第47話 研鑽の神アカデミアについて、リモート会議配信するぞ配信(2)
『PREP法』を用いていたので、その流れで話を続けよう。
えっと、"結論"、そして"理由"までは話したので、続いてはE、"具体例"の話ですね。
まず大前提として、その当時、魔王ユギーはどうしても対処しなければならない状況だった。
娯楽の魔王ユギーは、娯楽を愛し、堕落を愛する魔王。
かの魔王は周囲の人々も同じように娯楽を愛させようと、堕落させようと、そうなるべく支配領域を発生させる。
その支配領域にいる者達は堕落を愛するようになり、そして魔王ユギーの配下となってしまう。
昨日までは自分達の味方だった者達が、今日は魔王ユギーの配下として堕落させようと襲ってくるかもしれない。
そして襲われた者は、魔王ユギーの配下として、同じように堕落し、周囲の人々を襲う。
倍々的に増える魔王ユギーの配下……怖いと思うのは、当然の事だろう。
そんな魔王ユギーを、当時の人々は討伐しようとした。
しかしながら、封印する事しか出来なかった。
その魔王封印の際に使われたのが、古代兵器『ウイッシュ』。
大勢の人々の気持ちを1つにしなければ使えない、そういう古代兵器だ。
詳しい発動条件や姿などは伝わってこそいないが、大体の予想は出来る。
もし仮に、その古代兵器がただ複数人の気持ちを1つにすれば良いだけならば、王国の兵士達で良かったはずだ。
帝国という他国、それに兵士でもない民衆に頼る必要もなかったはずだ。
恐らくそれでは発動できない兵器だったのか、あるいは王国の兵士達だけでは魔王ユギーを封印できるほどの力を発揮できなかったため、帝国や民衆の力を借りるという方法を選んだに違いない。
そしてそれこそが、研鑽の神アカデミアが誕生した理由と言えよう。
人の心というのは、変わりやすい。
----自分の国の手柄にしたい者。
----魔王を封印ではなく、討伐したい者。
----仕方なく、この作戦に賛同している者。
色々な考え方の人が、居ただろう。
およそ20万人近くの人間が居たら、気持ちを1つにする事はそう簡単な事ではない。
だからこそ生まれたのが、"研鑽の神アカデミア"。
古代兵器『ウイッシュ』の発動条件である多くの人間の気持ちを1つにするために、生み出された掛け声のようなモノであると思われる。
王国だけなら、その時の王様の名にでもしたのだろうけど、帝国も関わっているから、王様の名前にする事も出来ない。
帝国も同様に、その時の帝王様の名にしたかっただろうに、王国が関わっているから、同じように帝王様の名前も使えない。
だからこそ、神様----ヒトではないモノに信仰する事で、人々の気持ちを1つにしたのである。
----そうやって生み出された架空の神こそ、研鑽の神アカデミアなのである。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「古代兵器『ウイッシュ』の発動のため、人々の号令代わりとなったモノ。
----"この神に祈れ、さすれば魔王ユギーは封印されるであろう"。最初はそういう程度の代物だったのだと思われる」
そして、やがて人は、その号令を祈れば事態が解決すると信じてしまった。
それが今の、教会の在り方の始まりなのだろう。
そしていつしか、研鑽の神アカデミアの名だけが広まりすぎた。
その当時に本当に祀っていた神様の名前すら忘れるくらい、研鑽の神アカデミアの名が広まってしまったのだろう。
なにせ、研鑽の神アカデミアは、人々に目に見える形で功績をあげたから。
その神の名を信仰したことで、魔王ユギーは封印されて、世界に平和が訪れたのだから。
世界に平和をもたらした神の名として研鑽の神アカデミアが広まり、そしてそれが出来なかった本当の神の名が消えていった。
「----というのが私の考えなのですが、反論はありますか?」
ていうか、その前にまず聞いてますか?
なんか話している最中から気付いてたんだけれども、配信を見ていた人、ほとんど居なくなってるよね?
もしかしなくても、さっきからガンマちゃんが『王国歴史全集』を販売してる様子を見せている事と関係あるよね?
「でもまぁ、これで議題は終了。リモート配信会議は終了って事で----」
『すみません、1つ質問があると、我らが神が申しあげております』
と、配信を終わろうとしたその時、タメリックが映し出された配信画面の横に居た天使サラダが、私にそう疑問を持ちかけて来た。
『素人質問で恐縮ですが----では、教会に祀られている本当の神の名をご存じでしょうか?
研鑽の神アカデミアが号令というのなら、教会として本当に祀られている神が居たはずです。なにせ、研鑽の神アカデミアの名を号令に使う際に、教会はあったのですから』
素人質問じゃないじゃん、本物の神からの本気の質問じゃないですか。
「(神様の名前ねぇ……)」
流石に名前までは分からないが、その手掛かりならある。
----という訳で、手掛かり程度なら、情報を提示できる。
私はガンマに命じて、1つの画像を映し出すように告げる。
映し出した画像は、『帝国歴史書』のとある1ページに描かれている、ある挿絵。
その挿絵の絵を見て、天使サラダ、そして天使ラードも興味深そうにしていた。
「これは『帝国歴史書』に描かれている挿絵で、題名は『魔王ユギーの封印されし塚』。
----そして、この絵には塚には、6つの物が描かれている」
塚の中心には、"錆びた王冠"のようなマークが描かれている。
そしてその周りを囲むように、"鍬"、"フラスコ"、"杖"、"剣"、そして"ハート"が描かれている。
錆びた王冠は白黒で、他の5つはきちんとカラーで色付けされていた。
「この錆びた王冠の真ん中には『娯楽』という文字が書かれているので、恐らくこれが娯楽の魔王ユギー。それを取り囲む、5つのマークの横にも文字が書かれていて----」
私は、そのマークに書かれている文字を読み上げていく。
----"鍬"、『農耕』。
----"フラスコ"、『知識』。
----"杖"、『魔術』。
----"剣"、『武闘』。
----"ハート"、『治癒』。
「つまり農耕神、知識神、魔術神、武闘神、そして治癒神----」
『なるほど! では、その流れで調査を開始します! 皆、調査開始!』
『『『了解!』』』
そして、リモート配信会議は向こう側からの切断によって、終了した。
「……やっぱりこの教会って、あんまり体育会系すぎない?」
===== ===== =====
☆ 教会レポート ☆
・研鑽の神アカデミア
:存在してないことが確認。錬金術師ススリアさんの言う通り、古代兵器『ウイッシュ』を発動するキーワードであった事が、教会総本山の極秘資料から裏付けられた
:その極秘資料は、今までは証拠の裏付けが出来ないため、偽の資料として扱われていたが、この度、正式に『研鑽の神アカデミアが、偽りの神である』と判明し、教会で発表した
・農耕の神ジビエ
:農耕に携わる神。農業と牧畜に関係し、あらゆる作物を実らせ、あらゆる家畜を育てる事を得意としている
:北の果てにある、極北支部にあった書物にて、その名が記載されていた
:牛の角のような2本角を生やした、豊満な身体をした美しい女神
・知識の神コーギョク
:知識に携わる神。学問にも関係しており、幅広く多くの知識や知恵などを集め、それを活用する事を良しとしている
:湖の街カンインにあった書物にて、その名が記載されていた
:黒い和服を着た眼鏡の優男の姿をしており、胸元に林檎を象った銀のバッジを付けているのも特徴
・魔術の神ビルド
:魔術に携わる神。魔術と神聖術など、術式に関する神であり、魔術的な知恵はコーギョクの担当であり、ビルドは魔法を扱うための才能を与える
:湖の街カンインにあった書物にて、その名が記載されていた
:黒い泥のような姿をしており、この姿は魔術失敗の結果だと伝わっている。自分が男か女かも覚えておらず、どちらでも良いなど、魔術以外はどうでも良いと思っていると伝わっている
・武闘の神ミリタリ
:武闘に携わる神。格闘術、武器を用いる武術、軍事指揮など、軍事・戦争などの権能を授ける。闘いに関する才能を授けるため、常に戦いに身を投じる
:雪山の村ココルドにあった書物にて、その名が記載されていた
:赤き肌の大男、6本腕だと伝わっているが、その手に持っている武器については全て別だと伝わっているが、未だその武器がなんなのかは判明していない
・治癒の神
:治癒に携わる神。生き物を癒す医療、神聖術に関わる神であり、人々を癒す事が好きな神様。人を愛し、癒すことに神命を捧げている
:名前に関しては調査中、一説には愛に関する名前であると伝わっている
:白いフードを被っており、人や人形の姿を借りて話すと伝わっており、髪飾りとして特徴的なバッジを身に着けていると言われている




