157話 気持ちと向き合うとき2
「京、少しいいじゃろうか」
職員室を出て、一息ついていると、勇輝が声を掛けてきたんだ。
「うん、どうしたの?」
そもそも、どうして勇輝がこんなところにいるんだろう? 鞄は机の上に置きっぱなしにしてあるから、僕がまだ学校にいることはわかるはずだし……。
「いや、京と2人で話したいことがあってな」
勇輝が職員室まで来た理由を考えていたんだけど、勇輝は何か僕に話したいことがあるみたい。
「そうなの? それだったら教室に居たときに言ってくれたらよかったのに」
勇輝だったら、少し話あるからって言われたら断る理由なんてないのにね?
「教室だと、ほら、篠宮さんたちがじゃな……」
「あー……」
勇輝の言う通り、真琴なら確かに変な絡み方してくるだろうし。ただの相談なのに、邪推して後ろからついてきてきそうだもんね。
思わず納得の声を出していると
「そういうことじゃから、すまんが、少しだけいいかのぅ? 他の人に見つからない内に人が少ないところに行きたいんじゃが」
勇輝が移動しようと提案してきたんだ。まだ職員室の前だし、ここはやっぱり長居したいところじゃないもんね。断る理由がなかった僕はコクンと頷き、勇輝の案内に従って、空いている教室に向かったのであった。
…………
……
「よし、ここなら良いじゃろう」
空き教室まで僕を案内した勇輝は、僕が教室に入るとすぐに周りに誰もいないことを改めて確認してから教室の扉を閉めていたんだ。
「それで、話って何?」
ここまで用心して相談したいことってなんだろう? 勇輝の様子が今までと少し違うこともあって、すぐにそれを聞き出そうとしたんだけど、
「まぁまぁ、そんなに急ぐことはあるまい。それより、体調はどうじゃ? 先週は休んでおったが」
勇輝は首を横に振りながら、僕の体調のことを聞いてきたんだ。そういえば、勇輝にも何の連絡もしていなかったや。
「うん、ありがとう。もう大丈夫だよ。またいつか詳しく話せるときが来たら話すね」
本当は体調不良ってわけではないけど、それでも勇輝が心配してくれていたことにお礼を言うと
「あぁ、楽しみにしておるよ」
「うん」
勇輝は軽く笑みを浮かべながら、何か理由があったのかについて察しながらも待ってくれると言ってくれたから、僕も笑みで返すと
「あー……、いかんのぅ。どうも俺はまどろっこしいことは苦手じゃ。すまん、京。本題に入っていいか?」
「うん、いいよ」
勇輝は何かを考える素振りを見せていたんだけど、何かを決心したような顔をしていたんだ。だから僕も思わず背筋を伸ばしな、勇輝の言葉を待って――
「京、俺と付き合ってくれ」
「……はい?」
――待っていたんだけど、勇輝の口から出てきた言葉が予想外過ぎて、一瞬理解出来なくて、
「それって、ど――」
「もちろん、どこかに行くのに付き合って欲しいってことではない。彼氏彼女の関係として、お付き合いをさせて欲しい」
きっと、どこか行くのに1人だと辛いから言っているのだろうと思って、そう口にしようとしたんだけど、勇輝に遮られて改めて言われたんだ。
「彼氏彼女って……。って、えーっ!?」
まさか勇輝から言われるとは、露程も思っていなかった僕は、思わず驚きの声を上げていると、
「そんな驚かなくてもよかろう。急な話で驚いているところすまんが、返事を聞かせてもらえんじゃろうか」
勇輝は苦笑しながら、返事を催促してきたんだ。それでも、冗談ではなく、真剣に言っているのだということが雰囲気で伝わった僕は
「ごめんなさい」
ペコリと頭を下げて断りの言葉を口にしたんだ。
「そうか。理由は……言わなくてもわかっておるから大丈夫じゃ。夏休みのあの日、あいつじゃなくて、俺が見つけておったら、少しはチャンスがあったんかのぅ」
下げた頭を上に上げたとき、視界に映った勇輝の眉がいつもより下がっていたけど、そのことに僕は何も言えずに黙っていると、
「京、1つか2つばかり、聞きたいことがあるんじゃが、良いじゃろうか?」
勇輝が僕に聞きたいことがあるって言ってきたんだ。
「うん、僕が答えられることだったら」
断った手前、この教室から早く出たかったけど、断ったばかりで、もう一度断ることも憚られた僕は頷いて了承の意を伝えると、
「京の体調不良。それを治したのはあいつか? 俺じゃ無理だったのか?」
「……うん、そうだね。健吾じゃないと無理だった」
勇輝は僕の体調不良のことについて聞いてきたんだ。体調不良なのに、健吾が治したって……。もしかしたら、勇輝は何かしら気付いることがあるのかな? でも、やっぱりペナルティの関係者ではない勇輝じゃ、絶対に彩矢のことには辿り着けなかったと思うんだ。だからハッキリと答えると、
「そうか……。わかった。京、急にすまんかった。どうしても今日に俺の気持ちを伝えておきたかったんだ。今日を逃すと、この気持ちをもう伝えられないと思っての」
勇輝は何かを納得した後、僕を呼び出したことを誤ってきたんだ。それに僕は首を横に振って
「ううん、気持ちは嬉しかったから……。勇輝、ありがとう」
勇輝にお礼を言うと、
「……最後に、告白したやつが言うのはおかしいと思うんじゃが、彼氏彼女としては無理でも、これからも友達でいてくれんじゃろうか?」
勇輝の方がもっと気まずいはずなのに、僕とまだ友達でいたいって言ってくれたんだ。
「勇輝さえ良ければ」
勇輝の告白を断ってしまった手前、これからはもう友達ではいれなくなっちゃうのかなと思っていたけど、勇輝がそう提案してくれたから、僕はその言葉に甘えて勇輝にそう伝えたんだ。
「ありがとう。後、すまんが、今日は先に帰っておいてくれんかのぅ? ここの教室を使ったからにはキチンと掃除してから帰りたいんじゃ」
「うん、わかった。掃除お願いね」
その後、空き教室なのに、掃除をすると言い出した勇輝に、僕はお礼だけ言って教室を出た僕は、教室から聞こえてくる声を、出来るだけ聞かないように、早歩きで自分の教室へと向かったのであった。
~後書き~
一方その頃
「中山さん、急に呼び出して申し訳ございません」
「いや、いいよ。それより、こんな校舎裏なんかに呼び出してどうしたんだ」
「いえ、何もない……わけではありませんが、どうしても、今日に伝えておかないと後悔するような気がしまして……」
「えっと、久川さん? 言っている意味が良く……」
「えぇ、今の言葉は私の独り言ですから、構いません。コホン……。中山さん、私とお付き合いしていただけないでしょか? もちろん、何処かに連れて行って欲しいとか、そういう意味ではありません」
「っ……」
「驚かれたでしょう? ですが、先程も言いましたが、どうしても今日中に伝えておきたかったのです。明日以降ですと、もう割込む隙が全く無くなるような気がしまして……。なので、急かしてしまってすみませんが、お返事を頂けないでしょうか?」
「わかった。まずは久川さん、ありがとう。でも俺は――」




