表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様によるペナルティ  作者: ずごろん
第三章 夏休み編
116/217

85話 デート②

「……ふぅ。健吾さん、これからどうしましょうか?」


熱海家から飛び出し、ようやく顔の熱も取れ始めてきた頃、京が俺にそう問いかけてきたんだ。それに俺は頬をかきながら


「えっとだな……。今日はこの周辺を歩こうと思っていたんだが、どうだろうか?」


少し言いよどんでしまったが、何とかそう伝えたんだ。すると京は少しポカンとした表情を浮かべた後、


「この辺りを……ですか?」


そう聞き返してきた。デートだって言われたのに、いざ中を開いてみればこの周辺散策だと言われれば拍子抜けするよな……。いや、本当はもっと遠出しようとも考えたさ。だけど、ずっと入院していて、ただでさえ少ない体力がさらに少なくなっているだろうから却下。それで、この辺りのもので探そうにも、それが本当に今の京が喜んでくれるのかもわからない。今の京とも話をし始めて1週間経っていないから好みがハッキリとわかっていないのが主な原因なのだが……。まぁそれで、昨日寝るまでの間考えたが、結局大外れを引いてしまうくらいならばいっそのこと周辺を一緒にウィンドウショッピングをした方がいいという結論に至ったんだ。


こうして色々と理由をつけたりしたが、ぶっちゃけただのノープランだ。何も決めることが出来なかった気まずさもあり、恐る恐る京の様子を窺うと、


「遠出が出来ると思っていたのに……」


と寂しそうな表情を浮かべながら言われてしまった。ここで俺は少なくてもこの辺り以外のところを選ぶべきだったと気付いたんだ。普通に考えればデートだって言われたのに、いざ蓋を開けてみれば見慣れた場所の散策って言われたらガッカリするよな……。


京だからノリで行動を決めても許してくれるだろうと甘えてしまったことに後悔しても後の祭りと、すぐに謝らねばと頭を下げ、謝罪の言葉を口に出そうとしたところで、


「ふふ……」


と京が堪えきれないといった様子で笑い出したんだ。どうして笑い出したのかわからずに戸惑っていると、


「申し訳ございません。まさか健吾さんがここまで狼狽えるとは思っていなかったもので」


と言われたんだ。だが、それでもイマイチ把握できていないでいると、


「健吾さんが私を思ってこの辺りの散策にしようとしてくださったのはわかっていますよ。だから何も考えていなかったとは思っていませんよ?」


笑いを我慢出来ないのか、言葉の端端に笑いをこぼしながら京はそう言ってきたんだ。そこでようやくからかわれていたことがわかった俺は一言文句を言おうと下げかけた頭を上げ、口を開いたところで、


「京ちゃんそれは……ってちょっ!?」


京は俺から逃げるように気付いたんだ。ここまでいいように京にしてやられてしまった俺は仕方がないと頭の後ろを軽くかいてから、京を追いかけるために走り出したのであった。

まぁ、京が元々逃げるつもりがなかったし、そもそも足の速さ的にもすぐに京に追いついてしまったのだが、そこはご愛敬というやつなのだろう。


…………

……


「さて、どこを回ろう……か……?」


商店街まで辿り着き、これからどこを見て回ろうか――見て回れるところも限られてはいるのだが――を相談しようと京の方を向いたのだが、京の視線が何かに釘づけになっていたんだ。

何を見ているのかと、京の視線の先を見てみると、そこにはぬいぐるみがあったんだ。

京は京矢だったときからそういったものが好きだったもんなぁ。さすがに周りにバレたらからかわれるのがわかっていたみたいで隠そうとしていたが。俺が知っているのも連絡なしで京矢の部屋に入ったときに偶然ぬいぐるみを抱きしめて幸せそうな笑みを浮かべていたのを目撃したからだしな。あの直後絶対に誰にも言わないでくれって顔を真っ赤にしながら頼まれたりしたが、今はそんなことを思い出してるときじゃないか。

ぬいぐるみに釘づけになっている京を見守っていると、途中で我に返ったのかハッとした表情を浮かべ、


「す、すみません……。それでは行きましょうか」


俺に謝ってきたんだ。まぁ、その後行こうと言いながらもチラチラとぬいぐるみに視線を向けていたが。

ぬいぐるみが売っているような店だから俺に気を使っているんだろうが、そこまで気になるなら入りたいって言えばいいのにな。俺は苦笑しながら


「そこまで気になるなら入るか?」


そう京に問いかけた。すると京は両手を手で振りながら


「い、いえ!大丈夫です!健吾さんにも悪いですし……」


俺に悪いからと言い返してきたんだ。俺を優先しようとする京に、俺はこれみよがしに溜息をついてから、


「俺から入ろうって言っているんだから、悪いわけないだろ」


そう言い、無意識の内に京の頭を――といっても帽子越しだが――撫でていた。すぐにまたやらかしたことに気付いた俺はすぐに京の頭から手を離し、


「す、すまない」


と気恥ずかしさから視線を逸らしつつ京に謝ったんだ。だが、予想していた咎める声がいつまで待っても来ず、恐る恐る京の方を見ると、京は指先を合わせながら


「い、いえ……。だ、大丈夫です……。えっと……その……、本当にいいんですか?」


と上目遣いで俺に聞いてきたんだ。その仕草は反則だろ……。いや、まぁその仕草をしてくれなくても了承したんだけどさ。


俺は京を直視出来ずに、視線を京の周りに忙しなく動かしながら、


「あ、あぁ。もちろん。折角のデートなんだから楽しんでもらいたいしな」


なんとかそう伝えた。正直言って、キョドっていて全然決まっていなかったと思う。ただ、それでも京に


「ありがとうございます!」


という言葉と一緒に満面の笑みをもらえたんだ。これはこれでよかったんだと自身を納得させ、京を追うように店の中に入ったのであった。


…………

……


「まさかここまでとは……」


店の外(・・・)で俺はそう呟き、近くの自販機で買ったジュースに口をつけた。京のためと思い店に入って2時間(・・・)が経過した。最初の1時間は一緒にいたのだが、店の雰囲気と店員の暖かい目に我慢が出来なくなった俺は京に外の空気を吸ってくると伝えてから店を出て、店が見えるベンチで京が出てくるのを待っていた。


「……本当に女の子だな」


いや、見た目は元々完全に女の子なのだが。思わずそう呟いてしまうほど、今の京は中身も完全に女の子になっていることを店で一緒に見回っている間に実感した。主に店を見て回る時間的な意味で。


「はぁ……っとと」


何度目かわからない溜息をついてしまったところで俺は慌てて口を閉ざした。いや、いいんだ。京が楽しんでくれていれば、うん。


「ふぅ……。お?」


溜息をこれ以上つくまいと、飲みかけのジュースを飲みほし、これからどうしようかと思ったところで京が店から何やら慌てた様子で出てきたんだ。どうしたのかと思いながら俺は空になったジュースの容器を捨ててから京の方へ駆け寄り、


「京ちゃん、どうしたんだ?」


と話しかけた。すると、


「け、健吾さん。すみません。折角デートに誘っていただいたのに、ずっとぬいぐるみばかり見てしまって……」


京は俺を待たしていたことを自覚したのか、顔を若干青くしながらしきりに頭を下げて俺に謝ってきたんだ。その様子に俺は


「京ちゃんが楽しめたのならいいさ。俺もしておきたかったことが出来たしな。それよりも何かいいものは見つかったか?」


肩をすくめながらそう返した。実際に、1人になれたおかげで用意し忘れていたものを用意することが出来たしな。まぁそれはともかく、京が見惚れていたぬいぐるみよりもいいものがあったか尋ねると、


「い、いえ……。あの子よりいい子は見つけられませんでした。すみません、待たせてしまったのに……」


とまだ気にしているようで申し訳なさそうに返してきたんだ。


「そうか。ならいいんだ」


他のぬいぐるみの方がよかったらどうしようかと思っていた俺は思わずそう呟くと、


「えっと、いい……とは……?」


京の耳にも届いてしまったみたいで何がいいのか聞いてきたんだ。だが、今答えてしまっては意味がない俺は


「まぁあれだ。別に俺は気にしていないから京ちゃんが気に病むことはないってことだ。それよりも、そろそろお腹が空いてきていないか?」


適当にぼかしてから、話を逸らすためにも京に腹が減っていないか聞いたんだ。すると昼に差し掛かる時間ということもあり、


「えっと……はい……」


という返事をもらうことが出来た。期待した答えを得ることが出来た俺は頷いてから


「そうか。ならオススメの喫茶店があるからそこに行こうか。店長に若干の癖があるが、そこに目を瞑れば本当にいい喫茶店だから」


どこから情報を仕入れたのか、昨日の夜から仕切りに京を連れて来いというメールを飛ばしてきた従姉の喫茶店へ京を案内したのであった。

最後に健吾の、デートなのに従姉の喫茶店に連れていく理由という名の言い訳を書こうとしたのですが、いい表現が見つからずカットされました。


断じて健吾君はメールを無視してしまった後の従姉の仕返しが怖くてとかそういうわけじゃないんです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ