80話 変わる心
今回は少し短いです。
「ぐっ……」
頭の痛みで俺は目を覚ました。って、そもそも何で俺は寝ていたんだ?確か京を助けだして……っ!!
「京っ!!ぐっ……」
そうだ!後ろから何かで殴られてしまって気絶してしまったんだ!あれから京はどうなったんだ!?京の無事を確認するためにも急いで起き上がろうとしたんだが、再び頭の後ろの痛みが襲ってきて、その痛みに俺は思わず体を硬直させてしまった。それでも何とか体を動かそうと、固まってしまった体を解そうとしていると、
「おや?起きたのかい」
そう声を掛けられ、声がした方に視線を動かすと、丁度開けた扉を閉めようとしている丘神さんがいたんだ……って、
「なんで丘神さんがここに……。ってか、ここはどこなんですか?」
丘神さんがいることへの疑問が俺を冷静にさせたのか、俺は自分が気を失ったときと場所が違うことに気が付いたんだ。だから俺は丘神さんにここがどこか聞くと、
「ここは僕の働いている病院だよ。向こうの病院で健吾君の治療が終わった後、ここの病院へと運び込まれたんだ。京ちゃんも関わっているからね」
そんな答えが返ってきた……って、
「丘神さん!京はっ!!ぐっ……」
この病院にいるということは京も入院しているということじゃないか。京の安否を確かめるために丘神さんに尋ねようとしたんだが、その前に三度襲ってきた痛みに思わず呻いていると、
「京ちゃんも命には別状はないから大丈夫だよ。健吾君も気を失ってから3日経っているんだ。急に体を動かすのは危険だよ」
そう丘神さんに言われてしまった。
「3日……」
予想以上に立っていた日にちに思わずそう呟くと、
「そうだよ。3日も寝ていたんだから体も固まっているんだ。急に動かすのではなく、ゆっくりと動かさないと」
丘神さんに改めて言われてしまったんだ。実際、呻いたのは頭の痛みのせいなんだが、丘神さんに言われたように今は体をゆっくりとしか動かせない俺は一先ず体を慣らすことをしようと思ったんだ。だが、さっき丘神さんが言った言葉を思い出した俺は、
「わかりました……。そう言えば、さっき京の命には別状はないと言ってましたが、まさか……」
丘神さんにもう一度訪ねたんだ。命には別状はないと言っていたが、もしかしたらまだ目が覚めていないのかもしれない。気絶してしまった俺には何が起きてしまったのかはわからないが、もしかしたら取り返しの付かないことになってしまったのかもしれない……。
そう思ったのだが、
「健吾君が今思っているだろう最悪の事態にはなってはいないから大丈夫だよ。京ちゃんも目は覚ましているし、怪我とかもないよ。ただ……」
俺が言い切る前に丘神さんに思いついていたことを否定されて、内心ホッとしながらも、最後に何か言おうとしようとしてやめたことが気になった俺は
「ただ……、どうしたんですか?」
と丘神さんに聞いたんだ。
「実は……、いや、これは私の口からいうものではないね。実際に健吾君の目で確かめた方がいい。私から言えるのは、どうか気を確かにしてほしいということだけかな」
だけど、丘神さんは首を横に振り、詳しくは教えてくれなかったんだ。その後、京の容体については教えてくれず、ただ京の部屋の番号だけを教えてもらった俺は丘神さんに礼を言い、京の部屋へと向かったのであった。
…………
……
「ここか……」
京の部屋へとついた俺は一つ深呼吸をした。
丘神さんが言っていたことも気になるが、それよりもどんな顔をして会えばいいか悩むな……。ただでさえ「守ってやる」なんてセリフをはいたにも関わらずに無様に抑えつけられてしまった上に、不意を突かれて気絶してしまってるからな……。
「…………」
俺はもう一度深呼吸をし、顔をパンと叩き、
「よし、男は度胸だ。もし嫌味を言われたら素直に謝ろう」
と誰に向かってでもなく、自分に言い聞かせるようにそう言った後、まぁ京のことだから自分の身にあれだけ危険が迫っていたにも関わらず俺が無事だったかどうか言ってくるだろうけどな。
そんなことを考えつつ、俺は勢いよく扉を開き、
「京!!大丈夫だ「きゃっ!?」た……か……?」
京の無事を確認をするためにも、大丈夫だったか聞こうとしたんだが、女性の悲鳴が聞こえて思わず言葉を詰まらせてしまったんだ。
一瞬部屋を間違えてしまったのかと思って焦ったが、前を向いて確認してもあのきれいな白髪で紅い瞳を持っているのは京以外にもそうそういないはずだ。なのにどうしてだ。どうして目の前にいる京は手元にあったのであろうシーツを胸元へ手繰り寄せ、こちらに怯えた瞳を向けてきているんだ。まるで知らない人が急に部屋に入ってきたような……。
「京……だよな……」
俺は恐る恐る、確認のためにそう聞くと、
「た、確かに京は私ですが、どうして知っているのですか……」
京はこちらへの警戒を解かないまま、いや、むしろ警戒を強めながら俺へそう問い返してきたんだ。京の態度と、丘神さんの言っていた言葉である一つのことへと思い至った俺は、自分の顔が青ざめていっているのを自覚しながらも、
「す、すまない。君は俺のことを知っているか?」
恐らく声も震えていただろうな。震えながらも京に冗談だと言ってもらえると信じてそう問いかけたのだが、
「え、えっと……。すみません……。わからない……です……」
彼女の口から出た言葉に、俺は目の前が真っ白になる感覚を覚えたのであった――
暫く京視点ではなくなります。




