98話 始業式③
今日か明日くらいに京と健吾の関係修復の話の続きを活動報告に載せます。良ければそちらも呼んでいただければ幸いです。
「ふぅ~、ほんっと今日も長かったわね、あの狸。冷房が効いていなかったら倒れる人がいたんじゃないかしら」
「あはは、そうだね。でも冷房が効いていたから寝ている人もかなり多かったみたいだけど」
「それは仕方がないかと。あれほど意味のない話を繰り返していたら聞いている方も時間の無駄というものです」
あの後、健吾と勇輝に声を掛けられるまで考え続け、我に返った後は何故か2人に教室まで引っ張られたんだよね。そのことについて教室で真琴にからかわれたんだけど、無事に遅刻せずに済んだんだ。それで校長先生の長い挨拶が大半を占めた始業式も終わり、教室へと向かいながら僕たちはそんな話をしていたんだ。僕たちが一通り校長先生の悪口を言った後、
「それにしても予想はしていましたが、海老菜さんたちのことについては話題として上がりませんでしたね」
優花ちゃんがそう話を振ってきたんだよね。
「……そうだね」
夏休みのあの事件を起こした後、海老菜さんや藤林君たち、つまりはあの事件の首謀者たちは学校を自主退学という形で退学となったんだ。自主退学となったのは自主的な退学とすることで、当人たちの今後の影響を出来るだけ抑えるための処置なんだって。これで海老菜さんたちとはもう滅多なことが無い限り会うことはないだろうけど、それでも思うところもなくなったのかというとそれはまた別の話なわけで。それで優花ちゃんの言葉に反応が少し遅れてしまうと、優花ちゃんはそれに気づいたみたいで、
「すみません。やはりこの話題はするべきではありませんでしたね」
と謝ってきたんだ。僕はそれに頭を振ってから、
「ううん。大丈夫だよ。確かにまだ忘れられないけど、それでももう大丈夫だから」
優花ちゃんの言葉を大丈夫ということを2回言って強調しながら否定したんだ。それでも優花ちゃんは遠慮しちゃうだろうと思った僕は
「たぶんだけど、ホームルームのときに説明があるんじゃないかな? 夏休みの間に退学者が出たのは僕たちの学年だけだと思うし」
話を変えられる前に僕からさっきの話を続けたんだ。すると真琴がそれに乗るように、
「始業式のときに言わなかったってことはやっぱりそういうことよねぇ。普段は放任過ぎるくらい放置しているくせに、不祥事が起きたときだけ本当に厳しいわね、この学校」
そう言ってくれたんだ。真琴もやっぱり同じ考えだったみたいなんだよね。僕と真琴でこの話を続けた甲斐もあってか、優花ちゃんも
「そうですね。外部にも知られてしまうような不祥事を起こした途端厳しくなりますよね。体育祭のときも反省文と1ヶ月の停学処分程度の処罰しかありませんでしたし。それに比べて今回のことについては有無を言わさせずに自主退学という形で終わらせてしまいましたもの」
同意するようなことを口にしていたんだ。優花ちゃんがもうさっきのことは気にしていなさそうであることに内心ホッとしていると、
「ほんっとこの学校って事なかれ主義過ぎるわよねぇ」
真琴はしみじみとした雰囲気を出しながらそう言っていたんだよね。かと思うと、今度は悪戯っぽい笑みを浮かべて、
「まっ、逆に言うと学校にさえ迷惑を掛けない範囲であれば何をしても許されるってことだから楽だからいいんだけどね」
と締めていたんだ。それに僕と優花ちゃんは確かにこの学校は真琴向きだよねとからかい、真琴の文句を2人であしらいながら教室へと向かったのであった。
…………
……
「よぉーし、お前らー。ちゃんと宿題やって持ってきたかー? それじゃあ順番に回収していくぞー」
牧野先生はそう言いながら宿題の回収を始めたんだ。まぁ僕はちゃんと宿題を終わらせていたし、朝出るときにしっかりと確認したから忘れたってことはなかったけどね。
牧野先生が指定した教科の宿題をカバンから取り出すことを繰り返し、一通り終わった後暫く待っていると、牧野先生もそれのチェックが終わったみたいなんだ。
最後に持ちやすいように、トントンと机で宿題の山を整えてから、
「さてと宿題の回収も大方終わったし、連絡事項は……と。まずは……」
そう言ってから、予想通り海老菜さんたちが退学したことについて話し始めたんだ。退学の理由は家庭の用事でということになっていて、本当の理由については伏せられていたんだけどね。さすがに事が事なだけに、やっぱり詳細については言わないよねと心の中で呟いていると、夏休みも終わったんだから気を引き締め直せよと言ったような連絡をしていったんだ。そして、
「まぁ、連絡事項はこれで終わりだ。最後にもう全員知っていると思うが、今日は文化祭の練習は禁止だから早く帰れよ」
最後にそう締めて、これでホームルームは終わりだから気を付けて帰れよと言ってから予め持ってきていた袋に集めた宿題を入れて教室を出ていこうとしていたんだよね。僕はそれを何となく見送っていると、牧野先生は扉に手をかけたところで、
「あっ、そうそう。わかっているとは思うが1週間後には実力テストがあるからしっかり勉強しておけよ。補講になって練習時間が無くなるなんてなったら目も当てられないからな」
とだけ思い出したように言ってから教室を出ていったんだ。ただ、
「忘れてた……」
夏休みで色々とあったのもあるんだけど、実力テストのことがすっかり頭から抜けてしまっていた僕はその言葉を聞いてようやくそのことを思い出したんだ。いや、実力テストと言っても範囲は夏休みの宿題の範囲だからまだ何とかなるはず……と、焦りながらも何とか冷静になるための理由を探していると、
「京、どうしたんじゃ?」
勇輝が声をそう声を掛けてきたんだよね。そんなに僕おかしかったかなと思いながら勇輝の方へと振り返り、
「いや……、あのね? 実力テストのことを忘れちゃっていたんだよね……」
まだ動揺を抑え切れていない僕はそのまま素直に答えちゃったんだ。慌てて口を押えたんだけど、時すでに遅くしっかり勇輝にも伝わっちゃったんだ。これは絶対呆れられると思って言い訳の理由を必死に考えながら勇輝の様子を窺っていたんだけど、
「まぁ京は夏休みに色々あったし、仕方がないじゃろ」
返ってきたのは呆れた表情や咎めるような言葉ではなく、いつも通りの表情と僕を慰めるような言葉だったんだよね。予想外の反応に戸惑っていると、
「京のことじゃから宿題はキッチリやっておったじゃろうし、それほど問題はないと思うんじゃが……。不安なのは宿題を終わらせてから勉強をあまりしておらなかったから苦手な箇所が問題なくテストでも解けるかが不安なんじゃろ?」
と勇輝が聞いてきたんだ。本当は苦手なところだけじゃなくて得意なところ以外全部が不安なんだけど、それをわざわざ言うことでもないと思った僕は勇輝の言葉を肯定するために頷いて返すと、
「ふむ……」
勇輝は少し考える素振りをした後、
「京さえ良ければなんじゃが……」
と前置きをして僕の様子を窺っていたんだよね。なんだろうと思って勇輝の言葉を待っていると、
「一緒にテスト勉強をせんか?」
そう僕に聞いてきたんだ。




