125話 状況把握②
「おまたせ。彩矢も落ち着いたかしら?」
お母さんは2人分のお茶の入ったグラスを持ってきてくれたんだよね。そしてグラスを僕の前に置きながらそう尋ねてきたんだ。
「えっと、まだ……」
だけど、彩矢の反応がまだ無かったからそう伝えようとしたんだけど、その途中で
『……すみません、もう大丈夫です』
と彩矢が声をかけてきたんだよね。
「あー……、大丈夫になったみたい」
だから僕も言いかけた言葉を止めて、お母さんにそう伝えたんだ。すると
「そう、ならよかった。それじゃあ早速だけど……、どこまで話したかしら?」
お母さんはホッと安堵の息をついた後、僕にそう尋ねてきたんだよね。
「僕以外の人が……っと言ってもお母さんたちと健吾くらいだろうけど……彩矢と連絡を取る方法についての途中だったはずだよ。彩矢2つあるって言っていて、まだ片方だけだもん」
お母さんまさか忘れたわけじゃないよねっという確認も込めて僕はそう返したんだ。
「あら? そうだったかしら? でも2つあるってことは初めて聞いたはずよ?」
するとお母さんがそう返して来たんだよね。あれ? そうだったっけ? と思っていると
『はい。お母さんの言う通り、貴方はそのことは伝えていませんよ。ただ、私が貴方を経由しなくてもコミュニケーションをとることが出来るとしかお母さんには伝えていません』
彩矢からもそのような突っ込みが入っちゃったんだ。そこで伝えた気になって出来ていなかったことがわかった僕は
「えっと、ごめん。それは伝え忘れてたみたい」
お母さんに謝ったんだ。するとお母さんは
「いいわよ。それより、2つ目も何か用意するものはあるのかしら?」
特に気にした様子もなく僕にそう言った後、必要な物があるかを尋ねて来たんだよね。だけど僕もまだ彩矢から聞いておらず、詳細がわかっていなかったこともあって
『どうなの? お母さんがいう通り何か必要なものがあるの?』
彩矢にそう尋ねると
『いえ、2つ目は京、貴方の協力さえあれば大丈夫です』
という返事が返ってきたんだ。ただ、この間僕たちは心の中でだけで会話をしていたこともあり
「それでどうなの? 必要ならすぐにでも取ってくるけど」
お母さんがもう一度そう言ってきたんだ。そうだよね、僕たち以外からは黙っているようにしか見えないよね。だから
「今度は何も必要無いみたい。今彩矢から詳細を聞いているから少しだけ待ってね」
とお母さんに伝えてから
『うん、わかったけど……、手伝うって何をすればいいの?』
彩矢にそう尋ねたんだ。すると
『それほど必要なことはありませんよ。ただ力を抜いて、すべてを私に委ねるようにしてくだされば大丈夫です』
彩矢がそう返して来たんだよね。でも委ねろと言われても今一つよくわからなかった僕は
『……つまり何をしたらいいの?』
彩矢にそう聞き返すと、
『……まぁ要はあれです。寝るときみたいにしてくださればいいですよ。ただ、そのときに私のことを全て受け入れるという気持ちでいてください。そうしていただけたらいけると思ったら私が勝手にしますので』
彩矢はそう言いなおしてくれたんだよね。だけど、それで何が出来るのかが予想出来なかった僕は
『そ、そう……? とにかくしてみるね?』
と彩矢に返してから目を閉じたんだ。それでいつも寝るみたいにっと言っても椅子に座ったままだから寝転べないけど……、その代わりに背もたれに身体を預けたんだ。それから寝るときのように体の力を抜いて、彩矢のことを思いながら意識を出来るだけ手放そうとしたんだよね。するとどんどん眠くなってきて、本当に寝てしまいそうになったときに
「はい、もう大丈夫ですよ」
という声が僕の口から聞こえてきたんだ。その衝撃で寝かけていた意識がハッキリと眼を覚ましたんだよね。だけど、そこで僕は何をしても体を動かせないようになっていることに気が付いたんだ。それでも何とかしようと思っていると
「このように、京が私のことを受け入れようとしてくれたときに限ってですが、入れ替わることが出来るのです」
僕が僕とお母さんに説明するような口調でそう言ってきたんだ。するとその声に反応したお母さんが
「つまり、今は彩矢なのね?」
確認するかのように僕にそう尋ねると、
「はい」
僕は頷いて返していたんだ。
『これって、すぐに戻れるんだよね!?』
このまま主導権を取られて戻れないという最悪の展開を想像してしまった僕は彩矢に思わず声を荒げながら尋ねると
「京も今も私に話しかけていることなのですが、京が戻りたいと強く願うか、私が戻りたいと思えばすぐにでも主人格は京に戻りますよ。あくまでこの身体の持ち主は京ですから」
なので、京はしばらく辛抱してくださいと僕は言葉を添えながらそう言ってきたんだ。驚き過ぎて戻りたいとは思っていなかったことを彩矢に言われて気が付いたけど、彩矢にお願いされたこともあって、戻りたいとは思わないようにしていると
「ありがとうございます。今回は方法の紹介だけですからすぐに京に戻りますが、少しだけ……」
僕は僕にお礼を言った後、お母さんの方に向いてそう言ったんだ。するとお母さんは
「えぇ、私はどれだけでもいいわよ? 言った通り、彩矢も京も私の娘なことには変わりがないんだから」
ウィンクしながら僕にそう返していたんだよね。すると
「ははは……、長話は次の機会でお願いします。今回は京に説明せずに身体を貸してもらっていますから。改めて許可をもらったときにでも。今回はただちゃんと直接お礼を言いたかったので」
僕は苦笑いをしてからお母さんにそう返したんだ。そのときに別に今更だから暫くいいよって彩矢に言ったんだけど、不意打ちで入れ替わったのは事実ですからと返して来て、今回はそうしないと頑なに断ってきたんだよね。そして、
「お母さん。改めて、私を娘と……、お母さんのことをお母さんと呼ぶことを許していただいてありがとうございます。このことはどうしても鏡越しではなく、口で直接伝えたかったんです」
僕はそう言ってから頭を下げたんだ。そして頭を上げて
「それでは伝えたいを伝えることが出来ましたので、今回はこれにて失礼します」
とお母さんに伝えると、
「うわっ!?」
急に僕は身体を動かせるようになっていたんだよね。いきなりだったこともあって思わず声を上げていると、
「彩矢は戻ったのね。……やっぱり彩矢も京だわ。反対だと思っていたけど、本質は同じね」
お母さんが何かを呟いていたんだ。だけど、急に身体を動かせるようになったことに驚いていた僕はそれを聞き逃してしまったんだよね。だから
「え? 何て?」
ってお母さんに返したんだけど、お母さんは頭を左右に振ってから
「いいえ、何でもないわ。それより、どうだった? 彩矢と入れ替わっているときの感想は?」
僕にそう聞いてきたんだよね。僕はそれに溜息をついてから
「やっぱり違和感しかなかったよ……。自分では全く動かすことが出来ないのに身体は動くし、視界も変わるんだもん」
と返したんだ。あまり慣れたくはないけど、慣れるまではこの違和感にはつきまとわれることになりそうだし、彩矢にはあのとき、暫く戻らなくていいとは言ったけど、出来ればあまり変わりたくないなともう一度溜息をついたのであった。
次回は時間を少し戻したときの健吾視点です。
と珍しく予告的なものをしてみます。




