第91話 配信世界で、反省会配信
「双剣の材料は、これです」
アルファがそう言って、カイに見せたのはアンオブタニウム----より正確に言えば、カイの身体であったヴォルケーノドラゴンの鱗であった。
『これは、ヴォルケーノドラゴンの鱗?! いつ落ちたんだ?!』
「それは、あなたの攻撃を、ススリアさんが【パリィ】で弾いてた時ですね」
アルファが指摘したのは、巨体で体当たりしたカイに対して、ススリアが【パリィ】で対抗してきた時。
あの時、完全に攻撃のチャンスだと感じたカイは、調子に乗って、その後も尻尾やら足やらを使って攻め続けていた。
『あの時、我は完全に勝利へと向かっていたはずだ! もしや、あの時の痛がる姿は、ただの演技だったのか?!』
「いいや、あれは演技であって、演技ではありません」
まるで"とんち"のような解答をするアルファ。
カイが納得していない様子であったために、アルファは補足する。
「【パリィ】の中でも達人級と呼ばれるのは、相手の攻撃を完全に弾いて、受け流すスキルです。つまりは、それこそが【パリィ】における完成系の姿だと言われています。
一方で、我らがマスターであるススリアさんが使った【パリィ】は、それに比べると、完全に相手の攻撃を無効化していないため、不完全だったと言えます。だから、痛がっていたのは演技ではありません。
----そう、ススリアさんが使ったのは、"攻める【パリィ】"だったのです!」
ドヤァと、自信満々な様子のアルファ。
『攻める、【パリィ】……?』
「えぇ、マスターの【パリィ】は、相手の攻撃を全て逸らすのではなく、一部を相手に返すタイプの【パリィ】。つまり、あなたの鱗であったアンオブタニウムを壊したのは、あなたの攻撃だった、という訳です」
カイは、【パリィ】で受け流せないススリアを見て、好機だと思って攻め続けた。
しかしその際に、ススリアは【パリィ】を使い、相手の攻撃力を利用しながら、少しずつ、鱗1枚や2枚程度であろうと、鱗を剥がし続けていたのだ。
「剥がされた鱗はアイテムとなって落ち、露わになった部位は無限に近いエネルギーによってすぐさま再生される。だから、あなたは自らの鱗が落ちていた事に気付かなかった」
そして、剥がした鱗を使い、ススリアは双剣を錬成した。
----そう、それがカイの身体に突き刺さった双剣の正体。
「あなたが火炎で周囲を丸焦げにした時も、ススリアさんにとってはエネルギー回復のチャンスだったんですよ。双剣から、もう一本の双剣へと流れる無限のエネルギーにより、ススリアさんの体力は全快しました。そう、あなたの身体のように」
『うぐっ……! だから、双剣を作ったのか……』
無論、双剣だからと言って、生体エネルギーが身体を流れるという訳ではない。
これは単なるアルファの、言いがかり。
実際は、双剣を使って火炎を吸収しつつ、自分にはダメージが効かないように守りの技を張ったのだろう。
しかしながら、当のカイはというと、双剣によるエネルギー回復説を本気で信じているようであった。
「あとは、簡単です。武器として生まれ変わったアンオブタニウムと、ただの鱗にしか過ぎないアンオブタニウム。どちらが強いかなんて、誰にでも分かる事です」
そして、カイは負けたのだ。
----人間だけが持つスキルに。
----自らが持つ鱗を、武器にされて。
『完敗だな』
こうなっては、認めるしかあるまい。
ドラゴンは強かった、しかしヒトはもっと強かった。
それならば、ヒトの姿をしたドラゴンになるのが一番効率的だ。
『我は強くなるぞ。ヒトの姿をした、ドラゴンゴーレムとやらに』
「えぇ、マスターの指示の元、新たなドラゴンとして名を残してください」
こうして、カイは、ドラゴンゴーレムとしての道を歩む決心をするのであった。
「----さて、ここからは私個人の意見なんですが」
と、アルファはカイに1つの画面を見せる。
そこに描かれていたのは、【ドラゴンゴーレム(仮)】と書かれた設計図。
つまりは、ススリアが考える、ドラゴンゴーレムがなって欲しい姿であった。
『なっ……?! これが……?!』
そこに描かれていたのは----
----腕の何倍にもなる、巨大な機械の手。"大きな手を飛ばしてロケットパンチ!"、と書かれている。
----背中には、炎を出して高速で進む噴射機。"エネルギー全開で一気に加速"、と書かれている。
----頭の中に収納された超音波発射機。"ブレスの代わりに超音波で何でも破壊する"、と書かれている。
「『くっそ、ダサい!!』」
そう、それは、男の子の夢が詰まったロボット系ゴーレム。
しかしながら、アルファとカイにとっては、クソダサいと言わざるを得ないデザインだったのだ。
『嘘、私ってば頭の中に超音波発射機入れられるの?! 脳とかどうするつもり?!』
「噴射機も要らないですよね。普通に翼で良いのに」
『あと、このロケットパンチ用の手とか、絶対に普段使い悪そうですよ!?』
「あー、ですよねー。マスターってば優秀なんですけど、それって色々と積み重なった結果、良いデザインに辿り着いているだけで、デザインセンスとかないんですよ」
「この闇落ち系魔法少女も、ちゃんと褒めてないですし……」と愚痴るアルファであったが、それは流石にどう考えてもダサいと思うカイ。
『しかし、頭の中に超音波発射機とか、ロケットパンチ用の腕とか……あぁ! こんな姿になりたくないっ!』
「けど、敗北した以上、この【アルファ・ゴーレムサポートシステム】の力で強制的にこの姿にさせます。具体的には配信を用いてこの姿を永遠に脳内に送り続けて、これが良いと誤認させる形で」
『質が悪すぎません?!』
しかしながら、このままだと、このクソダサいドラゴンゴーレム姿になってしまう。
どうしたモノかと思っていると、アルファがカイに提案する。
「な・の・でっ、2人で考えませんか?
----マスターがアッと驚く、これよりも良い最高の姿を」
その言葉に、『そうだな!』とカイは頷いた。
『よっ、良し! やるぞ! 絶対に、これよりも良いのを考えてやる!』
こうして、アルファとカイは、ドラゴンゴーレムの姿を考え始めたのであった。
まさか見せられたクソダサいデザインがただの初期案で、ススリア自身も没にしていたモノであり。
自分自身が考えるという形で、ヒト型になる事を前向きにさせる、アルファの作戦だったと、カイは知る由もなかった。




