第2章 2-2 竜騎兵
斬竜剣の炎が流れる。風ではない。
ガリアを感じていた。
正確には、いまそのガリアがアーリーを襲おうとしている。敵のガリア遣いだ。
案の定、ガリアの気配が迫ってくる。吹雪に紛れて視認するのは困難だったが、三本の短矢のようなものが弧を描いて建物の陰からアーリーを襲った!
「ぬぁあ!」
目を炎色に輝かせ、アーリーが炎の斬竜剣を振り、その矢を叩き払った。
すぐさま、別方向から二本、矢が襲ってくる。
ふりかえりざま、それも叩き落す。
すると今度は全く別の三方向から三本、時間差で飛んできた。
アーリーが周囲に炎の壁を作り、それらをも容易に燃やし尽くす。
それから、気配が止まった。様子見か。
吹雪が弱くなってきた。
「時間稼ぎか? どこに隠れているのか、探知できないとでも思っているのか? こちらから攻めてもよいのだぞ? お察しのとおり、こっちは時間が限られているのだからな……どこの竜騎兵かしらないが、遠征するには少し遠かったようだな」
すると、気配がスッ、と消えてしまった。去ったのだろう。
(図星のようだな……)
竜騎兵……すなわち竜の国に広く存在する、竜に乗るガリア遣いだった。
ホルポスが、どこぞの竜側の国から呼んだのだろう。
そんなものが紛れているのなら、状況はやや厄介だった。ガリア遣いがこの闇に紛れてしまっては、ヴェグラーのフルトと見分けがつかない。混乱に紛れ、殺し放題だ。
が、今はあの氷河竜だ。さしものダールと云えど、大王火竜や大海坊主竜などの超主戦竜種は、一筋縄ではゆかない。あの氷河竜も、そう簡単にはゆかないだろう。
アーリーは、ひときわ大きく自らの発光器による影にその氷柱めいた棘だらけの半透明に薄蒼く氷色の姿を浮かび上がらせる竜めがけて走った。
マレッティは、とにかく竜を殺しまくった。片っ端からだ。既に雪原竜二、恐氷竜を一、毛長走竜を五は切り刻んだ。一人でそこまで竜と戦えるガリア遣いは、スターラには存在しない。
しかしトロンバー残留部隊を率いるという考えは毛頭なかった。そもそもそんな指揮能力はもってないし、向いていない。
ただ、残ったフルト達にしてみれば、それが逆に有り難い。
こんな状況で、(無線機もない世界で)無理に残存部隊をまとめようなどとしたところで、逆に混乱し、やっているうちに朝が来てしまうだろう。そういう、いわば通信の力を持つガリア遣いもいるにはいるが、いまはいない。
とにかく、個々人がその場その場で、できる限りをするしかない。
サラティスのカルマの強さが、自然に人をマレッティの周囲に集めた。
とにかく、マレッティのガリアは明るい。
夜襲を仕掛けるには不向きだが、夜襲を迎撃するには最適だ。
空中へ浮く幾つもの光輪を目指して、続々と町内残留組が集結する。元より、普段は独自に竜を退治しているだけあって、何を云われなくともそれぞれ竜と戦っている。問題は、ふだんは毛長竜しか相手にしていないフルト達が、初めて目の当たりにする主戦竜、そして氷河竜に完全に気圧されていることだった。
が、それも、マレッティにしてみればモクスルの連中と同じ扱いだ。
自然と声が出る。
「ちょっとアンタ、下がんなさい! 邪魔だってえの! アンタは前に出て! もっと気張りなさいよ! アンタはそいつを手伝って! あのゴッツイのは火を吐くわよ! アンタ! 楯のガリアなら火くらい防いだらどうなのよ!! あー! あっちのデッカイのはアーリーにまかせて、近寄るんじゃないわよ!!」
マレッティが鬼気迫って目を吊り上げ、そう喚き散らしながらまた一頭、体高七十キュルトはある恐氷竜の長い鶴みたいな首を根元から一撃で切り落としたものだから、フルト達は圧倒され、とにかく指示に従う。
そして、アーリーだ。
既に何人ものフルトを冷凍刑に処した氷河竜めがけ、アーリーが「炎熱の先陣」の名に相応しい吶喊を見せる。これはとうぜん、他のフルトへの鼓舞も含まれている。竜の息と見まごう炎がガリアより吹き上がり、氷河竜へ叩きつけられる。さらに、その脚めがけ、真っ赤に焼けた斬竜剣が叩き付けられる。水蒸気が上がり、竜が甲高い悲鳴を夜空に響かせた。
超主戦竜種は、ダールのガリアと云えど容易にはその攻撃を通さないほど鱗が硬く厚い。まして、氷河竜は体表へさらに分厚い氷をまとっていた。アーリーの一撃で、その氷の一部が剥がれ落ちただけだった。
「これは……!」
アーリーも驚く。




