きな竜だったが、これはまるで人の大きさだ。
案の定、巨大な爪のついた両手が、地面より現れる。それも、二人だ。そして、地面を割って土の下より現れた大柄な女性……二人のバグルスに、カンナやスティッキィが息をのむ。
それは、パーキャスで死んだギロアと、ガイアゲン商会の本部建物でカンナが撃退し、その敗走途中でスティッキィとマレッティが倒したブーランジュウであった!
死んだはずの高完成度バグルス達……幽鬼のごとくうなだれてたたずみ、その顔も表情がない。しかし、角は激しく明滅し、ガリア封じの力を発揮している!




