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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第4部「薄氷の守護者」
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第1章 7-4 ホルポスの怒り

 アーリーの炎の剣めいた鋭い視線がマレッティを射抜いたが、マレッティも負けじと睨み返す。けして動揺はしない。マレッティとそのサラティス攻撃竜軍指令のデリナは、通じている。アーリーがそれをどこまで掴んでいるのか、マレッティにはようとして知れない。


 「……デリナの高完成度バグルスは、おそらくサラティス攻略ではなく、別の任務に就いていると思われる。……何をしているのかまでは知らないが、な」


 マレッティは無言だった。が、アーリーのその言葉で、ピンと来た。デリナが以前、あの連絡鏡のガリアを通して、そのような意味のことを何気に語っていたことがあるのを思い出したのだ。


 (なぁる……デリナ様は、ガラネルと同じで、バグルスにほかのダールを探させているんだわ。きっと、黄竜のダールね。そもそもダール統括の権限を有するという、最強のダール……その権限が強すぎるため、滅多に表に出てこないという……)


 それを仲間に入れるか、さもなくば排除するか、アーリーの味方についてしまうかで、戦況は大きく変わってくるだろう。マレッティは納得した。


 (デリナ様にとっちゃ、ホルポスなんかアーリーへの当て馬……最初から時間稼ぎだったんだわ。さすが……権謀を司る黒竜のダール……)


 納得し、作戦を知って安堵すると共に、不安にもなる。もしかしたら、自分もデリナにとってただの駒、使い捨てかもしれない。いや、あのデリナの性格からして、その可能性は高い。


 (ま……そのときはそのとき……どうとでも……なる……)


 マレッティの眼が、深い虚無に沈む。アーリーはそんなマレッティから目をそらし、静かに瞑想した。

 それを受け、レブラッシュが素早く指示を出す。トロンバーでの迎撃戦が、決定した。



 逃げ出した、白肌に緑の鱗をところどころもつ兵卒バグルスとシードリィは、山脈近くで合流した。シードリィにしてみれば、こやつは敵前逃亡にあたるため、その場で処置しようとしたのだが、その決定権はホルポスにあり、とりあえず怒りを納め、とにかくホルポスへ謁見する。


 ホルポスの部屋に通された二体のバグルス、シードリィは片膝をつき、緑の兵卒は額を氷の床へこすり付けるほどに平身低頭の土下座状態だった。これは文化とか礼節ではなく、竜が上位の個体へ示す絶対服従のポーズから来ている。


 「二人とも、生きててよかった。いまはゆっくり休んで」


 許されたどころか労わられたと知るや、緑のバグルス、感銘と安堵でキュウキュウと泣き出した。


 「……泣かなくていいから。下がりなさい」

 「……ハイ……」


 何度も服従の意を示し、緑が下がる。

 シードリィとボルトニヤンが、優し気な眼でそれを見送った。


 「シードリィの腕を治す方法はあるの?」

 「残念ながら」

 ボルトニヤンが首を振った。


 「ごめんなさい。私に力も技術も無くて……」

 塞ぐホルポスに、シードリィ、眼を向いて、叫んだ。


 「な、なにを仰せでございます、我らはホルポス様の道具、下僕にもつかぬ道具にございます! さようなお考えは無用でございます! このような無様な姿を晒してしまい、我こそ……なんとカルポス様へ申し開きを……!」


 「道具だって……大切な道具に変わりない。お母さまの残してくれた、貴重な道具。それに……あんたたちは道具じゃない。私の……家族なんだから」


 「……!!」


 シードリィは大きく息をのみこみ、絶句していたが、やがて声を振り絞った。

 「……おお……偉大なるわが主……なんという……恐悦……」


 そのまま、感動と恐縮で胸がつぶれそうになり、片膝のまま深く頭を垂れた。ボルトニヤンも、ホルポスへ跪く。


 そんな大切な存在を傷つけられたホルポス、怒りと殺気がまさに凍りつき、ピシッ、ピキッと空気を軋ませた。


 「トロンバーへ決めた」

 その言葉に、無言でシードリィが立った。

 方針は決まった。


 竜は、大小様々、百はそろっている。

 トロンバーごときは、問題ない。

 問題はカンナだった。


 「ホルポス様のお手を煩わせるまでもございません。夏場ならいざ知らず、厳冬期にわれらとやりあう愚かさを、噛みしめさせてごらんにいれましょう。差しでぶつかればこちらが不利となっても、いくらでもやりようはございます」


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