章間㉘ 2学期最終日 side-勇輝
遅れてしまってすみません。
読者の皆様は気温変化で体調を崩さないように気を付けてください(n回目)
「……はぁ」
俺は兄貴の部屋を前にして、溜息の混ざった息を漏らしたんじゃ。終業式を終えた俺はとあることを思い出して急いで家に帰ってきたんじゃ。幸い、今日は兄貴が休みを取っていて自宅にいることはわかっておったから、俺は適当に鞄を自室に放り込んだ後、兄貴の部屋に向かったんじゃ。以前に約束したことを反故してしまうことに後ろめたさを感じつつも、言わなければ先へ進めない俺は意を決してノックをしたんじゃ。
ノックをすると兄貴から返事があり、それを確認した俺は扉を開けたんじゃ。
「兄貴、少し相談させて欲しいことがあるんじゃが」
部屋に入ってから兄貴にそう声をかけると
「……それはクリスマスイヴの日に休みをもらいたいという相談かな?」
すると兄貴は俺が相談したいことはわかってきて、俺が言う前に言ってきたんじゃ。じゃから俺はコクリと頷いてから
「どうにか融通をきかすことは出来んじゃろうか?」
兄貴に相談という名のお願いをしたんじゃ。すると
「ふぅん。勇輝は最初の約束を破るつもりなんだね」
兄貴は咎めるような視線を俺にぶつけながらそう言ってきたんじゃ。
「うぐっ……。それを言われると辛いんじゃが……。じゃが、どうしても為さねば成らぬことがあるんじゃ」
俺は両親に、嘘は余程のことがない限りついてはならんと育てられてきておる。両親が医者で、兄貴も医者ということもあり、俺自身も医者を目指しておるんじゃ。それはもちろん家族は知っており、散々口酸っぱく、医者は知識はもちろん大事じゃが、一番大事なことは人から信用されること、変な癖がつかないようにするためにも普段から嘘をつくな、一度した約束は破るなと言い聞かされてきたんじゃ。
兄貴もそれを知っているからこそ俺に尋ねてきたんじゃろう。本当にそのときなのかどうかを確認するために。じゃから俺もそれにはしっかりと答えねばならんと思い、覚悟を決めてそう返したんじゃ。すると兄貴はしかめていた顔をふと緩めたかと思うと
「それは京ちゃんとデートするためかな?」
俺にそうぶっこんで来たんじゃ。それに動揺してしまった俺は
「で、デートではない。せ、折角じゃから一緒にどこかに遊びに行けたらと思っているだけじゃ……」
少し言葉に詰まりながら返したんじゃ。実際、まだ京には約束を取り付けられておらんしな……。本当はもっと早くしようと思っておったんじゃが、兄貴の手伝いをする約束を既にしておったし、教室でもそのの話をしようとしたら篠宮さんと服部さんにすぐに話題を逸らされてしまったしの。京と3人で出掛けるつもりなのかと思ったらその話題をする気配も感じられなかったから、結局どういうことだったんじゃろうなと、今更ながら疑問に思っていると
「その言い方だと、まだ誘えていないみたいだけど大丈夫なの? もう時期が時期だし、他の人が誘っているんじゃない? 例えば健吾君とか」
兄貴は俺がドモったことである程度察したらしく、俺にそう問いてきたんじゃ。俺自身が一番懸念している中山の名前が出て来たことに思わずムッとした俺は
「何で中山の名前が出てくるんじゃ。今は関係ないじゃろ。それに、教室でクリスマスイヴの話をしようとしてもすぐにその話を遮られてしまって誰も出来ん状態じゃったしの」
感情を露わにしながらも兄貴にどうしてまだ誘えていない原因について伝えたんじゃ。すると
「ふむ……。1つ聞くけど、勇輝は京ちゃんを教室以外で誘ったのかい?」
兄貴は俺にそう尋ねてきたんじゃ。
「…………いや、教室以外でその話題はしておらんが……」
そんなことはないと返したかったんじゃが、教室以外ではその話をしようとすらしていなかったことしか思い返せなかった俺は兄貴にそのことを伝えると
「……ちなみにだけど、京ちゃんのお友達は普段と少し違ったりしなかった? 例えば、普段は一緒に行くのに、京ちゃん1人で行かせたりとか」
兄貴はこめかみを少し抑えた後、俺にそう聞いてきたんじゃ。
「そう言われるとそんなこともあったような……。じゃが、丁度俺も他の奴らに頼まれごとをされておったしのぅ……」
確かに服部さんと篠宮さんからいつもより見られておるような気がしていたんじゃが、気のせいじゃなかったのかもしれん。じゃが、そのときは誰かの勉強を教えたりしておったからのぅ。一度教えると言った手前、放り出すわけにもいかんかったから、そもそも反応出来んわけじゃったが……。
俺の言葉を聞いた兄貴はこれ見よがしに溜息を1つ漏らした後
「本当に勇輝は……。いや、これは勇輝が自分で気付かないといけないことだから言うわけにはいかないね。とりあえず、無事勇輝が京ちゃんの約束を取り付けられたら私との約束は後回しにしてもいいよ。取り付けられたらね」
口元をニヤつかせながらそう言ってきたんじゃ。言い方に思うところはあるが、京を当日誘って良いという言質を取ることが出来た俺は
「……あいわかった。無事約束を取り付けられたらまた言いに来る」
と兄貴に告げ、兄貴の部屋から出たのであった。
…………
……
「……さて、文章はこんなもんでよかろう」
文章を作り始めて小一時間、何とか文章らしい文章を作り終えた俺はもう一度文章を見直してから京にメールを送ったんじゃ。
どうか間に合っておくれと俺は願いながら京の返事を待っていると携帯がメールの着信を知らせて来たんじゃ。
さて、どちらに転んだのか……。少しメールの内容を見るのが怖くて躊躇ってしまったが、俺は深呼吸をして覚悟を決め、届いたメールを確認すると
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件名:Re: 明々後日のことなんじゃが……
~本文~
ごめん!その日は用事が入っちゃってて無理なんだ><
他の日なら今のところ大丈夫なんだけど……他の日じゃダメかな?
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メールには無慈悲にもそう書かれており、祈りが通じなかったことに俺は思わず膝から崩れ落ちてしもうたんじゃ。
それからどれくらい時間が経ったのかはわからんが、京に返事をせんといかんと思った俺は残った気力で何とか京へ返事をした後、その場にそのまま倒れこんだのであった。
<2学期最終日 side-勇輝 END>
憐れ勇輝……




