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神様によるペナルティ  作者: ずごろん
第六章 三学期編
206/217

153話 思い出した想い

実は本編12時更新、章間的なのを0時更新しています(今更)

「……よし」


次の日、俺は喫茶店の前に来ていた。つい最近までは何の抵抗もなくこの扉を開けていたのに、認識してしまうと、まるで固く閉ざされているように見えてくるから不思議だ。


ただ、ここで立ち止まっていても何も進展しないことは明らかだ。だから俺は気合を一つ入れてから扉を開けた。


当然と言っては当然なんだが、気の持ちようなだけであり、覚えのある手応えと共に扉は開き、扉の先には


「やぁ、早い到着だね。一体誰に入れ知恵をもらったのかな?」


まるで俺の事情がわかっているような……、いや、実際にわかっているのだろう。今までは俺に見せたことがなかったような笑みを浮かべながら枡岡さんは待ち構えていた。


「ってことは、やっぱり暗示を――」


かけていたんだな。そう言い切る前に


「うん、そうだよ。って、わかっていたからこそ扉を開けるのをためらっていたんでしょ? わかっていることを聞いてくるのはお姉さん関心しないぞ?」


枡岡さんが割り込んできた。……枡岡さんってこんなキャラだったか? そのことも気になりつつも、まさかすぐに肯定されると思ってなかった俺は次の言葉が出ないでいると


「あの人からかな? いや、あの人は今は京ちゃんの方にしか意識向けていないみたいだし……。 そうなると、君のお母さんから聴いた?」


枡岡さんはあごの下に指を当て、少し考える素振りを見せながらそう呟いた。


「なんで――」


わかるのか。思わずそんな言葉が口から出掛けたが


「そりゃ、関係者(・・・)となると限られてくるからね。あっ、でも君にはまだわからないことだっけ? ごめんごめん。それで? お姉さんに聞きたいことがあって今日はここまで来たんでしょ? 過程はともかく、ここまでたどり着けたんだ。そのご褒美として、1つだけなら何でも教えてあげるよ?」


枡岡さんの口からはまた気になる単語(ワード)が紡がれた。母さんが関係者? それってどういう……。いや、確かに気になるが、それを聞きにここに来たんじゃない。俺が聞きたいのは


「教えてくれ。俺は初詣の日、何を忘れてしまったんだ?」


俺が忘れてしまい、京を傷つけてしまったことだ。だから俺は枡岡さんにそう伝えると


「君は本当に忘れてしまったことを思い出してしてるんだね。なぁんだ、ただ忘れたことを教えてくれってだけ言われたら、適当なことを言うつもりだったんだけどなぁ」


枡岡さんは悔しそうな顔を全くせずに


「もちろん教えることは出来るよ? ただ、覚悟は出来てるかい?」


むしろ笑みを浮かべながら聞いてきたんだ。


「覚悟……?」


ただ忘れたことを思い出すだけなのに覚悟が必要? 意味を問う意味も込めて聞き返すと


「そ、覚悟。だって、本来の形に戻ったものをまた戻す……、ってのは今はいっか。要は今君は何かを忘れちゃっているって言ったけど、その代わりの記憶が君の中にあるわけだ。そこにさらに別の記憶が入るのに、何の代償もなく出来るわけがないよね?」


忘れてしまったことを思い出すだけで代償が必要だと言う。元々の記憶を思い出すだけなのにどうしてそんなものが……? そういう意味じゃ、さっき枡岡さんが言いかけたことも……。いや、そうじゃない


「わかった」


恐らく、枡岡さんはわざと俺の気を逸らすためにそんな言い回しをしているのだろう。でも俺はここには無くしたものを取り戻しに来ただけなんだ。だから他の事には意識が向かないようにしないと。恐らく、枡岡さんが言った1つだけというのは今も有効なんだろう。気になったことについて聞いてしまっては最後、きっとそれの答えを言って、俺が本当に知りたかったことは教えてくれないだろう。


枡岡さんの意図がわかり始め、惑わされないように気を付けないとと、心の中で改めて意思を固めていると


「わかっただけじゃ、お姉さんはわからないかなぁ?」


枡岡さんはさらに笑みを深めながら棒読みでそう言ってきた。いや、絶対にわかって言っているだろ……。


俺は1つ息を吐いてから


「どんな代償でも構わない。俺が忘れたことを教えてほしい」


真っ直ぐに枡岡さんの方を向いて答えた。すると、


「うん、君の覚悟はわかったよ。そこまで覚悟を見せられちゃ仕方がない。お姉さんが君の抜けた記憶を戻してあげる。それじゃあ、準備はいーい?」


枡岡さんは目の前で手をパチンと叩いてからそう確認してきた。だから俺はコクリと首を縦に動かして答えると、


パチン


枡岡さんは指を鳴らしたんだ。その瞬間


「ガッ!?」


かつて今までにない、まるで鈍器で殴られたような、そのような頭痛に襲われた俺はそのまま意識を失ったのであった。


…………

……


「ぐっ……」


俺は……?


ふと気が付くと俺は床に倒れていたみたいだ。

頭の痛みに顔をしかめながら身体を起こすと


「おっ、起きたんだ」


自分で入れたコーヒーを飲んでいた枡岡さんが俺が起きたことに気が付いたみたいで、手に持っていたカップを置いてから俺の方へと近づいてきた。


「無事に起きれてよかった、よかった」


そしてまだ上半身だけしか身体を起こせていない俺……の近くの椅子に座りなおした枡岡さんが何やら不吉なことを言ってきたんだ。


「無事に……? それってどういう意味なんだ?」


だから思わず聞き返すと


「どういう意味って、そのままの意味だよ? 人間の脳ってのはそんな便利に出来ていないの。毎日少しずつ増やしていくならともかく、いきなり多くのものを詰め込むなんて普通出来ないんだ。だから、あんな方法で記憶を入れられると結構な人が廃人になっちゃうんだよね」


どうやら俺はかなり危ない橋を説明無しで渡らされていたようだ。枡岡さんは頬に指を当て、テヘと言っていたが、


「いやいやいや、何でそれを前に……」


俺は文句の一つでも言ってやろうと思ったのだが


「だから聞いたじゃない。覚悟は出来てるかって」



いや、あれは説明にはなって――。

そう小言の一つでも言おうと思ったのだが、枡岡さん(この人)相手だと言っても無駄だということが十二分にわかった俺はため息をついてから


「あぁ、そうだな。それじゃあ、折角取り戻せたんだから俺は行くよ」


枡岡さんの返事の待たずに出入口の扉の方へと向かうと


「あれ? もう行っちゃうんだ」


後ろから枡岡さんから声を掛けられたが


「あぁ。俺は託されたからな。忘れてしまっていた分を取り戻すためにも早く行かなくちゃ。枡岡さんありがとう」


俺は振り返らずにそう言い、枡岡さんの次の声が聞こえてくる前に俺は扉を潜り抜け、目的地へと走り出したのであった。

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