139話 クリスマスイヴ④
『君のために』
2人はただの幼馴染だった。しかし、中学生のときにあることがきっかけで女の子は幼馴染の男の子を異性として意識するようになる。女の子は男の子に自身の気持ちに気付いて欲しくてアプローチをするのだが、男の子は全く気付く様子もなく、数年の月日が経ってしまう。ここまで希望がないならばせめて男の子の近くに居られるようにと、自身の気持ちに蓋をしてしまう。しかし丁度その頃、男の子は女の子に好意を抱き始めていた……。これは男の子のために一定距離を保とうとする女の子と、そんな女の子のために何かをしようとするたびに空回りしてしまう男の子の物語。
「健吾!? どうしたの!?」
健吾の尋常じゃない様子に思わず僕は声を荒げてしまったんだ。もしかして映画の最中に食べたポップコーンにあたっちゃったのかな……? 健吾の顔が真っ青な原因に見当がつかず、半ばパニック状態になっていると
「あ、あぁ。すまん。大丈夫だ」
健吾は顔を軽く横に振った後にそう言ってきたんだけど
「いやいやいや。そんな顔を真っ青にしていたら説得力無いって。どうしたのかはわからないけど、とにかく移動しようよ。ね?」
健吾の顔の表情が大丈夫じゃないと雄弁に物語っている状況で、そんな言葉は信じられない僕は、早く落ち着いた場所に健吾を連れて行かなきゃという思いから健吾の手を掴み、喫茶店に向かったのであった。
…………
……
「京」
健吾を助けなきゃという一心で喫茶店に向かい、後少しで目的の喫茶手に着くという頃、健吾が僕の名前を呼んだんだよね。
「うん、何?」
どうしたのかと思い、足を止めて健吾の方に振り返ると
「いや、その……なんだ……」
健吾は片方の手で頬を数回かいた後
「いつまで手を繋いでいようか?」
僕にそう尋ねて来たんだ。そこでようやく健吾の手を握ったままだったことに気が付いた僕は慌てて手を離し
「ご、ごめん……」
とすぐに謝ったんだ。僕なんかに手を触られたら嫌だろうしね。嫌な思いをさせちゃったかなと、恐る恐る健吾の様子を窺っていると
「いや……、俺も言い方が悪かった。断じて嫌だから言ったわけじゃないんだが……。映画館ならまだしも、この辺りまでくると手を繋いでいる人もほとんどいないだろ? だから京が後で嫌な思いをしてしまうんじゃないかって思ってな」
健吾は頭の後ろをかきながら僕にそう言ってくれたんだ。…………それって、僕と手をつなぐのが嫌だったってわけじゃない……? そうだったら嬉しいけど、どうなんだろう。少し名残惜しくて何度か手を閉じて開いてを繰り返した後
「……そうだね。僕も気が付かなくてごめんね?」
ともう一度健吾に謝ったんだ。すると
「元はと言えば、俺が映画を見終わった後に変な反応をしてしまったことが原因だしな。実は映画の俺の席が丁度暖房の風が直撃する位置だったんだ。それに少しあてられちまってな。だからあの場所から離れればもう大丈夫なんだが、折角ここまで来たんだし、喫茶店で少し休憩していくか」
健吾は気にしていないって言った後、具合が悪そうにしていた原因を教えてくれたんだ。僕のところはそんなに感じなかったけど、真横の健吾はそんなに酷かったのか……。言ってくれたら変わったのに。まぁ、そのことに気が付かなかった僕が悪いんだし、今こうすればよかったとか考えても後の祭りだもんね。それよりも、これから挽回しないと。とりあえずは大丈夫だって言っているけど、やっぱり休憩した方がいいと思った僕は
「うん、そうだね。映画の事で色々と話したいもん」
頷いて返し、喫茶店に改めて向かったのであった。
~~健吾視点~~
まさか男主人公の最後の決め手として用意したものが被ってしまうとは……。いや、あのシチュエーションだったからこそであっただけで、普通に渡せば大丈夫なはず。そもそも家に帰ってから開けてくれって言えば……。どうすれば京に勘ぐられずにプレゼントを渡すことが出来るかについて考え直していると
「健吾!? どうしたの!?」
京の焦った声が聞こえて来たんだ。どうしたのかと思って京の方を見ると、心配そうに俺を見ていたんだ。もしかして顔に出てしまっていたか……? 後のことを色々考えても、今心配させてしまっていたら本末転倒じゃないか。俺は思考を切り替えるために頭を横に振った後に
「あ、あぁ。すまん。大丈夫だ」
京を安心させるためにそう返したんだが
「いやいやいや。そんな顔を真っ青にしていたら説得力無いって。どうしたのかはわからないけど、とにかく移動しようよ。ね?」
京には俺が体調を崩していたように見えたらしく、俺にそう言った後に俺が何かを言い返す前に俺の手を掴んでそのまま歩き出してしまったんだ。今誤解を解こうとしても何も聞き入れてくれないんだろうな……。そう思った俺は京の歩調に合わせるように足を動かし始めたのであった。
…………
……
さて、そろそろ京に声を掛けるべきかどうか……。映画館を出て、後少しで喫茶店に着くといったところなんだが、まだ俺は今京と手を繋いでいる。正確にはまだ掴まれているといった方が正しいが……。それはともかく、まだ映画館の周辺だったらカップルが多かったのもあってこうして俺たちが手を繋いでいるのも特におかしくはなかったんだが、少し通りから外れた喫茶店に向かっていることもあって、そういった人たちが着実に減ってきているんだ。とどのつまり何が言いたいかというと、俺たちは今かなり浮き始めている。しかも俺が京に引っ張られている構図だから余計に。俺としてはまだまだ繋いでいたいが、京が我に返った後に今の状況に気が付いて、そのまま気恥ずかしさから逃げてしまうかもしれない。その可能性が捨てきれなかった俺は
「京」
と呼びかけたんだ。すると映画館を出てから少し時間が経ったことが功を奏したのか
「うん、何?」
京には俺の声を聞く余裕が出始めていたらしく、足を止めて俺の方に振り返りながら何事か聞いてきたんだ。
「いや、その……なんだ……」
折角京が俺の言うことを聞く姿勢を取ってくれているのだが、どうすれば下手な誤解を招くようなことをせずに伝えることが出来るかがわからず、色々と頭の中で模索していると
「いつまで手を繋いでいようか?」
気が付くとそんな言葉が口から出ていたんだ。何でそんな言葉をチョイスした俺!? そんな言い方をしてしまったら……。そんな俺の嫌な予感は
「ご、ごめん……」
目に見えて落ち込んでいる京が俺の手から自身の手を離していることから的中していることが明らかだった。このままではマズいと
「いや……、俺も言い方が悪かった。断じて嫌だから言ったわけじゃないんだが……。映画館ならまだしも、この辺りまでくると手を繋いでいる人もほとんどいないだろ? だから京が後で嫌な思いをしてしまうんじゃないかって思ってな」
何とか誤解を解こうと必死に説明すると
「……そうだね。僕も気が付かなくてごめんね?」
何とか最悪の事態は避けられたらしく、先程より少し元気を取り戻した京がそう返して来たんだ。俺はそのことに心の中で安堵のため息を漏らしながら
「元はと言えば、俺が映画を見終わった後に変な反応をしてしまったことが原因だしな。実は映画の俺の席が丁度暖房の風が直撃する位置だったんだ。それに少しあてられちまってな。だからあの場所から離れればもう大丈夫なんだが、折角ここまで来たんだし、喫茶店で少し休憩していくか」
咄嗟に思いついた様子がおかしかった理由についても交えつつ京にそう提案したんだ。一旦落ち着きたいのも事実だが、未解決の問題の解決するための時間も欲しいしな。先程まで喫茶店に向かっていたこともあり
「うん、そうだね。映画の事で色々と話したいもん」
京もそれに賛同してくれたんだ。それに俺も頷いて返し、先程までの引っ張られるような形ではなく、横に並んで向かったのであった。
全く話が進まなかった……




