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ガリウスの救世者  作者: たぷから
短編「茜色のむこうに」
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茜色のむこうに 2 先着待機

 2


 南方大陸の西端にあり、古代より聖地として名高い都市国家ウガマールの、かつて竜皇宮殿だった巨大神殿のさらに奥は、奥院宮(おくいんのみや)として現在も一般人はおろか神殿の通常職員すら立ち入りを禁じられている。そこでもう、何十年も行われている太古の秘儀と実験の数々は、いま、一つの答えを導きだそうとしていた。


 その答えは、密かにサラティスへ向かうことになる。


 若くして神官戦士を教導する身分であるアートは、そのガリアの力と教導のうまさを見こまれ、特別専任騎士として先んじてサラティスでその答え待つことになっている。


 けっきょく二年半、アートはただ答えが出るのを奥院宮で待った。

 いま、ついに先着待機の命令が出た。

 五日の後、旅装を準備し終えたアートは、身分を隠し、密かにウガマールを出た。


 ウガマールからサラティスまでは、陸路と海路とある。最も早いのは船で中継地ラクティスから内海を進み、サラティス南部の港湾施設サランテまで行くもので、海が穏やかだと、だいたい七日でつく。


 すべて陸路を行くと、その四倍ほどかかる。ウガマールからラクティスまで砂漠や大森林を迂回するので、時間がかかるうえ、ラクティスからサラティスまでも直線距離で遠い。


 もちろん、アートは交易船へ乗った。


 交易隊商の構成員は、サラティス人が三割、ウガマール人が七割といったところだった。護衛の兵士はサラティス人がやや多い。しかし、ガリア遣いはほとんどサラティスの女性だった。九割以上がサラティスやスターラのガリア遣いで、サラティスの竜退治組織の構成員であるバスクであり、ほぼ「モクスル」という組織のメンバーだ。


 ウガマールでは距離の関係からか竜の出現がまだまだ低く、ガリア遣いというのは、あまりいない。サラティスの十分の一ほどと云われている。サラティスはいまや竜との戦いの最前線であり、また各地より竜退治の報酬目当てで集まっているので、やたらとガリア遣いがいた。


 ところで、ガリア遣いというのはどういうわけかほとんど女性であり、男のガリア遣いというのは千人に一人というほどだった。これは、なぜなのか定かではない。


 つまり、アートは珍しいウガマールのガリア遣いなうえ、さらに希少な男のガリア遣いだった。


 とはいえ、別に隊商の護衛を務めるわけではない。奥院宮教導騎士はおろか、ガリア遣いということも隠し(というか、そもそも名乗る必要もない)、一般客として船へ乗りこんだ。一人旅は何かと物騒なので、隊商に同行料を払って、同行させてもらう場合が多い。


 貨客船ムーリソン=ポースレ号はウガマールの豪商が船主で、ウガマール産の綿花やコーヒー、煙草等の嗜好品、それになんといっても小麦や大麦、豆などの穀物を大量に積んでいた。一部はラクトゥスで仕分け、北方行の船へ積み替えて遥かストゥーリアまで行く。


 ラクトゥスまでは海岸線に沿って外洋を北上するため、かなり揺れるが、海流があるので速い。そこから船を乗り換えて内海を東へ進むと、海流も波もなく穏やかだが風が少なくゆったりと船旅をすることになる。だいたい、ラクトゥスまで三日、そこから船を乗りかえてサランテ港まで四日というのが、最速の工程だった。


 アートは二度サラティスを訪れたことがあったので、旅慣れていた。


 フード付マントに手荷物の旅装でそれとなく隊商に紛れ、適当な等級の個室をとり、ひっくり返って酒を飲みながら適当に揺られていると、風向きがやや悪かったので沖へ流され、五日半後にラクトゥスへ到着した。ここでしばらく滞在し、荷物の半分を降ろして北方行の貨客船タータンカ号へ積み替える。また、残りの荷物は内海を進む平底船の貨物船へ積む。水深の浅いサティス内海は、外界用の大型船だと潮が引いた時に座礁するおそれがあるためだ。


 そしてムーリソン=ポースレ号は折り返しウガマール行の船となって、サラティスやリーディアリードからの貨物を積んで帰る。


 その手続きと荷役で、丸一日、滞在した。アートは下船して贅沢にも船宿へ泊まり、ウガマールにどこか似ていつつ、サラティスの文化も入り混じった魅力ある街並みを散策して楽しみ、料理や酒も満喫して過ごした。


 ところが、その間にトラブルが起きた。


 翌日の昼には出発だと最終準備をしている間に天候が急変し、すさまじい勢いの海風が吹きつけてきて、嵐になった。この時期の嵐は珍しいという。


 三日後に嵐は収まったが、なんとサランテ行きのアルトン号を係留する綱が切れ、岸壁に叩きつけられて船体の舳先に亀裂が入ってしまった。幸い、浸水はしなかったが、乾ドックに上げて大規模な修繕が必要になった。


 「内海だから波も静かだし、少しくらい傷がついたって、大丈夫だろう、船を出してくれ」


 隊商の責任者が船長にかけあったが、頑として船長は受け入れなかった。


 「だめだ。亀裂が広がったら沈む」

 当たり前の話だった。

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