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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第4部「薄氷の守護者」
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第3章 4-5 追手

 オレンジの光が、そのアリの巣めいた迷宮を迷うことなく二人を導いた。


 そして、とある小部屋のように奥まっている場所で、丸まってクウクウと鳴いている竜を、唐突に発見した。


 「スーリー!」


 パオン=ミが、ディスケル=スタルの言葉で呼びかけると、カンナの見たこともない、白い桃色がかった産毛と鱗の、小太りに見えるどっしりとした身体に大きな翼のある竜は、甘えて跳びかかってきた。


 「ハハハ、こやつ、我を置いて逃げるなんて、よっぽど怖かったのだな」


 全長は、毛長竜や軽騎竜を少し大きくしたほどに見えた。五十キュルトほどか。丸く平べったい顔つきに、眼が大きい。角が三本、後頭部にあり、鼻面にこぶのような角もあった。目を細めて顔をすりよせ、コロコロ、コココ、ボンボンボン……と、喉や胴体を鳴らす。紛れもなく竜だ。やけにパオン=ミへ懐いている。竜は、人間へこれほど懐くものなのかとカンナは驚愕した。


 「これがスーリーじゃ」


 再び妙なインチキめいて時代がかったサラティス語で、パオン=ミがカンナへスーリーの大きな顔を見せた。眼が美しい新緑色だった。


 「見目良いであろう?」


 何も云えなかった。全く意味が分からなかった。竜に見栄えが良いも悪いもあるのだろうか。


 「緑眼竜(りょくがんりゅう)という。ディスケル=スタルでも希少種じゃ。我が家でのみ、飼育をゆるされておる。特に白は希少じゃ。ふつうは茶色か黒、それらの斑、もしくは虎柄となる」


 どうでもいい。早く出よう。心の声が、喉まで出るが、パオン=ミの安堵と喜悦の表情に、もう少し待とうと思う。


 「よしよし、ここを出ような」


 カンナの胸の内を察したわけではないだろうが、パオン=ミが、やさしく顎の下をさすりながら、ディスケル=スタルの言葉でスーリーを促す。しかし、緑の眼の竜は頑として動こうとしなかった。


 「どうした?」

 パオン=ミも、いぶかしがった。

 「狭いところは、好きじゃないだろう? ほら……」

 異国の言葉だが、なんとなくカンナも云っている意味が分かる。


 「あの、もしかして、わたしが、いるから?」

 「いや、心配は無用じゃ」

 パオン=ミが、手を振った。


 「はじめてあいまみえるとて、敵と味方の区別がつかぬ子ではないゆえ」

 その割には、異様におびえている。何におびえているというのだろう?

 答えは、黒剣が教えてくれた。


 まだ音が鳴るというまでもないが、その、右手へ伝わる微妙な振動に、カンナは気づいた。ガリアが素早く、共鳴をつかんでいる。この微かな振動では、距離はかなり遠いか、洞穴の外かと判断できる。しかも、固有振動だ。この共鳴は、どこかで感じた記憶がある。初めての相手ではないだろう。しかし、そこらの竜ではなさそうだ。まさかデリナ……なわけはないと思う。すると……?


 カンナは、背後の闇を振り返った。この奥まった小部屋のような場所では、逃げようにも、このいま来た道しかない。ここを塞がれては、袋のなんとやらだ。


 「あ、あの、パオさん?」

 「パオ=サン?」


 何のことかとパオン=ミの眼が丸くなった。濃い茶色の眼が、自らの白い炎を反射して光った。


 「我を呼んだのかえ? パオン=ミじゃよ。パオン=ミ。云いづらいかの?」

 「いや、あの……何と呼べば?」

 「パオン=ミ」


 「いや、呼び捨てでも? お姫様なんでしょう?」

 「ああ……火華姫(かかき)という(あざな)はあるがの……名前でよいわえ」

 めんどくさいなあ、と思いつつ、その通りにする。


 「パオン=ミ、ちょっと、ここは危ないかも……何か近づいている」

 「追手か」

 さすが、瞬時に察する。


 「なるほど、それでスーリーが……」

 しかも、この怯えようからすると、

 「あの片腕のバグルスやもしれん」


 カンナ、シードリィは倒したと思っているので、いまいち話が見えなかった。


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