61話 アルバイト③
2つ前と1つ前のタイトルを『夏休みスタート?』から『アルバイト』に変更しましたので、連続で投稿したというわけではありません。
【追記】話数を間違えていたのを修正しました。
「ここがお母さんの言っていた場所か……って」
バイトをするって決まった僕はお母さんに「まずは挨拶をして来なさい」って言われてそのバイト先の住所まで歩いてきたんだよね。それで、いざその住所に着いたまではよかったんだけど……
「ここって、確か枡岡さんの喫茶店だよね?」
辿り着いたのはいつか健吾と一緒に逃げ込んだ枡岡さんの喫茶店だったんだ。まさかお母さんと枡岡さんが知り合いだとは思っていなかった僕はお母さんに教えてもらった住所を確認したんだけど、やっぱり間違えていなかったんだよね。
どうしてお母さんがここを指定したのかはわからないけど、中に入れば枡岡さんが教えてくれると思った僕は意を決して中に入ったんだ。すると
「あっ、やっと来た!ほらっ、京ちゃんこっち、こっち!」
以前に来たときの記憶ととまったく同じ位置にいた枡岡さんにそう声をかけられたんだ。でも喫茶店に入ってすぐに話しかけられたのもあって咄嗟に反応できないでいると
「ほらっ!そこで突っ立っていないで早くこっちに来て来て!ほとんどお客さんなんか来ないけど、万が一来ちゃったときには邪魔になっちゃうからね」
「えっ!?あっ、ごめんなさい!」
枡岡さんにさっきよりも少し大きめの声でそう言われたところでようやく我に返った僕は、一言謝ってから急いで枡岡さんのいるカウンターまで行ったんだよね。僕が近くまで寄ったことを確認した枡岡さんは
「うんうん。やっとこっちまで来てくれたね。それじゃあ、早速今日から働いてもらうけど、大丈夫だよね?」
僕にそう言ってきたんだ。僕としては全然問題ないんだけど……
「はい、大丈夫ですけど……。でも枡岡さんの方こそ大丈夫なんですか?」
「ん?どういうことかな?」
一度も面接的なことをしていないのに働いても大丈夫なのかと思った僕はそう聞いたんだけど、枡岡さんは気にしていないみたいだったんだよね。それでもやっぱり気になった僕は改めて
「僕と枡岡さんってゴールデンウィークのときに一度会っただけじゃないですか?それなのに面接とか無しで雇っても大丈夫なんですか?」
そう枡岡さんに尋ねたんだ。やっぱり確認は大事だしね。まぁ、これで話をなかったことにされるとそれはそれで困るんだけど……。枡岡さんの様子から大丈夫だとは思っていてもやっぱりそこが不安だったけど、その不安も杞憂だったみたいで、枡岡さんは
「あぁ、それはねぇ。京ちゃんがどんな子なのかってのは健吾君から聞いていたしね。それに……っと、これはまだ言っちゃいけないことだね。まぁ、それ以外にも色々あって京ちゃんは即採用ってことになったの」
って言ってきたんだよね。少しひっかかるような言い方だったんだけど、たぶん教えてくれないだろうと思った僕は
「そ、そうなんですか。わかり……「あっ、そうそう!」まし……た……?」
雇ってくれたことに感謝しつつ、わかったって言うとしたんだけど枡岡さんに遮られたんだよね。だから何を言われるのかと思って待っていると
「そういえば京ちゃんに来てもらう服を渡すのを忘れていたよ~。ごめんごめん、それじゃあ、これに着替えてね?」
って言いながら僕に服を渡してきたんだ。
「あっ、はい。わかり――」
だから僕も返事をしながら渡された服を見たんだけど、服を見た瞬間に思わず固まってしまったんだよね。だってその服はフリフリのエプロンのついたメイド服だったんだ――
―
――
「……はぁ」
バイトをすることになったときのことを思い出した僕はもう一度ため息をついたんだ。だってね?あの後渡された制服に着替えて枡岡さんのところに戻ってくるとお母さんと健吾がいたんだよ?ニヤニヤしながら僕のことを見ていた二人を見た瞬間に僕は3人が裏で繋がっていたことがわかったんだよね。
まぁ、あの後は結局健吾たち以外にお客さんが来なかったから健吾とお母さん相手に接客の練習をしたんだよね。やっぱり知り合い相手にするのは恥ずかしかったけど……。
そんなことを思い返していると
「京ちゃんさっきからため息をつきすぎだよ?今はお客さんがいないから別にいいけど、つきすぎて癖になってお客さんのいる前で出ちゃったらさすがに擁護できないよ?そのときは遠慮なく給料から引かせてもらうからね?」
って枡岡さんに眉をひそめながらそう言われちゃったんだ。健吾とお母さん相手に接客しているときにこれだけ準備されていたことに気づけていたらこのバイトもしなくてよかったのではないかっていう後悔からため息をかなりの頻度でついていたんだよね。そしたらそれに見かねた枡岡さんが『お客さんの前でため息をついたら減給する』っていうルールを作っちゃったんだ。まぁ、あれは確かに僕が悪いもんね。折角雇ってもらったのにため息ばかりついていたし……。っと反省もしないといけないとだけど、
「ごめんなさい。これから気をつけます」
まずは枡岡さんに謝らないとね、うん。そう思ってからすぐに頭を下げて僕がそういうと
「うんうん。ちゃんと謝れるってことはいいことだからね!」
枡岡さんはうんうんと頭を縦に動かしながらそう言ってきたんだよね。すぐに機嫌を直してくれたことに内心ホッとしながら
「僕が言うのも何ですけど、本当に週3回も来て大丈夫なんですか?」
枡岡さんにそう聞いたんだ。だって今日でバイトを始めて3日になるんだけど、この喫茶店に来たお客さんは両手の指で数えられる人数だったんだよね。とてもじゃないけどこのままでは経営出来なくなるくらいの売り上げしか出ていないはずなのに僕を雇って大丈夫なのか心配になった僕はそう聞いたんだ。そしたら
「うん?全然大丈夫だよ?この店も趣味で開いているようなものだしね。あっ、でもどうやって稼いでいるかは内緒だよ?そ・れ・に……」
枡岡さんは全然問題ないって言ってくれたんだよね。秘密って言われたところが少しきになるけど教えてくれないだろうし、その後に何か言おうとして言葉の続きを待っていると、枡岡さんはニヤニヤしながら
「そのメイド服の京ちゃんの姿を見れるだけで私としては雇った甲斐があるってやつだよ。京ちゃんって何故かは知らないけど、そういう女の子しい服装をするのって苦手……いや、避けているのかな?前に会ったときもすごい可愛い服を着ていたのにそわそわしていたしね。あのそわそわは誰かに追われていたってのもあったんだろうけど、どちらかに服に慣れていないところから来ていたと思うんだけど、どう?当たってるかな?」
的確に僕が女の子の服装を避けていることをついてきたんだよね。だから僕は
「い、いやっ、そんなことないです……けど……」
少し言葉につまりながら何とかそう返したんだ。だけど、僕の咄嗟の嘘も枡岡さんにはバレバレだったみたいで
「ハハハ、そんながんばって嘘をつかなくても別に私は詮索しないから大丈夫だよ。それに……おっと、お客さんみたいだよ?ほらっ、京ちゃん接客接客!」
やれやれって感じに肩をすくめがらそう言われちゃったんだ。その後に何か言いかけたみたいだったんだけど、お客さんが来たみたいで途中で言葉を止めたんだよね。枡岡さんに言われたからってわけじゃないけど、数少ないお客さんが来たんだからちゃんと接客しないと!
そう思って僕は入り口の方に振り返って
「いらっしゃいま……せ……」
って言ったところで僕は思わず身を固まらせちゃったんだよね。だって喫茶店の入り口には
「本当にこんなところに喫茶店があるとはのぅ……って、え?京……さん……?」
勇輝君が立っていたんだ。
この章では出来るだけ時系列順に話を進めていく予定ですので、タイトルが入り乱れると思います。そこはご了承ください。




