仇討 3-1 つきとめた居所
番頭へ所有権を移すか、いっそバーチィの死を隠しているのを利用して書類を偽造するかし、なんとか融資を行おうとしたが、その動きを察知したグラントローメラが先手を売って融資の緊急回収措置すなわち「貸し剥がし」をやって、シュタークは資金がショートし呆気なく倒産した。
バーチィが殺されてから、なんとたったの四日後だった。
どうしようもなく、バーチィは倒産の衝撃で自殺したことにされた。
3
その後、半月ほど特に新しい暗殺依頼もなく、オーレアは日課である自分の仇を探して歩いた。メスト内の他の組織へ直接接触するわけにもゆかず、うわさ話や目撃情報を丁寧に集めるほかはない。しかし、あまりこちらの情報が出回ると、相手に伝わって先手を打たれる可能性もあって、そう大っぴらに動けないのもジレンマだった。
吹く風が急激に冷たくなって、晩夏から早秋に到るころあいに、オーレアはまた一人暗殺した。これも、オーレア一人で行った。クラリアは、どうも最近は組織へ顔を出していないのだという。
そしてラビンキィ帝月も終わろうとしていたころ、ハゲネズミから連絡があった。オーレアは期待せず、待ち合わせ場所の、とあるコークス工場の裏手の路地へ向かった。老若男女様々な死にかけの浮浪者や死んだ浮浪者をゴミでも跨ぐように跨いで、オーレアは路地へ到着した。時刻を過ぎてもハゲネズミが現れず、半刻ほど遅れて、ようやくやってきた。
「どうしたの?」
それは、追われるか何かしたか? という意味だった。
「い、いえ、尾行けられてるとかじゃあ、ねえんです……きっとですけど。ただ、もうこれっきりで……」
顔が、見るからに青ざめていた。何があったのかは、聞かないことにした。
オーレアは無言で、五トリアンを出した。しかし、ハゲネズミは受け取ろうとはしなかった。
「大丈夫、手切れよ。いままでありがと」
「そ、そうですかい……?」
びくびくしながら、ようやくハゲネズミが金を受け取った。この男に、そこまで思わせる何かが、あったのだ。
「それで?」
「みつけやしたぜ」
オーレアは一瞬、自分が何を聴いたのか理解できなかった。
その顔を見て、ハゲネズミがもう一度、云った。
「いやした。ただし……スターラじゃあ、ありやせん」
「ど……」
オーレアが厚くどっしりと、ふくよかにふくらんでいる、山のような胸を押さえる。動悸が凄い。
「どこなの……!?」
「サラティスです」
「サラティス!?」
「へえ……」
「ど……」
また、喉を詰まらせる。めまいがした。
「どうして、分かったのよ!?」
「それは云えやせん。殺されてしめえます」
ハゲネズミの顔が、そこだけ、引き締まった。
「そ、そうね……そうよね。ありがと。わかったわ」
オーレアがもう、踵を返した。ハゲネズミはその背中へ軽く一礼すると、その場より去った。
二度と、会うことは無いだろう。
ハゲネズミの情報の信憑性がどうか、という問題は、どうしてもつきまとう。ハゲネズミがどこかの組織につかまり、脅迫あるいは篭絡、または洗脳され、オーレアへガセネタを流している可能性は、少なくない。流す相手はもちろんパウラだ。
だが、オーレアがこれまで独自に探っていた結果、どうもスターラにはパウラはいないようだと思い始めていたのも事実だった。いる痕跡すらないのだ。もしかしたら……? と思っていた矢先に、ハゲネズミのあの情報である。もしこれが罠だったら、とも思うが、それは疑心暗鬼の闇に呑まれてしまい、きりがない。どこかで、決断しなくてはならないのだ。
「サラティスへ行ってみよう」
オーレアの心は固まった。
そうなると、次の問題が現れる。
スターラ市内で非番の時にうろちょろするならともかく、サラティスへ行ってしまうというのであれば、「覆面」に長期休暇を願い出るか、正式に辞めなくてはならない。
答えは、どちらも「不可」だ。
それが暗殺者組織の掟だった。




