第1章 4-3 雷の中の怨霊
「ミヨン様!」
「司祭様!!」
まさに信仰によって洗脳された村人が、ランタンやかがり火の明かりに、なによりカンナの電流の光に照らされたミヨンを崇めた。
「下がっておれ!」
ミヨンが叫ぶ。
「し、しかし、大事な、死の儀式が……」
「このような状況で、儀式もなにもあるか!!」
一喝され、村人は逃げるように建物の隅や祭壇の前に集まった。そしてひたすら経を唱え、祈る。
カンナ、電流に包まれたまま、次第にその電流が何かの形となってきた。翼が生え、尾が生え、手足が大きく張り出して……まさに、竜の姿がプラズマで形成される。
「……雷竜……碧皇竜だというか……!!」
全身が電熱と放電でおおわれた、一頭の竜が室内に出現した。プラズマが翡翠色に輝きだす。カンナのガリアを封じたことによって、このような思わぬ効果が現れるとは……。
竜が吼え、プラズマがそこら中へ走って、板壁や床が弾けて燃えだす。金属を使っている燭台へ次々に小さな稲妻が命中し、爆発して吹き飛んだ。
「しかし! こやつもガリアの力であるに変わりは無い!!」
ミヨン、悲壮的に叫ぶと、渾身の力をこめ、ガリア封じの力場をカンナ……いや、雷竜めがけて発した。ブウン、と空間が揺れ、稲妻が削り取られて行く。
しかし、きりがない。まさにカンナの電流は無尽蔵だ!!
黒竜のダール・デリナをもひるませた迅雷の放流!
「こいつ……ガラネル様……こいつは……!!」
稲妻を反射するミヨンの眼の色が、驚愕から恐怖へと変わった。カンナは、いまにもこの仮神殿ごと全てを吹き飛ばさん勢いで電流を放出し続けている。
「おまえたち、ここから逃げろ!」
いきなりミヨンがわめき、村人たちは硬直した。逃げたくとも信仰によって逃げられなかった。それが、逃げろという。本当に逃げてよいのか、精神が硬直したのだ。
「疾く!!」
一番出入り口に近いところにいた若者が、弾かれたように立ち上がって、ドアを蹴飛ばし、まさに転がって逃げた。箍が外れ、我先に村人が出る。残ったのは、何人かの教団幹部と、祭壇に横たわるスティッキィだった。……いや、スティッキィがいない。
「ギャッ……!」
悲鳴がして、ミヨンがチラリとそちらを見やると、幹部である初老の男性が、陰鬱な影に彩られたスティッキィのガリア「死舞闇星剣」に胸を差し貫かれて絶命している様子だった。
「こやつ……!」
スティッキィは充血した眼だけを光らせ、まるで幽鬼のように金髪をザンバラにしたまま、男性の胸元をつかみ、漆黒の細身剣を逆手に持って突きたてている。まだ、意識がしっかりと戻っていないのだろうか、眼はどこを見ているとも知れず、ブツブツと何かをつぶやいている。
だが、ミヨンはガリア封じの力を、スティッキィへむける余裕が無かった。いま、カンナの力場をゆるめると、たちまち感電死だ。
そして、ミヨンは信じられないものを見た。
スティッキィの周囲に、白い影のようなものがたくさん佇んでいる。この、カンナの迅雷の眩しさなのかで、それはハッキリと、切り取られたかのごとく見えた。そして、光の玉のようなものが、無数に飛んでいる。
「これは……!?」
ミヨンも、始めて見る現象であった。
「これも、あやつの……カルマのガリアの力なのか!?」
ミヨンがうろたえ、動揺した。スティッキィは別人のような顔つきで、ミヨンへむけてこう云った。声が、幾重にも重なったように響く。
「わ わ わ わたしたちは……ゆる ゆるさないぞ、わたしたちのいる死の国へ、おまえも引きずりこんでやる や やる やる…………」
「私たち……だと……!?」
ミヨンの顔が引きつった。スティッキィの周囲の白い影が、いまや完全に白い人間の姿となって浮いている。それらは、すべて見覚えがあった。この一年間でミヨンが殺してきた、生贄となった旅人の姿だった。ある者は全身が血まみれで、ある者は怒りと苦悶の首だけだった。男もいるし、女もいた。それらが、ミヨンへじわじわと近づいてくる。
「うぉ……!!」
ミヨンは完全にひるんで、後退った。バチン!! 雷竜の手が弾け、ミヨンの左腕を稲妻が襲った。ミヨンはあまりの衝撃で声も無かった。一撃で左の二の腕が焼け焦げ、肉が砕けて血飛沫と煙を上げた。痺れで痛みすら無いが、とにかく熱かった。よろめきながら、ガックリと片膝をつく。力場がゆるんで、たちまち雷竜が倍の大きさにも膨れあがった。




