第2章 4-2 ラズィンバーグ周辺諸部族
「ちょうどよい。我らも、仕事は郊外ゆえ」
「それでは、なにかありましたら」
キリペは挨拶をし、出て行った。
また管理人の中年女性が一人で見送り、三人は部屋に残ったが、先日のレスト少年のときとは明らかに雰囲気が異なっていた。カンナが重苦しくうつむいて、二人が見たこともないほど深刻な顔で眉根を寄せている。
四日たった。
パオン=ミがカンナとスティッキィを呼んだ。
もともと食事は三人で行動していたが、それ以外は、カンナは部屋から一歩も出ずに引きこもっていたようである。
四日めにして、カンナは何か吹っ切ったように見受けられた。
「さ、はやく、やっちゃおう! ガラネルだったっけ? ぱっぱとやっつけて……パオン=ミ、調べて、なにかわかった!?」
どう見てもカラ元気だ。
「だがのう、空元気でも元気ぞ」
心配するスティッキィに、パオン=ミがささやく。
そのパオン=ミ、咳払いをして、ラズィンバーグ周辺図を広げる。既に印がついている。キリペが滞在している旅行者用の宿の多い、いわゆる「宿泊村」は、周辺に合計で五つある。また、都市で働く人々の家族がすむ住居村(住宅地)も五つほどある。
また、それとは別に周辺諸部族十四の村々が点在している。
ここで、パオン=ミが調べたラズィンバーグ周辺諸部族について説明しよう。
ラズィンバーグ周辺諸部族と呼ばれるひとびとは、記録に残る最古のものでは、かつて部族数として二十三あったというが、部族同士の長年の諍いや、連合王国末期の混乱期に竜や王国軍に襲撃され、離散したり竜の国へ逃れたり親戚筋の他部族に吸収されたりし、現在は十四部族が残っている。それらは派閥のように別れ、竜属派(さらにグルジュワン派とカンチュルク派がいる)、ラズィンバーグ派、独立派にくわえ、サラティス派も出てきている。それが、ここ数年で、死竜教団が裏で急激に力をつけている。
以下に内訳を示す。
ラズィンバーグ周辺諸部族 カッコ内は派閥 アイウエオ順
アンバル族(独立派)
イパニー族(独立派)
ヴァーチェ族(ラズィンバーグ派)
ゲルツォ族(サラティス派)
スネア族(カンチュルク派)
ゾンナター族(独立派)
ダヂオン族(ラズィンバーグ派)
ナスペンデッド族(カンチュルク派)
バーリン族(死竜教団派)
バンロート族(ラズィンバーグ派)
ホールン族(グルジュワン派)
モルトン族(死竜教団派)
ラドスバー族(ラズィンバーグ派)
ユホ族(死竜教団派中枢)
内訳としては
ラズィンバーグ派四
独立派三
教団派三
カンチュルク派二
グルジュワン派一
サラティス派一
と、なっている。
部族総計で人口は七千ていど。最も数が多いのはラズィンバーグ派筆頭のヴァーチェ族。ヴァーチェ族は都市政府にも官僚を排出しており、周辺諸部族の統括的な役割も担っている。次いでユホ族。そのユホ族がいつのまにやら教団筆頭になってしまっていた。
かれらは伝承によると古代ウガマールより流れてきた人たちに竜属の国の人の血が混じって生まれた少数部族で、現在へ至るまでにサラティスやストゥーリア人の血も少し混じっている。人種としては基本的に全員同じである。濃淡はあるが褐色肌に黒髪、堀の深い濃い顔立ちに、瞳が緑という姿なので、すぐに分かる。しかし、具体的にどこの部族かまでは、慣れないと分からないし、彼ら自身も服装や習慣でしか区別をつけていない。血族的な違いは大差ないとされ、部族間の婚姻も普通に行われている。また、他の都市国家の人とも特に抵抗なく結婚している。言語は、かつては古ウガマール系サティス語が発達した独自の言語が複数に分かれていたというが、旧帝国時代から連合王国時代にかけて強制的に統一され、ほとんどサラティス語を話す。
スティッキィが感心してつぶやいた。
「この短期間によく調べたわねえ。図書館にでも行ってたの?」
「それもそうだが、我のガリアは、火炎をもって敵と渡り合いもするが、そもそも探索用であるからの」
「便利ねえ」




