第56話 みんなでポーションを改良しよう配信(1)
ポーションとは、この世界における最初の魔道具である。
傷を治す薬草を飲みやすい液体状にすることにより、多くの人間が使えるようにした代物が、ポーションなのである。
これ以降、錬金術を使って作り出した人のために代物を、魔道具と呼ぶようになった。
とは言え、あくまでもその当時のポーションは飲みやすいだけで、非常にマズい。ゲロマズである。
あまりのマズさに、飲む前に臭いを嗅いだだけで、その場に捨てようとするモノまでいるくらい、当時のポーションはヤバすぎたらしい。
なんでそんなにマズかったと言えば、薬草の薬効を活かそうと思うと、どうしても味を犠牲にしないといけなかったからだ。
『良薬は口に苦し』という言葉もあるように、その当時のポーションはそのくらいクソみたいな味だったのだそうだ。
しかしそんなクソまずポーションは、流行る事はない。
結果として、ポーションを美味しくしたのであるが、色々な果実や果汁などで美味しくした分、純度が著しく下がり、薬効が下がってしまったのだ。
美味しくする前のゲロマズポーションは飲んだ途端に体力回復効果を発揮していたのだが、美味しくするという改良の結果、少しずつ、時間を置いて効果を発揮するようになってしまったのだ。
それ以降も、ポーションの味は、幾度となく手直しされて現在の味に辿り着いた。
「今回はそれを、子供でも飲めるポーションにしろ、か」
ポーションの味はある程度は緩和されたとは言え、それでも未だにその味を嫌う子供も多い。
今回はそんな子供達でも美味しく飲め、なおかつ薬効は下げないで欲しいという、なかなかにキツイお題である。
その分、決勝戦のお題に相応しいと言えるかもしれないけど。
ポーション改良のための素材に関しては、冒険者組合と商工組合の2つから、ある程度の種類と量を提供して貰っている。
果物などもあるし、これらを使って、子供向けの美味しいポーションを作ろうっていうお題みたいである。
ちなみに、ポーションに関しては、錬金術師の工房の初心者錬金術師が作ったモノだから、そこまで差はないみたい。
そして課題に沿ったものを、審査のために20個、3時間以内に作るのが今回の決勝戦の課題である。
「----他の人達はどうかな?」
自分の作業はしつつ、他の人達の様子もこっそりと観察する。
タラタちゃんは……どうやら、味を優先するみたいである。
ポーションに甘みの強い果実や、刺激が強めの果汁を入れて、子供向けのアレンジをしようとしているみたいである。
果実などを入れて純度が落ちるから薬効は落ちるけれども、子供向けという点を優先した感じみたいである。
普通に良い点数がもらえそうな、良い判断である。
秋ブロック勝者である魔女スタダムは、魔女の錬金術は血縁継承の独特の代物なので、なにをしているかは全く分からん……。
ポーションを釜かなにかで煮詰めているようだけれども、分かんない。
まったく未知……優勝する可能性も高いが、検討がつかない。
「(もしかすると、派手に自滅するかもしれないし)」
私は魔女スタダムの行動を見ながら、ある一つの懸念事項を抱いていた。
今回の課題は、ポーションを子供向けの味に改造する事。
断じて最初から美味しい味のポーションを作る大会ではなく、あくまでも大会側が用意したポーションの味を良くするのが最低条件。
しかし、断言こそ出来ないが、もしかすると魔女の彼女はポーションを1から作成しようとしているようだ。
ポーション作成に必要な材料を持っていた所から見ても、もしかすると恐らく……。
有名になりたいという気持ちでいっぱいの彼女は、決勝のお題を正しく理解できていない可能性もあるし、下手すると自滅してくれそうだ。
「----となると、一番の敵は彼女か」
夏ブロック勝者、私に意味深な言葉を言ってきた錬金術師メキス。
彼女の行っているのは、恐らく『蒸留』。
『蒸留』とは、混合物を沸点の差を利用して、純度を高める手法である。
メキスさんはポーションを蒸留してさらに純度を高めた固形物を作り出して、それを子供向けの美味しい液体に溶かす事で、薬効と美味しさを両立しようとしているのだろう。
確かにこの方法ならば、ポーションの薬効を保つという条件も満たすことが出来る。
メキスさんとタラタちゃんに優劣をつけるとすれば、どちらかと言うとメキスさんの方だろう。
あとは単純に、タラタちゃんの味がめちゃくちゃ美味しくて、代わりにメキスさんの味がめちゃくちゃマズければ、タラタちゃんの勝利もあり得る。
だけれど、恐らくはメキスさんの勝利でほぼほぼ確定だね。
----となると、私の勝負の相手は、あのメキスさんになるでしょう。
「(ではそろそろ、私もポーション作りをしとこうかな)」
いつまでも観察していたら、怪しまれる。
ここは多少違和感をもたれないためにも、ポーションを作り始めよう。
「(とりあえずの基本方針は決まっているから、早速、ポーション作りを始めよう)」
という訳で、まず私は。
----ガラス瓶に入っているポーションを、一旦別容器に移す事から始めるのだった。




