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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第4部「薄氷の守護者」
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第2章 3-1 フーリエ

 並べられた遺体を見下ろし、アーリーは唸った。

 「見た目はウガマール人に近かったけど、向こうの言葉を話してたわあ」


 既に取り巻きが何人もできたマレッティが、そのフルト達を引き連れて遺体を見回り、つぶやいた。


 「会ったのか」

 「会ったわよお。顔はよくわかんなかったけど……」

 「ふうむ……」


 竜に殺されたフルトより、一人の暗殺者に殺されたほうが多い。皮肉なもので、暗殺組織メストを有する暗殺都市のガリア遣いが、暗殺でいいようにしてやられたことになる。


 「フルトの被害の半分以上が、竜ではなく一人のガリア遣いとはな……」


 脆い。


 口には出さないが、痛感せざるを得ない。


 けっきょく三人の大隊長はすべて後方の異変に気づきつつも、そのままアーリーへ任せて部隊を進め、予定通りに布陣した。さすがだった。これで大隊が戻るところを後ろから攻められたら、さらなる混乱に襲われる。


 一頭立ての犬ぞり伝令を細かく走らせ、トロンバーの状況を伝えると同時に布陣先の状況も知らせる。破壊された司令部に代わりヴェグラーの事務所を使おうとしたが、そこも無残に倒壊しているうえに半分ほど氷漬けになって、厚い氷が瓦礫を覆っていた。二階にはライバが療養していたはずだったが、生存は難しいと判断し、そのままにした。


 司令部は、ライバとカンナが泊まっていた宿が無事だったので、そこへ置くことにした。


 いそがしく動きまわっている間に、すぐ日が暮れる。

 そのころには、いよいよホルポスの本隊がトロンバーへ迫った。



 トロンバー急襲の翌日未明には、各大隊は当初想定通りの位置に布陣した。向かって真正面のリュト山脈山麓へ通じる森林街道に第二大隊アーボ隊。向かって左側の湖畔に、ユーバ湖方面からの襲撃にも備えた第一大隊フーリエ隊。向かって右側には、雪原と森林へ避難した町民の護りも負う第三大隊クラリア隊。


 矢印のように、アーボ隊がやや突き出ている。


 アーボは身体能力を格段に高め、全身に武器が仕込まれている鎧のガリアを駆使し、肉弾戦により竜を倒す正統フルトで、サラティスでのバスクの経験がきっと役立つだろう。


 だが、軍団長としてガリア遣いを率いる能力が未知数なのは既に記した。

 もっとも相手は人間ではなく竜だ。けっきょくは、個人のガリアの強さが物を云う。


 トロンバー急襲が突如として始まったのと同じく、ホルポス本隊の攻撃も突如として始まった。

 意外にも、最初に襲撃を受けたのは左翼のフーリエ隊だった。


 ここ数十年、内海のように巨大なユーバ湖では噂以外で水生竜がいないことは確認されていたが、やはり攻めてきたのは毛長竜の群れだ。飛竜、走竜とも、数十という規模だった。いくら毛長とはいえ、これほどの数はフルト達の誰も見たことが無かった。


 「ひるまないでえ~、落ち着いて、対空陣を後ろに、ガリアを構えてー~!」


 若いフーリエが指示を出すも、いまいち声が通らない。すぐに大柄で年かさな副官がその通りに大音声で叫び、かねてより訓練通りに赤と黄色の旗を何本も上げ下げし、太鼓をたたく。


 まるで何万もの軍勢が移動するような方法だが、文献を調べて、軍団の差配に大昔はこういう方法をとっていた、というのを実践しているだけだった。


 そもそも大隊はそれぞれ百人程度であるし、中隊・小隊に分けて勝手な行動は厳に禁止してあるので、そこそこ、フルト達は指示通りに動いた。にわか軍団としては、まあまあだ。


 だが相手は、ただの動物の群れではなかった。


 明らかに、飛竜たちが戦闘隊形できれいに陣容を敷いて飛んでいる。すると走竜もだろう。バラバラに近づいてきていたが、ある距離から明らかに隊列を組んで三列に並んでいる。


 飛竜軍団の先頭で、一頭の飛竜が細かく方向を変え、時には地上近くまで下り、また上がって飛竜たちを誘導している。その背中には、なんと人間が乗っている!


 あのガルドゥーンだった!


 何事か叫び、かつ角笛のようなものを吹いて竜の群れを自在に操っている!


 「な、なあんなのあいつ~!? ガリア遣いじゃないの~!? 竜に乗るなんて……あんなのがいるなんて聞いてな~い!」


 フーリエが目を丸くしてわめいた。


 せめて天候が悪ければ、飛竜は出張らなかったかもしれないが、運の悪いことに晴天で、かつ上空には竜が舞うにはちょうどよい風が湖から吹いている。


 「来るわよ~!!」

 竜が襲ってきたら、もう乱戦だ。


 その竜とガリア遣いたちの声、そしてガリアのあげる炎や爆発、光やら何やら、さらに竜の吹く火が、アーボ率いる第二大隊からも聞こえ、見えた。


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