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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第5部「死の再生者」
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第3章 1-2 思惑

 「さあ、何のことですかな……」

 「ま、とにかく、ご助力いただければ、局長殿の仕事も捗ろうというもの」

 「どのような内容ですか?」

 パオン=ミが、事細かに説明した。


 ナランダの顔が見る間にひきしまり、そして、思案して、目をつむり腕組みをして沈思し始めた。


 無理もない。死竜教団にとりこまれ、都市政府としてそれを排除しようとしているとはいえ、もしかしたら、ユホ族はこれを機に離散してしまうかもしれない。十四部族が、十三になるのだ。周辺諸部族統括局としては、ガラネルを倒せば、教団信者など自然に宗旨がえして元の通りになるとふんでいた。


 それが、ユホ族ごと消滅してしまうかもしれないとあっては、局長の責任問題にもなりかねない。


 さすがに決断をしかねる様子のナランダへ向け、パオン=ミが続ける。

 「局長殿……よもや局長殿は違うと思うて話しまするが……」


 ナランダが、目線だけ上げてパオン=ミを見た。その視線は、懐疑半分、やむなし半分だった。パオン=ミは正確にその光を読み取り、


 「政府内にも、教団の息のかかった輩が必ずおるはず。そやつらのあぶり出しにも使えましょうぞ。誰がそうなのかはわかりかねまするが……うまく使えば、局長殿の出世も見えてくるのでは?」


 ナランダの眼が光る。そして、その光を隠すように目を細めた。パオン=ミもそれを見逃さず、にんまりと笑う。


 「確かに……」

 ナランダが視線をそらし、窓の向こうを眺めた。


 周辺諸部族統括局は、ラズィンバーグにとって極めて重要な部門ではあるが、だからといって現状、特段都市政策に影響があるわけではない。十四諸部族は、ここのところ特に可もなく不可もなく普通に生活している。局長職の中では、閑職に近い。それが、今回のガラネル討伐に成功し、あまつさえ都市政府内にはびこる教団派も一掃できたならば、こいつ、一掃する相手によっては総督も夢ではない。


 「よかろう。許可する」

 パオン=ミとスティッキィが立ち上がり、あわててカンナも続いた。


 「しかし、特に書面には残さんぞ」

 と、ナランダが振り向いた時には、三人とも退室していた。


 苦笑し、ナランダも立ち上がって机に戻る。まさに、いま、賽は投げられた。

 「さて……レスト……な。どうする……か……な……」

 ナランダは執務机についたまま椅子をずらし、また窓の外を見やって、思案を始めた。

 


 2


 それから慌ただしくなった。しかし、表向きは平静を装う。いつどこであの猫のガリアが見張っているやも知れない。


 「いまのところ、見かけないけどお」

 「準備ができれば、あやつにも協力願うのだから、あまり見かけなくても困るがな」

 「次はうまくいくわよお」


 二人がほくそ笑む。この策は、よほど自信があるようだったが、カンナはやはりそれが恐い。前回の奇襲暗殺もそうだったのだから。


 (早くアーリーが来ないかなあ)

 カンナは、そればかり考えていた。


 一週間の後、ナランダの準備が整い、周辺諸部族統括局長命で極秘にその会合は招集された。すなわち、十四部族族長会議であった。しかも、秘密招集は、


 「百十七年ぶりだぞ……」


 というので、族長たちも動揺した。何事か、というのである。秘密会合が最後に招集されたのは、まだ都市国家同士で戦争をしていた時代に、当時サラティス派とラズィンバーグ派に分かれていた十六諸部族の内、サラティス派の二派を残した十四部族が秘密裏に招集され、残るサラティス派を攻め滅ぼしたときだった。つまり、この秘密招集がかかるということは、


 「また、どこかの部族が消滅するかもしれない」

 ことを意味している。


 緊張の面持ちで、族長たちは密かに指定の場所へ集まった。場所は、特に定められていない。その都度、招集者が指定する。今回は、都市政府庁舎から続く、秘密の地下室だった。石垣の内部というか、山肌の奥というか。こういった地下室が、政府庁舎の奥に幾つあるのかもよくわかっていないほどにある。開かずの間のようなところを久しぶりに開けたら、いつのものかもしれぬ白骨が転がっているときもあった。


 暗く湿気が溜まり、ランタンの明かりがうすぼんやりと互いの顔を照らす中、族長たちは大きな卓へつき、慎重に数を数え、来ていない部族を確認しあった。


 「十一か……?」

 「呼ばれてないのは、どこですか?」

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