死の舞踊 4-2 襲来
「ギャッ……!」
短剣を落とし、腕を押さえ、男がたまらず下がったので、後ろのナイフを持っている奴とぶつかった。とんだ素人だ。
もう、マレッティが踏みこんで、剣先が風を切って唸る。ナイフ使いのフードの奥へ突き刺さって、すさまじい悲鳴が路地に轟いた。
転げて倒れた二人を踏みつけて、三人目が小剣で躍りかかってきた。が、ヒュバッ! と風切音がして、先の先でマレッティが小剣を持つ相手の右手首を腱と血管ごと切り裂く。さらに返す剣で突きかかり、左肩を貫いた。
これも悲鳴と共にひっくり返って、あとは言葉にもならない。
瞬く間に三人やられ、一団は転がるようにして逃げ去った。
(よわッ……)
マレッティはむしろ、そっちに驚いた。本気でルーテを殺す気があるのかどうか。それとも、まだマレッティの実力を測りかねているのか。
「す、すごい……!」
「先生、すごい、さすがです!」
お付きが感嘆して震えていた。
納剣し、振り返ると、フードの奥でルーテがほくそ笑んでいる口元が、か細い光の中でかすかに見えた気がした。
その夜、無事に帰って、トラインは安堵のあまり泣き出さん勢いでマレッティへ礼を云った。ちょっと大げさなほどだった。
「じゃ、あたしは、例のお店にいますので、何かあったら……」
そう託けし、近くの居酒屋のいつもの席で、今日は鳥肉と蕪や人参の煮物でストゥーリアのワインをちびちびやりはじめた。
マレッティの顔は浮かない。
「なんで、あの道が分かったのかしら……?」
これに尽きる。賊が思っていたよりずっと弱かったことより、そちらのほうが気にかかった。
その夜も、いつも通り専属の楽団による演奏と踊りが始まった。頬杖を突いて、マレッティが見つめる。
その視界の端、柱の陰の奥に、幻影のようにすっぽりと漆黒のフードをかぶった、大柄だが華奢な人物がいた。
「!?」
マレッティは思わず立ち上がった。
目をこすったが、もう、柱の奥の席には、誰もいなかった。
「……?」
わけが分からない。そんなに酔っているのだろうか?
「美人先生、どうぞこちらへ!」
気がつくと、踊り子が目の前にいる。
「え?」
どうも、一緒に踊る客を誘っているところに、ちょうどマレッティが立ったようだ。
演奏のテンポが上がり、他の客や従業員の歓声、それに拍手。
「いや、あたしは……」
「先生、はやく!」
同じ年頃の、ラズィンバーグ周辺少数諸部族のどれかの少女ダンサーが、雅で華麗な民族衣装のまま、鈴のついた半面革太鼓を手で打ちながら面白いステップを踏む。ここで断っても無粋だ。そこは、元娼妓である。そこそこの踊りはできる。
「じゃあ、てきとおよお!」
高い声で云い、愛想をふりまいて、二人でリズムに合わせて踊った。金髪が美しくひるがえって、黒髪の少女と対を成した。
否応にも場が昂揚する。
やんやで盛り上がっているそこへ、トライン商会の若者が、顔面蒼白で飛びこんできた。
「せ、先生!!」
もう、営業笑顔のマレッティが狼めいた顔つきとなり、商会へ走った。
5
「まさか、商会を直接襲ってきたってえの!?」
走りながらマレッティが叫ぶ。
「地下室へ立てこもってます、旦那様と、奥様が!」
「地下室って、どこから入るわけ!?」
「こ、こっちです!」
若者が商会の裏手へ回り、物置のようなところの扉を開け、静かに、という素振りを見せると、ランタンを床へ置いて慎重に小屋の奥にある床扉を開けた。垂直の梯子が見える。
「店の外から行けるのは、ここだけです。お気をつけて……」
マレッティは無言で、すばやく梯子を下りた。若者が、不安げに見送る。




