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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第4部「薄氷の守護者」
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第1章 6-1 敗退

 ライバは、見ていられなかった。


 エサペカは声も無く背中からひき裂かれ、五体バラバラにされた。血と勝利に興奮したバグルスどもの甲高い哄笑が雪原に響いた。


 (カ、カンナさんは……!)


 まだ、遠くより連続して雷鳴が轟き、閃光が炸裂している。向こうも勝負はついていないようだ。


 と、三体のバグルスども、一目散にライバめがけて迫ってくる。

 ライバは、その場より逃げるしかなかった。

 瞬間移動した後は、ライバの赤が雪を染めていた。



 6


 雪の中、シードリィとカンナは膠着したままだった。


 その間、二人の精神と肉体の内には、互いに分子振動と音響共鳴の力が溢れ出る寸前まで溜まっていた。


 シードリィの足元の雪が、沸騰を始める。

 振動の力がこぼれ出てきていた。


 カンナの共鳴も同じだった。降りしきる雪が耳に聞こえない超音波めいた振動で続々と砕ける。放電がいまにも始まりそうに、電離物が周囲にあふれていた。


 振動対共鳴だ。

 膠着はすぐに破られた。

 雄たけびが、互いに釣られるように沸きあがった。


 すかさず、シードリィが動く。遠距離攻撃をやめ、直接カンナへ振動を叩きこむことを選択した。もちろんカンナもそれをさせない。高完成度バグルスの獣めいた動きは、カンナの眼では追いきれない。ガリアが自然に共鳴し、照準を合わせる。超高圧電流が、まさに電竜と化して襲いかかる。空気が裂け、()し潰され、破裂し、轟音が連続して衝撃波をばらまく。


 迫り来る電竜の牙を、シードリィが次々に避ける。凄まじい電磁波と衝撃に、分子振動も届かない。その両手の竜爪(りゅうそう)へ超高周波振動を集中させ、カンナへ直接攻撃する一瞬の機会を探す。


 ゴロアッ……!! ガ、ガガラア……!! 


 爆音にカンナの叫びも聞こえなかった。メガネが光を反射し、瞳が蛍光翡翠に輝く。縦横に電流が飛散して、その合間より球電が無尽蔵に発生した。


 それらが雨あられと飽和攻撃めいてシードリィめがけ降り注ぐも、しょせんは人が感覚でばらまけているにすぎなく、シードリィが竜の超感覚ですべて避けてしまう。


 ジグザグに、ただ攻撃を避けているように見せかけて、シードリィは執拗にカンナの周囲を離れず、距離を詰めていった。カンナの攻撃は無限に思えるが、呼吸というか、波がある。その波を見切って、波の狭間にシードリィは潜りこんだ。カンナの、強大なちからを子供の癇癪のようにただばらまくという戦い方が、未熟であり、甘いのだった。


 「シィュアア!」


 必殺の間合いに入った瞬間、シードリィは呼気と共に一足跳びでカンナの死角へ入って、そこからカンナが振り返る前に、サッと翻ってさらに振り向いたカンナの死角へ移動していた。振り向く方向を読んだ、高等な近接戦闘の技術だ。


 シードリィの爪が高周波を伴って唸る。


 カンナの黒鉄色の髪の一部がごっそりと刈られたが、爆音を抱いてもんどりうってふっとばされたのはシードリィだった。


 音響が、黒剣が、無意識にカンナを護った。ガリアが、夢想の域に達する。

 転がって高周波をまとう指先が雪面に触れ、一瞬で沸騰、爆発する。


 体勢を立て直し、低い姿勢でシードリィ、改めてカンナへ向け分子振動を操る力を放った。一方は片手を雪面につけたまま、雪が沸騰しながら驀進し、一方は片手をカンナへ向けて空気中を伝道させる。もう一度接近するため、隙を作る。カンナの意識の撹乱を狙ったものだが、


 「ウ、ウッ……!」


 巨大な球電が浮かび上がって、カンナの影を漆黒に彩っていた。太陽を背にした古代の戦士に見えた。その中で、両眼が翡翠に光り、さらに眼鏡を丸く浮かび上がらせ、シードリィを突き刺す。右手の黒剣が、微細な電光で球電へエネルギーを供給し続けていた。


 こんなものを食らっては、跡形も無くなる。


 シードリィは攻撃をやめ、即座に撤退へ転じた。とんでもない速度で走り、たちまち、小さくなるまで逃げる。


 瞬間、直径三十キュルトはあろうプラズマの塊が、歪に形を変えながら電磁波の帯に乗り、一目散に走るシードリィへ飛びかかった。


 瞬間、ひときわ強烈な爆発が起き、爆炎と黒煙が上空へ立ち上る。轟音が何度もこだまして雪原を薙いだ。数十キュルトも積もった雪ごと地面までえぐれ、その音と煙はトロンバーでも聞こえ、見えたという。


 まだ殺意に瞳が光っているカンナが、雪を踏みしめて、いま自らが作り上げたクレーターを目指す。熱波が真冬に陽炎となって冷気を侵している。その熱波の底に、シードリィの焼け焦げた右腕の肘から先が、落ちていた。


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