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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第4部「薄氷の守護者」
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第1章 5-3 雪の中の死闘

 空が明るくなる。


 轟音と振動が容赦なく届いてくる。カンナと、高完成度の上位バグルスが決戦を行っている。


 (カンナさんの、足手まといにだけはならない……!)


 エサペカは気合を入れなおした。たとえやられるにしても、武術都市の面目にかけて、せめて一体は道連れにして見せる。


 しかし、それはこのバグルス達も同じだった。


 カルマであるカンナにはかなわないにしても、こんなモクスルくずれに殺されていては、とてもではないがホルポスに合わせる顔がない。


 そんな殺気立つバグルス達がエサペカに集中するのを防ごうと、ライバが素早く移動を繰り返し、撹乱した。が、ライバもしょせんは暗殺者であり、竜を専門に倒すガリア遣いではない。ましてバグルスと戦うのは初めてだ。


 それぞれ緑、赤茶、黒い鱗が白い肌に混じるバグルス達は、緑が腹を突かれ、赤茶が右手首を折られ、黒が左足首を失ってと、全てが手負いであるものの、竜の生命力はその程度の傷ではお構いなしに攻撃する。


 エサペカは冷静を装っていたが、身体は正直で、杖を構える手がガクガクと震えている。寒さでは無い。


 ライバはなんとかエサペカを援護しようと、小刻みにバグルスの合間を移動した。

 いくらガリアというものが竜の肉体を易々と破壊するといっても、届かないのでは意味がない。


 移動しながら距離を詰め、機を見計らって先ほど足を叩き切った黒バグルスへあらぬ方向へナイフをぶちこむと見せかけて、バグルスが反応した瞬間にまた姿を消し、エサペカが手首を折った赤茶に横から襲いかかった。


 が、読まれた。


 赤茶がガクリと倒れこむように位置を変え、姿を現したライバめがけてその太く長い尾を叩き付ける。


 「!!」


 ライバが反射的に瞬間移動したが、足をひっかけられ、移動が失敗した。移動しかけで一回転し、やや離れた場所で脳天から雪につっこむ。もしこれが地面や石畳だったら、即死していたかもしれない。


 すかさず襲いかかる赤茶の竜爪(りゅうそう)による蹴りをガリアで牽制しつつ、ライバはとにかくその場から逃れた。しかし、ガリアを遮二無二振り回しているだけでは、バグルスには通用しない。瞬間移動で大きく距離をとる瞬間、ブッチャーナイフを持つ右手を赤茶の蹴りが引き裂いた。


 エサペカには悪いが三百キュルトは距離をとった。激痛と共に右腕から血が噴き出て雪原を赤く濡らす。とにかく止血だ。また一刻も早く化膿止めを処置しないと、腐敗性細菌の温床である竜の歯牙(しが)による傷では、腕ごと壊死(えし)してしまいかねない。


 と、物資はすべてカンナが稲妻で燃やしてしまったのを思い出した。

 自分一人でトロンバーへ逃げるか、どうするか。


 エサペカ次第でもあったが、そのエサペカ、既にバグルスに猛攻撃を受けている。

 赤茶がライバを襲った瞬間にはもう、緑と黒がエサペカを襲っていた。


 エサペカが無垢白樫波動杖(むくしろがしはどうじょう)を振りかざし、どうにか下がりながら二体のバグルスを相手にする。波動をくらっても打撃をくらっても、二体のバグルスは執拗に距離を詰めた。


 そしてバグルスどもめ、緑と黒がほぼ同時に両脇へ距離をとって、一気に突っこんできたので、エサペカ、雪面を杖先で引っかくように突いて衝撃をもって雪を舞い上げ、目くらましとする。バグルス達はかわまず両横から飛びかかる。エサペカは下がってそれをかわしながら、自らが消えたことによって虚をつかれたバグルスに刃のように細く集約した波動を突きこもうと後ろ足に力を入れて手槍に構え直した。


 しかし、舞い上げた雪が散ってしまっても、バグルスは現れない。それどころか、いない!

 ライバからは見えたが、バグルスはその強力な尾を雪面へ打ちつけて、一瞬で上空に舞っていた。


 気配を感じ、エサペカが杖を頭上のバグルスへ向ける。

 そこに赤茶が横から飛びこんできた。


 緑と黒は囮だ!

 手を折られた恨みとばかりに、その上を向く喉元へカミソリめいた牙を当てる。


 エサペカは、寸ででガリアの杖を両手で水平に持ってバグルスの攻撃を防いだ。だが力負けする。波動は、両端からしか出ない。左手でガリアをつかみ、赤茶は杖を捻じりあげてエサペカからガリアを奪おうとした。


 「こいつ……!!」

 エサペカは顔を真っ赤にして、それに耐える。

 そのときには、後ろから緑と黒がエサペカへ躍りかかった……。


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