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ガリウスの救世者  作者: たぷから
短編「茜色のむこうに」
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茜色のむこうに 4-2 特別な竜

 森の中を蛇行して竜が走る。それが速い。どのような竜か、アートは見当もつかなかった。地面を走る竜は、猪竜しか知らない。いま追っているのはそれほど大きくないし、また猪竜よりはるかに動きが素早い。さらに、足音や動きの気配を察するに、強力に地面を走るその後ろ姿は、鶏のように立っている……。


 完全に日が落ち、森を含めて、人間の営みの無くなった「タービノ村跡地」は、深く静かに闇へ沈んだ。アートのガリアの光だけが、人間の生きている証だった。


 「ちくしょう、どこ行った!?」

 アートは必至の形相で、息を切らせて周囲を確認した。


 逃げる竜は、森をつきぬけて、村の反対側の荒れ地に飛び出た。そのまま走る。アートも森を出て、すかさず追いかける。どうも、逃げる竜はわざとアートが追いつける速度で、誘いながら逃げているようにも見える……。


 そのアートの前に、待ち伏せをしていた数頭の軽騎竜が踊りかかった! 地面へ伏せていたものが二頭、上空で待機していたものが三頭、計五頭による三次元連携!


 三十キュルトはある細長い蛇めいた身体をくねらせて、アートへ群がる。その爪と牙は人間など一撃でズダズダにし、火も噴きつけられる。


 「うらあああ!」

 アートのガリアが光った!


 さらに一枚、防壁が飛び出てきて、三枚の虹色の防壁が竜どもを防ぎ、押さえつけつつ、アート自身は一枚を加工した光の剣を持ったまま反撃! 主戦竜の首すら一撃で叩き切る虹色の剣だ、大蛇に手足と翼がついたような軽騎竜など、ウナギを料理するがごとく、次々と輪切りにした。


 それを見ていた、謎の二足歩行の竜が、ゴンゴン、ゴッ、コココ……と喉と胴を共鳴させて鳴いた。薄い月明かりと、虹色の防壁の光に影を浮かび上がらせるその竜は、アートが見たこともない姿だった。じっさい、サラティス都市政府でも認識していない竜なので、まだ名前がない。体高は三十キュルトほど、長い首、長い尾、長い手足があり、短い二本の角のある頭部は鼻づらが短く、大きな眼がほぼ真正面を向いて人間めいた顔つきをしている。背びれの合間に、小さな翼のような突起があった。影となってよく分からないが、全体につるんとしている。


 その竜が、手に何かをぶら下げていた。ぐったりとしているが、人間の子供だ!

 「てめえ……!」

 アートの顔が怒りに歪む。


 「(なぶ)ってやがるのか!? 竜風情がいい度胸だ……!」

 怒りに任せ、前に出ようとした。


 「あぶない!!」

 またあの声!


 頭を割るようにして響き、アートが身をすくませたとたん、闇に紛れて頭上から空の主戦竜、烏飛竜(からすひりゅう)の巨大な翼と鉤爪が天を裂いて舞い降り、地面を穿(うが)つ!


 飛竜は夜目が効かず、夜に飛ぶことは少ない。特別に訓練された夜間飛行用の飛竜だろう。もう一歩、前に出ていたら、目の前の謎の竜に集中していたアートも危なかった!


 ガルアッ…! 竜が吠え、炎が吹き上がる。地面へ降り、翼手も地へつけて四つん這いの姿勢から首をもたげ、間近からアートめがけて火を吐いた。アートは三枚の防護壁をぴったりと張り合わせ巨大な一枚を作ると炎を完璧に防ぎ、竜が火を吐き終えた瞬間に結合を解くや、合間から跳びかかって竜の顔面を真っ向にたたき割った。竜が叫び、割れた顔面から血と火をふいて、のけ反ってそのまま横倒しになると翼を地面で空しく羽ばたいて、毒の棘のある尾ものたうち、暴れに暴れた。


 アートはかまわず回りこんで、荒れ地に立つ謎の竜めがけて走った。竜は小首をかしげ、距離を測りながら少し後ずさって逃げる準備に入る。


 「……逃がすかよ!」

 アートも、走りざま、持っていた剣を投擲する動作に入った。


 とたん、アートの視界が真っ暗になる。

 重力が消え、真下に落ちた。

 落とし穴だ!


 まさかこの竜が、よく隠された落とし穴にアートを誘導したというのだろうか!?

 竜にそんな知能が!?


 しかし、じっさいこの謎の竜は、バグルスの補佐として、バグルスとふつうの竜とをつなぐ存在として黒竜のダール・デリナによって試作された竜で、知能はかなり高く、バグルスの命令で忠実かつ応変に動く。小型化と量産に失敗して、試作で終わった品種の特殊竜だった。


 カ、カ、カカ……と、特殊竜め、巨大な眼をくりくりと動かして嗤い声のように鳴き、いったんここを離れたバグルスへさし出すために生かしてあるガリア遣いの少女を持ったまま、アートをそのままにして踵を返した。


 「……おい、待て、待ちやがれ!」

 気配に、竜が振り返る。穴の上にアートが立っていた。

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