24話 オリエンテーション⑤
「ま、まぁ落ち着け。今から説明するから!な?」
伝言ゲームの上手なやり方について、予め説明してくれなかった牧野先生へのブーイングをする生徒(僕含む)を宥めつつ、牧野先生は
「いいか?ポイントは『小出し』だ」
って指を立てながら言っていた。
えっと?小出し?どういうこと?
僕以外にもわかっていない人は多くいたみたいで、多くの人が首を傾げていた。
その様子を見ていた牧野先生は、苦笑しながら
「おいおい、少しは考えたか?今は良くても、いつまでも受身ってわけじゃいかないんだぞ?」
って言っていた。
ぐっ……。で、でもわからないんだからしょうがないじゃない……
「まぁいい。いいか?『小出し』って言うのは……、まぁ、そのままの意味だが、伝言する内容を少しずつ次の人に伝えるんだ。例えば、今回みたいに15桁の数字の場合なら、前から5つずつ次の人に伝えるって感じにな。そして、次の人が、その次の人に伝え終わったのを確認出来たらまたその次の5つの数字を次の人に教えるという風にだ。そんな感じに3回に分けてやるとミスが少なくなって、結果的には早く伝えられるって感じだ。15桁の数字を一辺に言われても覚えきれるわけがないだろ?少なくても俺には無理だっ!!」
そう言ってなぜか威張る牧野先生。いや、そこは威張るところじゃないんじゃ……。
で、でも、確かに少しずつならいけるかも?5つは少し厳しいかもだから、グループの皆と相談して、少し減らしてもらえないかなぁ……
そんな風に考えていると
「よし、それじゃあ今から5分やるから、今のことをふまえて、グループごとにどうするかもう一度相談してくれ」
と牧野先生が言うやいなや、皆が動き出したのを見て、僕も慌ててグループの皆のところに駆け寄った。
コケない注意しながらグループに駆け寄ったらグループの皆はもうどうするかを相談するために集まり始めていた。僕もちょっとだけ遅れてその集まりの輪の中に入ったんだけど、それを確認した丘神君が
「よし、残り時間も少ないし、さっさと決めるとするかの。牧野先生の通りにするって言うのも癪じゃが、多くの数字を一度に伝えるというのが難しいというのも、先ほどの練習でもわかったことじゃし、『小出し』の方法を採用しようと思う。誰か反対というものはおらぬか?」
そう言って、周りを見渡したんだけど、誰も反対する様子はないみたい。まぁ、一度の全部言うのは無理っていうのはさっきの練習で痛いほどわかったもんね……。
反対する人がいないのを確認した丘神君は、続けて
「反対するものはいないようじゃの。それじゃあ、一度のいう数字の数はどうするかの?5つで問題ないかの?」
って言って、周りを見渡したんだけど、誰も反対する人はいないみたい。
ってあれ?皆5つで大丈夫なの!?うぅ、僕出来る自身無いんだけどなぁ……。でも、誰も反対しないのに反対って言うのも気が引けるしなぁ……。う~ん……、どうしよう……。
言うか言わまいかを悩むだけ悩んで、結局5つは難しいと言うことが出来ずに、その方針で決まりそうになったんだけど
「……いやぁ、言っておいてなんじゃが、俺はどうしても数字を一度に覚えれるというのが苦手でのぅ。出来れば4つに減らしてほしいんじゃが」
って、5つって提案した丘神君が言っていた。あれ?そうだったんだ。じゃあ、何で最初に5つって言ったんだろ?う~ん……。まぁ、僕はこのおかげで助かったんだし、別に理由なんか何でもいいよね!
それで、グループの皆は、お前が言い出しといて見栄張るなよって苦笑いしながらも丘神君の提案にOKを出していた。やっぱり、このクラスの人って基本的に皆優しいなぁ。
それにしても4つか……。4つならいける……はず!うん、頑張ろう!
そうして、相談も終わり、皆が元の場所に戻ろうとしていたときに
「丘神君も数字は余り得意じゃなかったんだね?」
って聞いてみたんだけど、丘神君は
「いや、そういうわけじゃないんじゃが、熱海さんが少し悩んでいるような気がしての。もしかしたら数字が苦手なんじゃないかって思ってな。じゃからて、熱海さんに話を振るわけにもいかんってことで……な」
って返してきた。
え?そんなに顔に出てた?もしかしてグループの皆も気付いていたのかな?もしそうだったらすっごく恥ずかしいんだけど!?
「いやいや、まぁ、他の皆は気付いてなかったじゃろうから大丈夫じゃて。とりあえず、さっさと元の場所に戻ろうかの」
そう言って丘神君は元の場所に戻っていった。丘神君もそう言ってくれたけど、やっぱり僕って顔に出やすいのかなぁ。直したいけど、直し方なんてわからないし……。教えて!偉い人!っと、それよりも今は皆に出来るだけ迷惑をかけまいと決心しながら僕も元の場所に戻ったのであった。
………………
…………
……
「よし、それでは決勝戦を行う」
はい、決勝戦まで来ちゃいました。って言っても1勝しただけなんだけどね。
ちなみに僕のグループは負けちゃった。だって、しょうがないじゃん!言おうとしてる傍から次の数字が後ろから聞こえて来るんだよ?もうね、頭の中がごっちゃごちゃになっちゃって、自分が何を言おうとしていることもわからなくなっちゃってね……。それで何回かやり直しちゃって、その間に負けちゃったんだ。
だけど、真琴のグループと優花ちゃんのグループが勝ったおかげで勝てたんだよね。
それで、決勝戦の相手だけど……
「よう、まさかお前のクラスが勝ち上がってくるとはな」
健吾のクラスだったんだよね。
「何その言い方?まるで僕たちのクラスが決勝戦には来なかったって思ってたって聞こえるんだけど?」
「『絶対』におまえのグループは負けるだろうって思ってたからな。篠宮さんのグループは空元含め、他のメンツも優秀なのが揃っているみたいだから勝つとして、服部さんのグループは小野がいるから微妙だと思っていたんだが、無事に勝ったみたいだな」
「ぐっ……」
わざわざ絶対を強調しなくてもいいじゃんか。確かに負けちゃったけどさ……。
「で、でも、もう慣れたもん!次はもう大丈夫だもん!!」
「ほぅ。それじゃあ賭けるか?」
「え?」
「いや、『絶対』に勝てるんだろ?それだったら、決勝戦で俺のグループと勝負しないか?それで、勝った方が負けた方に1つだけ言うことを聞くってのはどうだ?」
「…………何でもは無理だからね?」
「あぁ、出来る範囲で構わないさ」
これは健吾に一矢を報いるチャンスが来たんじゃないかな?いつもいつも健吾にはいい様にあしらわれちゃってるからね……。それに、万が一負けちゃっても、出来る範囲でいいって言質は取ったからね!
「わかった。絶対負けないんだからね!」
僕はそう言って、自分のグループに帰ったのであった。
絶対に負けないんだからね!!
…………
……
「そ、そんな……」
「うしっ!約束だからな!!」
「お、お手柔らかにお願いします……」
万全をきして挑んだんだけど、やっぱり無理だったよ……
が、頑張ったんだよ?決勝戦っていうことで、30桁の数字の伝言だったんだけど、9回までは無事に出来たんだ。だけど、10回目のときに詰まっちゃってね……。そのときのタイムロスが原因で健吾のグループに負けちゃったんだ……。
「まぁ、楽しみにしといてくれ。それよりも、残りのグループの勝負を見ようぜ」
「う、うん。そうだね……」
それで、健吾と一緒に残りの勝負を見たんだけど、やっぱり真琴のグループは勝ってたんだよね。これってグループ戦だから、真琴1人の力じゃ勝てないはずなんだけど、すごい統率が取れてるっぽくて、すごい早さで伝言が終わっていたんだよね……。どうやったらそんなに上手く出来るんだろ?でも、真琴だしなぁ。聞いてみたいような、怖くて聞きたくないような……。
ま、まぁそれよりも優花ちゃんの番だ!優花ちゃんがんばれ!ついでに小野君も!
…………
……
「それでは、優勝したC組には特典として、500円の割引券を贈呈します」
牧野先生がそう言って、C組の代表である健吾に人数分の割引券を手渡していた。
優花ちゃんのグループもね、ほんとあと少しだったんだけど、ギリギリのところで負けちゃったんだよね……。でも、すごい接戦だったから見ごたえはバッチリだったんだ。
あと、2位以下には特典が無いんだよね……。まぁ、3クラスしかないんだから、仕方ないっていったらそうなんだけどね……。
「よし、それじゃあ次の……って行きたいところだったんだが、思ったよりも時間がかかってしまっていてな……。実はもう夕食の時間が迫っているんだ。だからすまんが、本日のオリエンテーションのイベントはこれにて終了する。各自すぐに夕食会場に向かうように!」
そう言いながら、牧野先生は逃げるように壇上を降りていた。もう1回ブーイングをもらうのはさすがに嫌だったのかな?そうだとしても、あんなに慌てて降りなくてもよかったと思うんだけどなぁ。
そんなことを考えながらボ~ッとしていると
「京、なにボーッとしてるの?早く会場に向かいましょう?あぁ、もう!やっぱり負けたらムシャクシャする~っ!!これは食べるしかないわね!」
すごいイライラしてる真琴が話しかけてきた。
「そ、そうだ……ね……?って、真琴のグループは勝ったからそこまで悔しがることはないんじゃ……?」
「いやいや、クラスでは負けてるんだから一緒よ!京も優花も付き合ってもらうんだから!」
「そ、そう……。で、でも、あんまり食べられないと思うからお手柔らかに……ね……?」
「もう、最初からそんな気持ちじゃ全然ダメよ!全部制覇するっていう勢いでいかないと!!ほら、さっさと行くわよ」
そう言って真琴は僕の手を取って会場に向かったのであった。
………………
…………
……
「も、もう無理……」
「わ、私ももう何も入りません……」
「だらしないわねぇ。このくらい食べられないで、何のためのバイキング形式なのよ。もっと食べないともったいないじゃない」
「そ、そう言われても……」
「入らないものは入らないですよ」
そう言って僕と優花ちゃんは机に突っ伏した。それを見た真琴は
「仕方ない!これはあたしが2人の分も頑張らないといけないわね!」
そう言って山盛りに料理を持ってきた真琴はすごい勢いで食べ始めた。
ほんとに、その身体のどこの入ってるのやら……。それにしてもこの食べっぷりを見ているだけで、お腹が一杯なのに、余計に食べる感覚に……、ウプッ……。
…………
……
「よし、一杯食べて気分も少しマシになったし、お風呂に行くわよ!」
「えっ!?」
「……何よ京?文句があるわけ?」
「い、いや。そうじゃないけど、まだお腹が一杯過ぎて動けないから僕はまだいいかな?」
「あら?別に京と入るためなら別に少しくらいなら待てるわよ?ねぇ、優花?」
「そうですね。正直に言いますと、私もまだ少し動きたくありませんので、出来れば時間をズラしたいと思っていたところですしね」
「そ、そうなんだ」
夕食を食べ終わって、部屋に戻るやいやな、真琴がそう言い出してね。お腹が一杯ってことで先に行ってもらえれば、その間に部屋のお風呂でパッて済ませようって思っていたんだけどなぁ。さすがに女の子の裸を見る勇気なんて僕には持ち合わせていないし……。
その後、色々言って先に行ってもらうように頑張ったんだけど、結局一緒にお風呂に入ることになってしまったんだ……。そのときに男としての部分を色々と失っちゃった気がするんだけど、その詳細はまた別の機会にということで……。
………………
…………
……
「京!そろそろ起きなさい!」
「ふ、ふぇ!?」
真琴に身体を揺すられて、僕の意識が覚醒した。な、何!?って、窓からの日差しが眩しいってことは……朝?
「もう、お風呂に入って部屋に戻るなり、コンタクトを外して寝るんだもの。旅行の醍醐味もあったもんじゃ……」
って言葉を途中で止めて、僕の顔を見てくる真琴。どうしたんだろと首をかしげていると
「きょ、京?その眼はどうしたの?」
あっ……、や、やばい……。さすがに寝るときにはコンタクトはつけっぱなしにするわけにもいかないから、はずして寝たんだよね……。真琴達が起きる前に起きて、コンタクトをつければ大丈夫って思っていたんだけど……。
僕が起きる前に真琴が起きちゃってて、まだカラーコンタクトをつけてない僕の眼を見たってことはつまり僕の眼が紅いってことがバレちゃったってわけで………………
どうしよう……
さすがにこれ以上オリエンテーションの話が続くのもあれかと思ったので、後半部分はかなり飛ばしました。
まぁ、それでも終わってないんですけどね(・ω・`)
何か誤字脱字報告・意見等々ありましたら、コメント欄に残していっていただけたなら幸いです。




