第99話 治癒神様とお会いしたんだぞ☆配信
----白いフード。
「あっ、これね! ビルっちとお揃いなんだぞ☆ まぁ、ビルっちはちょびっと魔術をミスって、あーんな身体になっちゃったから、ほぼアタシの特徴といっても過言ではないんだぞよ!」
----特徴的な髪飾り。
「いやいや、別にアタシはそんな特徴的な髪飾りなんてしてないんだぞ☆ ほらっ、この林檎の髪飾りだって……え? 林檎に見えない? あー、アタシの独特のセンス感覚に、人間さんが追いついていないって事か!
なるほど、それなら確かに特徴的な髪飾りと言われてもおかしくないんだわ☆ アハハハッ☆」
終始ハイテンションな、桃色の髪の少女。
彼女は自らを『治癒神』と名乗り、聖職者タメリックの前に姿を現したのだった。
『治癒神様、お目通りが叶い、嬉しく思います』
『我が主、ビルド神様とお揃いのその白フード。いつ見てもお似合いです』
タメリックが降臨させている天使サラダと天使ラードの2柱も、そのハイテンションな少女に敬意を示している。
ということは、単なる狂人などではなく、本当に、治癒神様がこの世界に現れたという事なのだろう。
確かに、調査した文献では、『人や人形の姿を借りて話す』と伝わっていた。
まさかそれが、人の身に神である自分自身を乗り移らせる方法だったとは、思いもしなかったのだが。
「あなたが、治癒神様、ですか……」
「そう! このアタシが治癒神様だよ☆ もっとも、この身体はアタシを信奉してくれている一信奉者の身体に、無理くり宿っている感じだけどね」
高らかに微笑む、治癒神様。
タメリックの頭の中には、カーラ法王が以前、『御神託』を使った際に瞳の色や服装が変化したのを思い浮かんでいた。
つまり、いま治癒神様は、信奉者が使った『御神託』を使い、この世界に顕現されている事になる。
「あのっ……!」
「うん? なんだいなんだい、そんな問題! なーんっつって!」
「その信奉者さんの身体は、大丈夫なんですか?」
上手くない冗談を聞き流し、タメリックはそう心配していた。
カーラ法王が『御神託』を使えるのに、あまり使わなかったのは、反動が非常に大きかったからだ。
神様という存在は、人間という身体が収まるにはあまりに膨大すぎて、数分間顕現させるのであっても、カーラ法王は膨大な体力を消耗していた。
日々健康に心掛けまくっていたカーラ法王ですら、そうなのだ。
ごくごく普通の信奉者が、耐えられるとは思えなかった。
「あー、君は優しいんだねぇ」
タメリックの質問に、治癒神様はそう応えた。
「安心したまえ、聖職者さん。アタシは治癒神、人々を癒して愛する神様。
大事な信奉者に、無意味な負担はかけない。むしろ、アタシの身体からバリッバリに流れる治癒の権能によって、彼女はどんどん健康になっているくらいだよ」
「だから安心してね」と、彼女に慰められて、タメリックはホッと安心した。
『安心したまえ、聖職者タメリック。治癒神様は遥か以前より、自らその方法で顕現なされていた』
『そうだ。神聖術『御神託』を持たない者相手に、自らが強制発動なされて、人の身体を借りて現世に降りられる神様だ。いま身体をお貸ししている者のみの安全は保障されている』
天使2柱の、ダメ押し気味の言葉を聞きつつ、タメリックは考えていた。
----なんで、この治癒神様は、いきなり顕現したのか。
----そして、なんで自分に話しかけて来たのか、と。
「あの、治癒神様。それでしたら、あなた様は今回はなんで顕現なされたんですか?」
もし仮に、教会を揺るがすほどの重要な事態であった場合、タメリックでは対応できないから。
確かにタメリックは、教会内で初の『天使降臨』を成功させた人物ではあるが、だからといって地位は高い訳ではない。
『天使降臨』が出来るのが自分だけならば、カーラ法王よりも高い地位になっていたかもしれない。
しかしながら、いま現在は教会全体のレベルが大幅に上がっている時期。
『天使降臨』が出来る人物はタメリックの他にも、40名以上おり、それが故にタメリックの教会内での地位はさほど高い訳ではない。
精々が、『教会を改革させた人物』として、ちょっと有名なくらいだ。
神様のお願いに対して、すんなりと教会全体を動かせるほどの権力は持ち合わせていなかった。
だから、聞いたのだ。
もしなんだったら、自分よりも立場が上の聖職者に、お伺いを立てる……つまりは、上へと引き継ぐために。
「えっ☆ それを聞いちゃうかな☆ 聞いちゃうかな☆」
「うふふっ☆」と、めちゃくちゃ楽しそうな様子の治癒神様。
「まぁ、一言で言っちゃえば、この教会で彼女との関係性が一番深い聖職者だったからかな☆ 教会で君よりも立場が高い人は大勢居ちゃう訳だけど、君以上に彼女との関わりが大きい人物は居ないから、だから取次ぎをお願いしたい訳なんでして」
「私が、教会内で一番関わりが大きい……?」
----もしや、その人って!
タメリックが顔を上げてその人物の名を呼ぼうとした瞬間、治癒神様は「ススリアさんですよ」とその人の名前を言っていた。
「ススリアさん、もとい配信者『あるけみぃ』。
彼女とお会いしたく、あなた----聖職者タメリックさんに、アポ取りをお願いしたいんだけど、良いかな? かな?」




