第2章 5-5 五人目
さらに、裏カントル流では、試合で禁止されている「卑怯」とされる技を容赦なく繰り出す。こちらは戦場の剣術だ。通常は使わない左手で目潰し!
「チィ!」
それを避けて、のけ反るリットラ。だが、のけ反りながらも「引き突き」で剣を出すのが師範だ。マレッティはあわててそれを避けた。リットラの剣先が、脇腹をかする。体勢を崩したので追撃できず、仕方なく下がって間合いをとった。
(攻めきれなかった……!)
後悔に顔をゆがめる。もう同じ手は通用しまい。正規の師範相手では、やはり純粋な剣技だけでは苦しい。
互いに構え直し、じわじわとリットラが機を伺う。マレッティも、反撃する手を巡らせる。久しぶりに味わう、凍りつくほどの緊張感に、マレッティは痺れた。
「……イェヤ!」
突きかかる瞬間のリットラの足元めがけ、マレッティ、絶妙のタイミングで身を屈め、後ろ回し足払い! だがリットラはそれを予期して、小ジャンプで避ける。
「なめんな!」
マレッティはそのリットラめがけ、低い姿勢からねじり上がって強力な後ろ回し蹴りをお見舞いした。下段から中段への連続回し蹴りだった。それが空中のリットラの横腹へ見事にきまった!
横踵蹴りをまともにくらい、リットラは壁に叩きつけられて頭部をしたたかに打ちつけ、路地へ転がった。息がつまり激痛がする。肋の一番下が折れたか。しかもまさか、こんな高度な技まで会得していたとは。
マレッティが無言で横たわるリットラめがけて突きかかる。
リットラは転がって避け、なんとか立ち上がると痛みに耐えて、逃げに入った。が、脳震盪でもおきているのか、眼前が暗くなって意識がとびかける。そこへ、袈裟斬りにマレッティの一撃が背中へ入る。だが浅い。
「逃がすわけないでしょおおがあ!!」
マレッティの猛攻! リットラも振り返り、逃げるのは不可能と判断して痛みも何も無く再び激しい剣の打ち合いになった。
だが、リットラが押される。力が入らない。意識が薄らぎ、集中できない。
ついに、豪快な巻き上げでリットラの剣は跳ね飛ばされて、右手から離れてしまった。
たまらず膝から崩れて尻餅をつく。
その喉元に、マレッティが剣先をつけた。
すると、パ、パッ……と剣が光り始める。
円舞光輪剣が、甦りだした。マレッティが会心の笑み。
「……あんた、ガリアが弱まっているよおねえ。これは、剣と剣の戦いに見えて、ガリアとガリアの戦いだった……。あたしのガリアを完全に封じこめられなかった時点で、あんたの負けなのよお」
「……そのようね……」
リットラ、荒く息をついて、上目でマレッティを見る。激しい頭痛を伴って、二重に見える。
「じゃあね、師範さん」
マレッティが光輪を出そうとした瞬間、そのリットラの首が何かに切り裂かれ、勢い良く血を吹き出した。そして、リットラは何事が起きたかもわからずに、眼を半眼にしたまま、ゆったりと横たわる。
マレッティは身構え直した。リットラが死に、紅玉付蝶形金簪は消えて、円舞光輪剣は復活してまばゆく輝く。
「……五人めえ? 大した人気者なのね、あたしは」
路地の奥から、フード付マント姿の人物が……。マレッティはその自らと同じほどの背格好の人物を見たとたん、違和感に気分が悪くなった。いま、この女は何を飛ばしたのか? まったく見えなかった。なんのガリアなのか!?
「あんた、お仲間が負けたからって、すぐ始末することないんじゃなあい?」
人物は答えない。その右手に、またもや細身剣がある。しかし、剣身は真っ黒に光を吸いこんでいる。ガリアだ。カンナの黒剣のような美しい艶やかさは一切なく、炭のようだった。
「それ以上、近づくんじゃないわよ!!」
マレッティが光輪を飛ばしつけた。人物も剣を振る。剣先から、真っ黒な星型の薄い物体が飛び出てきて、寸分違わず光輪とぶつかって、たちまち対消滅する。
「えっ?」
マレッティ、意表をつかれ、惚けた顔となる。
人物のガリア、それにそのちからが、あまりに自分と似ていると思った。
「え……と……メストよね?」
「そおよお」




