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ガリウスの救世者  作者: たぷから
短編「死の舞踊」
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死の舞踊 5-4 黒衣の参謀

 だがその槍を構えるでも無く、ゆらゆらと、ただ小刻みに揺らしている。

 ルーテは油断無く観察した。暗がりに、黒い煙が漂っていた。

 バタバタと、生き残った商会の者たちが倒れた。


 「そ……」

 ルーテが本能的に戦慄した。

 「その動きをやめろ!」


 と、云った瞬間、鼻口より大量の血を吹き出して、そのまま、ばったりとルーテも前に倒れ臥した。既に、死んでいる。


 マレッティは動けるようになった。

 呆然と、ルーテ、そして黒衣の女性を見る。


 「お、おま……いや、あなたは……」

 「我はデリナだ」

 「毒……ですか?」

 「ほう」


 デリナが満足そうに微笑んだ。その虚空のような眼の穴に、意外と愛らしい、くりっとした、澄んだ蒼い眼が現れる。


 「我がガリア『骸煙波毒黒檀槍(がいえんはどくこくたんそう)』を、一見して見抜くか。さすが、我の見こんだだけある」


 「どうして、わたしを?」

 「我が配下になれ」

 「えっ?」


 「金はたっぷりと払う。それに、いろいろと面白きことをしてやるぞ」

 「面白いこと?」

 マレッティは、この女性に、大いに惹かれはじめていた。


 「どうしてこの街に? どこからいらっしゃったのですか?」

 デリナは笑った。


 「よい好奇心よの。おいおい話してつかわそう。ま、この街には、ちょいと仕入れものを、な……。それに、この商会は眼をつけておった。これがあったのでな」


 デリナは、真っ白い手を出して、その手の中のものをマレッティへ見せた。


 マレッティ、瞠目した。おそらくウガマール産の、巨大な勾玉状の黒真珠だった。とてつもない高級品だ。


 「店のおもだった者が死んでしまったのでは、致し方あるまいのう」

 デリナはそのまま、黒真珠を懐へしまいこんだ。


 マレッティも、ニヤリと笑みを浮かべる。駄賃がわりに、宝石類をいくつか失敬しても罰はあたるまい。なにせ、殺されかけたのだから。


 「デリナ様は、命の恩人です。よろこんで配下になりますわあ」

 マレッティは恭しく、ストゥーリア商人の礼をとった。

 デリナは満足げにうなずいた。


 「で、お供をすればよろしいの?」

 「しばらくは、この街で我と共におれ。遠からず、サラティスへ行ってもらう」

 「サラティスへ?」

 「竜退治の組織へ入ってもらう。そこで、仕事をしてもらおうぞ」

 「なんでもいたしますわあ、デリナ様」


 マレッティは、改めてデリナへ礼をした。王侯貴族が滅んだのでいまは行われておらず、作法も失われてしまったが、臣下の礼のつもりだった。デリナが黒竜のダールであると知るのは、これよりすぐであったが、この時点で、マレッティはデリナがただの人間ではないと看破していた。


 「それより、これはどうしますのお?」


 マレッティが周囲の死体を一瞥する。この血の海の惨劇では、さすがに都市政府の衛視が出張ってくるほどの事件だった。


 「なに……我が手の者がきれいに片づけようぞ。ラズィンバーグ政府にも手を入れておる。なにより、愚かなガラネルめの、浅はかな教団ごっこをつぶしたのだから、褒められてしかるべき事案ぞ。マレッティ、そなたの手柄にするが良い」


 「わたしの?」

 「さ、行くぞ」


 もう、デリナが滑るように歩いて、堂々と正面の扉から外へ出た。マレッティが後に続く。暗い通路を歩き、階段を上って、店の中へ出た。なんと、宝石庫だった。こんなところに、地下への隠し通路があったのだ。


 ついでにと、そこらの革袋をひっつかみ、マレッティは棚にしまわれている適当な宝石をがばがばと袋に入れた。


 そして、そろって商会を出て、そのまま路地の闇へ消えた。

 月下、蝙蝠が、二人の後ろを飛んだ。

 マレッティがカルマに所属する、半年ほど前のことである。



 短編「死の舞踊」 了


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