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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第4部「薄氷の守護者」
234/674

第2章 4-2 3対1

 さらに、横から吐きつけられた炎をものともせずに、その雪原竜の大口めがけて跳びかかるや、手首の周囲からずらりと刃物が出て、それが回転しながら拳を覆って、ウガマールの教導騎士アートを思わせるドリルパンチだ!!


 雪原竜は上あごから上をふっ飛ばされ、またも雪煙を上げて横倒しに転がった。

 まさにカルマ級!


 瞬く間に主戦竜を三頭も倒し、第二大隊は沸き立った。


 大隊は△の陣形を崩さず竜の群れへ突撃し、一頭へ必ず数名で襲いかかって、確実に仕留めていった。


 数と数の勝負になったが、なにせアーボが一人で次々に竜を屠ってゆく。まるで、猟犬が鴨でも仕留めているかの如く容易に。


 さすがに、フルトをいいように殺していたバグルスが、まさにすっとんできた。


 まずは兵卒バグルスが三体。エサペカを殺した緑、それに赤と黄色が白肌に混じった三色のやつ、そして灰色の鱗が顔の半分を斜めに覆っているものだ。


 一人に兵卒とはいえバグルスが三体では、並のガリア遣いでは絶望必至の状況だが、そこはアーボ。新レントー流師範として、実は人の形をしたバグルスのほうが戦いやすい。


 ここは一人でバグルスを引きつけるのが仕事だった。


 隙間なく全身をぴっちりと覆う特殊な青の鎧が、三方を囲むバグルスを相手に、独特の構えを披露した。中腰に重心を落とし、つま先立ちにひざを緩やかに曲げ、右手を上段に、左手を下段にして何かを抱えるようにして小首をかしげ、まるで椅子に座りかけて実は椅子が無いのに気づき、驚いたまま固まってしまったかのような珍妙なポーズだ。


 相手が人間で、少なくとも戦士の経験があるのなら、その構えに一体何の意味があるのか逆に躊躇するようなほどの奇妙さだが、何の意味があるのか理解するという発想から存在ないバグルス、若干の時間差で三体がほぼ同時に動き、アーボへ躍りかかった。


 アーボが、水が流れるようにするりと動いた。先ほどの主戦竜を相手にしていた激しい動きとは一転し、まるで舞いだ。


 引き裂く動きで手を出してきた灰色バグルスの右腕へ、かわしながら肩からすっと密着するとくるりと体を入れ替え、攻撃の方向を変える。そのままバグルスの背中を前に押し出すと、なんと三色バグルスと灰色が豪快に衝突して、二体してもんどりうって雪を舐めた。


 そして尾で強力に地面を打ち、瞬時に頭上をとった緑バグルスへはその場でバック宙がえりを打ち、足先からは鋭い鉤のついた刃物が出現する。短い悲鳴と共に、血を振りまいて緑も雪面へ転がって呻いた。


 そして、起き上がりざまに跳びかかってきた三色はカウンターでリーチを活かし右拳を叩きこむや、連続して左、右と殴りつけ、最後には近距離からの跳び膝蹴りを見舞う! さしものバグルスが顎と頬をつぶされ、ぶっ飛んで転がったまま動けない。そこを容赦なく三人のフルトがガリアの剣や槍を突き立てて、まず一体を仕留める。


 そして灰色が、三色の仇といきりたってアーボに迫るも、完全に格好の獲物状態。


 両手の脇を締めて両手を突きだしつつ後の先でぶちかますとそのまま間合いに入って抱きつくようにして密着し、すかさず脚をひっかけ、倒れこみざまに体を入れ換えて相手の後ろへ回ると体重をかけて押し倒し、うつ伏せに小柄なバグルスを組み伏せるや、その細い首へ両腕を回して一気に締め上げた。


 並の人間ならこれだけで締め落とされ首の骨を折られて死ぬが、そこはさすがにバグルス、耐える。


 が、腕の内側に大きなナイフのような刃物が付き出て、アーボが気合で全身を揺さぶりながら振ると、ザッ、ぐシュ、と鈍い音がして刃物がくいこみ、たちまち灰色バグルスの首が切断された。


 そこへ先程のアーボのムーンサルトで横腹を切り裂かれた緑が、傷口より腸を吹き出しつつも必死の覚悟で襲いかかる!


 瞬間、アーボは煎り豆めいてそのうつ伏せの姿勢から空中へ飛び上がった。


 そのままくるくると回転して着地し、緑へ向き直る。もう、緑の兵卒バグルスは恐ろしげな爪と牙をむいて、アーボへ迫った。


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