101話 テスト勉強①
今回は前半は京視点、後半は健吾視点です。
「勇輝、勝手なことをしちゃってごめんね?」
健吾から逃げるようにその場を去り、そのまま正門の近くまで来たところでふと我に返った僕は勇輝の方へと振り返ってそう謝ったんだ。だけど
「い、いや。それはいいんじゃが……」
勇輝は僕に目を合わせようとせずに視線を泳がせて何故か言い辛そうにしていたんだよね。どうしたんだろうと思っていると、
「そのじゃな……。そろそろ手を離してくれんかのぅ」
チラチラと手の方を見ながらそう言ってきたんだよね。そこでようやく勇輝の手をつないだままだったことに気が付いた僕はパッと勇輝の手から手を離して、
「ご、ごめん」
と改めて勇輝に謝ったんだ。
「いや、全然大丈夫じゃよ」
勇輝は気にするなと頭を振りながらそう言ってくれたんだけど、それでも僕が掴んでいたところに時々視線を送っていたから気になっているみたいだったんだ。
「うぅん。ごめんね? 強く握り過ぎちゃってた?」
健吾から逃げることに必死で他のことに何も気を回せなかったしね……。もしかしたら強く握り過ぎて痛かったのかもしれないと思いながら勇輝に尋ねると、
「い、いや、そういうことじゃないんじゃ。本当に大丈夫じゃから京は気にせんで大丈夫じゃよ」
今度は手まで左右に振って否定してきたんだ。僕は「そ、そう……?」と呟くように返すと、
「あぁ。それよりもじゃ」
勇輝は振っていた手を止め、話を区切るようにそう言った後、
「少しばかり聞きたいことがあるんじゃが、いいかのぅ?」
勇輝は僕に質問があると言ってきたんだよね。
「うん。何かな?」
だから僕は続きを促すように返すと、
「あぁ。ちょっと俺からは言い辛いんじゃが……」
勇輝は少し良い淀んでいたんだけど、何か覚悟を決めたかのように、
「京は中山のことが好きなのか? も、もちろん異性としての話でじゃ」
僕にそう聞いてきたんだ。それは今日の朝に久川さんとも話をした内容だったんだ。未だに僕の中では結論を出せていない――正確には結論を出すことから逃げていた――内容に言葉を詰まらせていると、勇輝はそれを肯定と取ったみたいで、
「そうか……。やはりそうなんじゃな……」
と悲しそうなそれでいて何か諦めたような笑みを浮かべながらそう言っていたんだ。勇輝がどうしてそんな顔をしているのかはわからないけど、誤解を解かないと今の関係が終わってしまうのではないかと直感的に思った僕は
「そ、そんなことはないよ! 健吾は確かに好きか嫌いかっていうと好きだけど……。それは友達として好きというわけで……。だから勇輝が思っているのとは違うからね?」
いつもより早口でそう言い切って勇輝が考えていたことは間違っているということを伝えたんだ。だけど
「そうだといいんじゃが……」
勇輝は僕の言葉を信じきれないみたいで何かを口にしようとして口を開けていたんだけど、上手く言葉が見つからないみたいで口を閉じるということを繰り返してたんだよね。たぶんだけど、あのときの健吾とのやり取りのせいで僕の今の言葉を信じられないんだよね? 少し落ち着いた今あのときのことを思い出すと、傍から見ていると僕の言動ってただの嫉妬にしか見えないもんね……。僕の事情を知らない勇輝からしたら女の子が女の子のことで男の子に突っかかっている構図になっちゃっていたし。でも、何であのときの僕はあんなに健吾に突っかかっちゃったんだろう? 中学のときも健吾が女子に話しかけられているところはよく見かけていたはずなのに。あのときも健吾ばかり女子に話しかけられてズルイって言ったことはあったけど……。っと、それよりも今は勇輝の誤解を解かなきゃ。きっとあのとき感じたものもズルイって思う感情の延長線上のものだよね、うん。
そう無理矢理自分の中で結論付けた僕は
「本当に本当だよ? あのときだって健吾が女子に話しかけられてズルイ……ってこういう言い方だと違う意味になっちゃうかな。中学のときは健吾の浮いた話ってのをほとんど聞いたことがなかったから、それが急に女の子と2人きりで勉強会をするって言っていたからビックリしただけで」
途中で一度言い方を変えながらもそう勇輝に伝えたんだ。ただ、平穏な心の状態じゃないときに言い方を変えようとしたところで上手くいくわけもなく、伝え終わったところで、あれ? 言い直したけど意味がほとんど変わってない!? むしろ悪化してる!? って心の中で冷や汗をかいていたんだけど、
「これはどう考えても無自覚なだけじゃよな……。でも無自覚じゃからこそまだチャンスは……。どう考えても圧倒的に不利じゃが……」
勇輝は勇輝で手で口元を隠しながら何やらブツブツと呟いていたんだよね。何かを言っているのかはわかったんだけど、何を言っているのかまではわからなかった僕はやっぱり言い方が悪かったのかなと何か別の言い方が出来ないかと必死に探していると、
「まぁ、こればかりは仕方がないということじゃな。それよりもじゃ、折角俺らも一緒に勉強をするんじゃから中山たちには負けんくらいには頑張らないといけんのぅ」
勇輝はパンと手を叩いた後、そう言ってきたんだ。僕の言い方が悪くてまた誤解をさせてしまったんじゃないかとヒヤヒヤしていた僕は全くそのことには触れないでそう言いだした勇輝に「えっ? えっ?」と戸惑っていると、
「オススメの喫茶店があるんじゃが、そこで勉強をということでいいかのぅ? さすがに桝岡さんのところほど静かなわけじゃないが……。それでも人はそれほどおらんし、店主も気が利くお人での。どうじゃろうか?」
勇輝は僕を気にせずに言葉を続けた後に、そう提案してきたんだ。僕は戸惑いながらも何とか頷いて返すと、勇輝もまたそれに頷いて返してから、「それじゃあ行くとするかのぅ」と言って僕に歩き出すよう促してきたんだよね。だから僕はもう一度頷いて、勇輝の案内に従ってその店に向かったのであった。
~~一方その頃~~
「はぁ……。京のやつ一体なんだったんだ……。久川さんごめんな? 俺が無理言って京も誘うって言ったのにこんなことになってしまって……」
京が丘神の手を取ってどこかに言ってしまったことは色々と気になるところだが、それよりも今は俺のわがままを聞いてもらったのに今のやり取りを聞いてを気分を害してしまっているだろう久川さんに謝ることが先決だと思った俺は久川さんの方へと振り返ってから頭を下げて謝ったんだ。
「いえ……、こうなることもある程度予想した通りでしたので問題ありませんわ」
ただ、返ってきた答えは予想していたものとは少し違うものだったんだ。
「え? それはどういう……」
だから俺は思わず聞き返したんだが、
「ふふふ……。それは内緒ですわ。私の口からは言えませんわ」
久川さんは微笑むだけで答えを教えてくれなかったんだ。それでも俺は何とか教えてもらおうと思って口を開きかけたが、その前にそもそもこんな空気にしてしまったのにその原因を教えてもらうなんて虫が良すぎるということに気付けた俺は口を閉じて頭の後ろをガシガシとかいてから
「……そうだよな。久川さんに聞くこと自体が間違っているよな。本当にごめん」
もう一度謝ったんだ。すると今度は予想通り気にしていないという答えがもらえた俺は
「京も覚えるのが苦手だから久川さんの暗記法を教えてあげたかったんだけどなぁ。メモリーツリーだっけか?」
若干愚痴めたくなりながらもそう呟くと、
「私も本で読んで知っただけですから私独自の勉強法ではありませんわ。それにこれはコツさえ掴めば誰でもすぐに出来るようになりますし、今度中山さんが熱海さんに教えてあげてくださいまし」
久川さんはそう言ってくれたんだ。気を使われているなぁと感じながらも
「あぁ、そうするよ。そのためにも今日はやり方を教えてもらわないとな。もちろん久川さんが苦手としているところは教えるつもりだが……。それよりも、勉強場所なんだが、俺がよく通っている喫茶店でもいいか? 店主がうるさいのが少々ネックだが、何だかんだで空気も読める店主だし、客も滅多に来ないから静かで作業がしやすいんだ」
と桝岡さんの喫茶店を提案し、久川さんの了承を得られた俺は久川さんを連れて桝岡さんの喫茶店へと向かったのであった。
メモリーツリーは某ドラゴンな桜でも紹介されていた勉強法ですが、
実際にしてみると上手く使いこなせればすごく覚えやすそうでしたので、
暗記ものが苦手な方は試してみてはいかがでしょうか。
後、健吾と久川さんのテスト勉強についてですが、需要があれば章間かSSとして入れると思います。




