110話 ダンスの練習 -2学期-
「さって、センター役の補講も無事に終わったみたいだし、これからは本腰を入れていくわよ!!」
今日も授業が無事に終わり、ホームルーム後に机を隅に固め終わってダンスの準備が出来たのを確認した真琴がそう宣言したんだ。
放課後までの間に、僕は真琴や優花ちゃんたちに国語の補講がもう無いってことを伝えたんだ。1回しか補講がないことや補講でのテスト内容については色々と聞かれたけど、今回の補講内容のことは僕の口からは絶対にバレないようにしないとという気合で何とかはぐらかすことに成功したんだ。まぁ、いつかどこからかバレるだろうけど、僕がその出所だとは言われたくないしね。だからこの話題の間はもれなく訝しむような視線を向けられていたけど、何とか乗り切ったんだ。
放課後になる頃には僕から聞き出すことを諦めてくれたらしく、今はもう気にした様子もなく、声を張ってみんなに練習の指示を出し始めていたんだ。
テスト期間中もテスト対策が出来ていないこともあって練習参加は控えさせてもらっていて、テスト後も補講対策で練習に出られていなかった僕は何か変わったことがあるかもしれないと、全体の様子を窺っていたんだ。すると、
「京、どうしたんじゃ?」
みんなの輪から少し外れていたのもあってか勇輝が声を掛けてきたんだ。
「ううん。少しの間だけだけど練習に出れなかったから何か変わったことがあるかなって思って」
僕はそれに何でもないと軽く首を振ってから勇輝に輪から離れている理由を言ったんだ。すると、
「あぁ、そういうことか。それなら大して変わっておらんから大丈夫じゃよ。強いていうなら小グループに別れたくらいかのぅ」
勇輝は軽く現状について説明してくれたんだけど、
「小グループ?」
聞きなれない単語が出て来たから僕は思わず聞き返したんだ。少し離れて見ていたときに、普段一緒に居ない人たちが固まって練習をしていたんだけど、もしかしたらそれのことかな?
そう思いながら勇輝の返事を待っていると、僕の予想は正しかったみたいで
「うむ。全体での練習ももちろん大事なんじゃが、どうしても苦手な部分が出てきてしまうじゃろ? それで今ダンスをある程度分割して、その部分を重点的に練習してもらっておるんじゃ。各グループにはそれぞれ篠宮さんと宇佐美さんが選んだリーダーが面倒を見ているって感じなんじゃ」
小グループについて教えてくれたんだ。
「そうなんだ。でも、そうして別れているなら僕はどうしたらいいの?」
すでにグループに別れた後に後から入るのは少し気まずいし、どちらかというと全体的に不安だしね。もしかしたら僕が参加出来ていない間にポジションとかの変更とかもあったかもしれないし。
とにかく何をしたらいいのかを聞かなくちゃと、勇輝に聞くのはお門違いかもと思いながらもそう尋ねていると、
「あら? 京と丘神君が一緒にいるなんて丁度よかったわ」
後ろからそう声を掛けられたんだ。声の掛けられた方に向くと、真琴が僕たちの方へと歩いてきているところだったんだよね。
「うん? どうしたの? 丁度良いって……?」
一体何の用事なのかを聞き出すためにそう尋ねると、
「そのことなんだけどね? 京はテスト勉強と補講対策で忙しくてダンスの練習は久しぶりでしょ? だから確認の意味も込めて一度京には通しで踊ってもらいたかったんだけど、あたしも宇佐美さんも色々人にお願いしている手前京1人を見ている時間がないのよ」
真琴は僕たちの近くまで来た後に、腕を組んで目を瞑りながらそう返してきたんだよね。そして、
「だから、丘神君には悪いんだけど、京のを見てあげて欲しいのよ。代わりというのも変なのだけど、各グループの見回りはあたしと宇佐美さんと、後は優花にもフォローをお願いしてあるから、よかったらお願い出来ないかしら?」
スッと眼を開けた後、勇輝の方に向かってそう言っていたんだ。勇輝はそれに
「それは願っても……じゃなくて全然かまわんが、本当にいいのか?」
少し遠慮がちに聞き返していたんだよね。勇輝はあまり乗り気じゃないのかな? それだったら……
「えっと……、確かに少し不安なところはあるけど、別に1人でも大丈夫だよ?」
勇輝にこれ以上迷惑ばかりかけてられないもんね。かなり今更なところもあるけど……。それでも心がけるのとそうじゃないのじゃ全然違うからね。そう思っていると真琴が額に手を当てて軽く溜息をついていたんだ。予想とは違う反応に戸惑っていると、
「これも京に向けてじゃないわ。……優花にも言われたんでしょ? それでこれならあたしたちはもう本当に知らないわよ?」
真琴は勇輝を軽く睨みながらそう言ったんだ。え? 睨んでる?
どうしてそうなっているのか状況がつかめずに混乱していると、
「い、いや。大丈夫じゃ。むしろ京のことは任せてくれ。京のダンスを見るとは言ったが、完璧に仕上げてしまってもかまわんのじゃろ?」
少し顔を引きつらせているような気もするけど、勇輝は肩をすくめながらそう返していたんだ。その反応に真琴はもう一度溜息をついてから、
「どうしてそれを最初から言えないのよ……。後、その言い方だと駄目なフラグにしか聞こえないわよ?」
そう返していたんだよね。だけど、
「……どうしても最初に様子を見てからしか動けんのは俺の悪い癖じゃな。それとそのフラグ……? って何じゃ?」
勇輝はキョトンとした表情を浮かべながら聞き返していたんだ。あー、勇輝はフラグを知らないのかー……。まぁ、今でこそ色々なところで使われ始めてるけど、まだ浸透しているって程じゃないもんね。やっぱりまだまだ一般常識じゃないよねーとかそんなことを考えていると、
「あたしもなんだかんだ言って優花に毒されていたか……。えっとね? 例えば映画とかでカッコいい科白を言った登場人物って大抵失敗するでしょ? そういう失敗する前振りのことを言うのよ」
真琴も真琴で何とか説明しようとしていたんだ。だけど、
「あぁ、確かに映画とかじゃ失敗しておるが……。それが今どういう関係があるんじゃ? まさか現実であんな風にはなるまいて」
やっぱりそういうのは映画とかドラマの話の中だけの話だと思っている勇輝には通じなかったんだよね。その様子に真琴も頭をガシガシとかいてから、
「あぁ、もう! やっぱり説明は難しいわね、ほんと! また今度優花から直接説明させるから今は気にしなくていいわ。むしろ気にした方が本当になるかもしれないから気にしちゃだめよ。あと、優花がここから3つ隣の教室の確保に成功したって言っていたから、そこでなら誰にも邪魔されることなく練習出来るはずだから。いい? 京が完璧になるまで戻ってきちゃだめだからね!!」
早口で僕たちにそう告げると、そのまま僕たちは追い出すように教室の外へ押し出されたんだ。そのときにチラッと真琴の顔を見ると少し頬が赤くなっていたから、きっと恥ずかしかったんだろうね、色々な意味で。それはともかく、真琴の言う通り僕がセンターなんだから下手なダンスは出来ないよね、うん。そう心の中で気合を入れていると、
「気になるなと言われた方が気になるんじゃが……。まぁ、それよりも優先することがあるから今は出来る限り考えないようにした方が良いのぅ。……よし。それじゃあ折角俺たちのために教室を確保してくれたって言っておったんじゃし、向かうとしようかの」
勇輝は勇輝でさっきの真琴とのやり取りが気になっていたみたいだけど、首を横に振って何とか気持ちをリセットしようとしていたんだ。それで、無事にリセット出来たみたいで、僕にそう尋ねてきたんだ。僕もそれに「うん」と言いながら返事をし、真琴に言われた教室に向かったのであった。




