92話 戻る心②
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これからもゆっくりとですが更新していきますので、
気長にお付き合いしていただければ幸いです。
「はい」
と返事をするとすぐに扉が開かれたんだ。するとそこには
「……丘神先生」
丘神先生がいたんだよね。健吾じゃなかったことに残念だったような、安心したような気持ちになっていると、
「健吾君じゃなくて残念だったかい?」
丘神先生が少し意地の悪そうな笑みを浮かべながらそう言ってきたんだ。内心を言い当てられた僕は視線を丘神先生から外して口を尖らせながら
「……別にそうじゃないですよ。僕は健吾なんて待ってないです」
と返したんだ。すると、
「少しからかい過ぎたかな? ごめんね。ところで……」
丘神さんはすぐに謝ってくれたんだ。だけど、その後何か言葉を続けようとしていたみたいなんだけど、言葉を途中で途切れさせていたんだよね。どうしたんだろうと思って視線を丘神先生の方に戻すと、
「京ちゃん、いや、君は何日寝ていたと思う?」
丘神先生が真剣な顔をしながらそんなことを聞いてきたんだ。わざわざ僕への呼び方を言い直したことといい、どういう意味なんだろうと思いつつ
「2日くらい……ですか……?」
と、確かあのときからそれくらいだよねと思い出しながら返すと、
「ふむ……」
丘神先生は何やら思うことがあったみたいなんだよね。何やら得心が行ったみたいで、うんうんと頷きながら何か考え事をしていたんだ。何を思いついたのかはわからないけど、話しかけていいのかどうかわからずにただ見ていると、
「無事に記憶が戻ったみたいだね」
と穏やかな笑みを浮かべながらそう言ってきたんだ。
丘神先生のその言葉に、夢ではなかったとわかりながらもやっぱり夢だったんじゃないかという僅かな希望が潰えたことを察した僕は
「やっぱり夢じゃ……ないんですね」
確認の意味を込めて丘神先生の様子を窺いながら返したんだ。すると丘神先生は少しだけ驚いたような表情を浮かべながら
「ふむ、どうやら記憶を失っていた間の記憶もあるみたいだね」
と返してきたんだよね。僕は丘神先生が確認するかのように聞いてきたことに不思議に思いながら
「あれ? そういう意味で言ったんじゃなかったんですか?」
何でそんなことを聞くのかという意味を込めて返事をすると、
「京ちゃんが日にち感覚がわからなくなっているだけの可能性があったからね。だからどういう意味なのかとか、わからないという返事が返ってくると思っていたんだよ」
そんな返事が返ってきたんだよね。ここで僕は誤魔化すことが出来たものを自ら墓穴を掘って無理になってしまったことに気付いたんだ。まぁ最初から誤魔化すつもりはなかったんだけどね……。それでも盛大にやらかしちゃったことには変わらないわけで……。僕は一瞬頭の中が真っ白になって口をパクパクとさせていると、
「京ちゃんまずは落ち着いて。あのときのことを聞かないで欲しいなら私からは何も聞かないからね」
丘神先生が深呼吸をするように言ってきたんだよね。だから僕は促されるように何回か深呼吸をして、少しだけだけど気持ちが落ち着いたところで、
「教えて……もらえませんか?」
何とか絞り出すようにそう伝ええたんだ。すると、
「いいよ。何を聞きたいんだい?」
丘神先生は笑みを浮かべながらそう返してくれたんだ。その笑みを見て僕はこれで不安が解消できるとホッとしながら
「あの後、健吾はどうでしたか?」
起きてからずっと気になっていたことを尋ねたんだ。
あのときはまだ夢であった可能性があったから考えないようにしていたんだけど、現実だということがわかってしまったからには逃げられないことだからね……。
だけど健吾に直接聞く勇気がなかった僕は丘神先生ならば知っていると思って聞いてみたんだ。だけど、
「それは私からは答えられないかな」
返ってきた答えは否定だったんだよね。丘神先生まで知らなかったら健吾に直接聞くしかないということに不安になっていると、
「京ちゃん、君は私があの後……ということがどこまでのことを指しているのかまではわからないけれど……、そのことについて知りたいんだよね? それで京ちゃんは私ならば知っているかもしれないと思ったからその問いを私にしてきた……と。結論だけ言うと、京ちゃんの予想通り、京ちゃんが望む答えを答えることは出来るよ」
丘神先生は知っているって言ってきたんだよね。予想外の答えに一瞬気の抜けたような声が出かけたけど、何とか押しとどめてから
「なら、教えてくれてもいいじゃないですか。何で教えてくれないんですか……」
声は出なかったけど、身体の力が抜ける感覚を覚えながら問いかけると、
「京ちゃんは本当に聞きたいのかい?」
今度は質問に質問で返ってきたんだ。何とか振り絞りだして聞いた質問にも答えてもらえなかった僕はついに
「え……?」
我慢していた声が漏れてしまったんだ。だけど丘神先生はそのことに気にした様子もなく真剣な表情で
「京ちゃんが聞こうとしていることはね、京ちゃん自身もわかっていることみたいだけど、京ちゃんと健吾君の今後の関係に大きく関わってくることだ。それを京ちゃんは本当に健吾君の口からではなく、私の口から聞きたいのかい?」
僕にそう聞いてきたんだ。答えを知りたいことは本当のことなんだけど、果たしてそれは丘神先生から聞いていいのかどうか……。丘神先生に指摘されたことでどうしたらいいのかわからなくなっていると、
「悩むってことは心のどこかで健吾君に直接聞いた方がいいって思ってるってことだよ。だからね? もう一度よく考えてごらん? 今日はもう遅いし、また明日様子を見にくるから、そのときにも健吾君からではなくて私から京ちゃんの質問の答えを聞きたいと思っているならもう一度同じ質問をしてほしい。そうしたら私は質問に答えるからね」
丘神先生は「今日は起きているかどうか確認しに来ただけからね」と笑みを作りながら僕に言うと、そのままよいしょと言いながら立ち上がって病室を出ていったんだ。
僕はそれをただ見送った後、丘神先生に言われたことを改めて思い返したんだ。丘神先生に言われた通り、あのことについては健吾に直接聞いた方がいんだと思う。だけど、あんなことしちゃって健吾は絶対に怒っているだろうし、顔を合わせてくれないかもしれないんだよね。この病室は携帯を使っても問題ないから、連絡を取ろうと思えばいつでも連絡を取ることは出来るけど、返事をしてくれないかもしれない。下手したら着信拒否もされているかも……。
こうして僕は携帯電話を片手に健吾に連絡を取るかどうかで一晩中悩み続けたのであった。
あくまで京の中では男友達という前提での葛藤でした。




