75話 旅行⑪
【追記】藤林の名前を藤岡と間違えた箇所を修正しました。
「あれぇ?京ちゃんじゃん?」
「えっ……?あっ……」
トイレから出てきたところに急に僕の名前が呼ばれたんだよね。条件反射で振り返るとそこには藤林君がいたんだ。しかも両隣にガラの悪そうな男の子を二人も連れていたんだよね。ただでさえ藤林君にあまりいい感情を持っていないのに、後ろに不良っぽい人を2人も連れているもんだから、僕は思わず一歩後ろに下がったんだ。だけど、藤林君はそんなことはお構いなしといわんばかりに
「やっぱり京ちゃんじゃん。こんなところで奇遇じゃん?連れと偶々来たこんなド田舎で会えるなんて、これって運命ってやつじゃん?」
とかそんなこと言ってきたんだよね。藤林君は色々と理由をつけて僕を誘おうとしているんだろうけど、最初からその気がない僕は
「ご、ごめんね?真琴や優香ちゃんたちを待たせてるからまた学校で会ったときにでもまたお話ししよう……ね?」
って会話を打ち切ろうとしたんだ。だけど、
「まぁまぁ、そんなつれないこと言うなんてナンセンスじゃん?折角会ったんだし、こいつら含めて4人でいいことしようじゃん?」
藤林君はまたも僕の意見なんか聞いていないとばかりに顔をニヤニヤとさせながらそう言ってきたんだよね。それで、その顔を見たときに背中にゾクリとすごく嫌な寒気がしたんだ。このときに僕はようやく桝岡さんや谷村君が『絶対に1人になるな』って言っていた意味を理解したんだ。理解してしまった僕は背中に冷や汗をかきながら、さらにもう一歩後ろへと下がって、
「いや、いいことが何かもわからないし、それに真琴たちも待たせているから遠慮しておくね?それじゃあねっ!?」
言い逃げをしようとしていたんだけど、健吾たちがいる方向の通路がいつの間にか藤林君の連れてきていた男の子たちに塞がれていたんだよね。逃げる方向を見失った僕は藤林君の方に向きなおすと
「『"いいこと"が何かって……。俺たちってもう高校生じゃん?ならもうすることって決まっているじゃん?」
藤林君はただニヤニヤさせていた顔を下卑たものへと変貌させていたんだ。その顔を見てしまった僕は
「ごめんっ!!」
って言った後、力一杯に藤林君を突き飛ばしてから藤林君の連れてきた2人がいない方向――健吾たちがいる方向とは逆の方向へと走りだしたんだ。
そして、曲がり角を曲がろうとしたところで、
「おい、何してるじゃん!?早く捕まえるじゃん!?」
っていう藤林君の声が聞こえてきたんだ。
その言葉を聞いた僕は走っていた足を止めずに小柄な体を活かして人波の中へと入っていったのであった……。
…………
……
「はぁ……はぁ……」
人波の中へと入って藤林君との距離を稼げたのはよかったんだけど、元々体力がない僕はすぐに息が切れ始めてきたんだ。少しでも体力を回復するために人波から少し外れて息を整えようとしていたんだけど、後ろからは人をかき分けるために大声で怒鳴っている藤林君たちの声が聞こえているんだよね。だから僕はもうひと頑張りしなくちゃって思って気合いを入れなおそうとしたところで、
「あれ?熱海さん?どうしたの?すごい切羽詰まっているような雰囲気だけど……?」
って声を掛けられたんだ。急に話しかけられたから思わず体をビクリとさせてから声の方向に軽く顔を向けると青木君がいたんだ。いたんだけど、相手にしている余裕がなかった僕は
「あ、青木君。ごめんね、今はちょっと無理」
って言ってから返事を聞かずに僕は再び走り出したんだ。今の一瞬で藤林君たちにどれだけ追いつかれたのかを確認するのも怖くてまた人波の中を走っていると
「熱海さんはあれに追いかけられていたのか……。ここは俺に任せてくれっ!!」
いつの間にか僕に追いついてきた青木君はそう言うや否や僕の手を掴んで、そのまますぐに人波から外れて脇道へと僕を誘ったのであった。
…………
……
最初は青木君に手を握られてそのまま走り出されたことに緊張していたんだけど、青木君はここが地元なのかと疑いたくなるくらいにすいすいと狭い道を進んでいったんだよね。
そのおかげでまだ後ろから追いかけてきている声は聞こえてきているけれど、さらに距離を離すことが出来たんだ。だから僕は
「はぁ……はぁ……。青木君はすごいね?はぁ……、よく道に迷わないね?」
って走りながらだから言葉が少し途絶えながらもそう青木君に尋ねたんだ。すると
「何が起こってもいいように下準備はしっかりしてきたんだよ。まぁ、まさかこんなことに使うとは思わなかったけど……」
青木君は苦笑しながら返してきたんだ。まぁ、こんな状況だれも予想出来ないよね……。そう思いながら何か返そうとしたところで
「とにかく、もうひと頑張りなはずだから、熱海さんもがんばって!」
青木君に励まされたんだ。だから僕も
「うん!」
とだけ返してからその後も暫く走っていたんだけど、僕の体力が限界に近付いてきたんだ。青木君に引っ張ってもらっていたおかげで体力の減りをかなり抑えられていたんだけど、僕の足がもつれ始めちゃったんだ。何度か転びかけて大分足取りもおぼつかなくなってきたところで、分かれ道にさしかかったんだ。すると青木君が
「熱海さん!!そこの分かれ道はあそこに入るよ!!」
「は、はぁ……はぁ……。う、うん!わ、わかった!」
って、指を指して行く方向を言ってくれたんだ。そしてそのまま青木君が言った道へ行くとトラックがあったんだよね。しかも丁度荷台のところが覆われているタイプの。それを見た青木君が
「熱海さん、一先ずここに隠れるよ!!」
って提案してくれたんだ。僕も同じことを考えていたから
「うん!」
と返事して、滑り込むようにトラックの中に身を隠したんだ。すると、丁度僕たちがトラックの荷台に隠れたのと入れ違いのタイミングで藤林君たちが分かれ道まで来たみたいで、
「くっそ、どこ行ったじゃん!?おい、手分けして探すじゃん!!」
僕たちは荒れている呼吸音ができるだけ外に漏れないようにしながらトラックの中でジッとしていたんだ。ジッとしている間心臓の音がすごくうるさくて、藤林君のところまで聞こえているんじゃないかって思って、心臓の音よ収まってくれと思いながら藤林君たちに見つからないことを祈っていたんだ。すると祈りが通じたのか、藤林君たちの足音は僕たちがいない方向へと離れて行ってくれたんだ。その後も戻ってくる可能性を考えてしばらくその場にいたんだけど、戻ってくる気配が感じられなかったんだよね。しっかりと安全を確認するために僕はトラックの荷台から出て、分かれ道のところにまで戻ってから辺りを見渡したんだ。視認で藤林君たちがいないことを確認出来た僕は体に入っていた力を抜いてから、
「ふぅ……。本当にありがとう、青木く……んぅっ!?」
一呼吸して、改めて青木君にお礼をしようと思って振り返ろうとしたところで、急に口を何かで覆われたんだ。何が起きたのか理解出来ていないけど、とにかく逃げないとって思って必死に抵抗しようとしたんだ。だけど、僕の力では全然動かなかったんだ。それでも何とか逃げようとしていたんだけど、段々意識が朦朧としていき、気をしっかり持たないとって思ったんだけど、遠のいていく意識に逆らうことが出来ず、
「……ごめん」
申訳なさそうに呟かれた声が耳に届いたのと同時に僕は意識を失った……。
投稿直後にブックマーク数が減っていると、
文章や展開がどこかおかしかったのかなと思うのと同時に、
もういいんじゃないかなって思ってしまう豆腐メンタルに
自己嫌悪している今日この頃。
もちろん余程のことがない限り最後まで書く抜くつもりですが。




