第444話 快感のブラッドは、何かを感じ取った配信
――とある山の中にある村、その近くの山道にて。
1人の青年が、必死こいて頭を下げていた。
「いっ、いやだ! 俺様はもっとこの力を使いたいんだ! もっと、もっと使わせてくれ、頼む! ブラッド!」
その青年は、右腕が大きな銃になっており、その銃には【俺最強】という3文字が力強く刻み込まれていた。
「いや、契約はこれまでですので、これ以上のご利用は無理ですね」
一方で、頭を下げられていた方、魔王ユギーの五本槍の1人である快感のブラッドは、青年の必死の土下座に対して、冷ややかな態度にて拒否を申し上げていた。
彼は、この村に住まう正義感に溢れた青年である。
彼が住まう村は、元々災害が多い村であった。土砂崩れに始まり、魔獣による度重なる侵略行為、果ては盗賊などが度々村に攻めてくるなど、1つの村が抱えるにしてはこの村に関わる厄災は大きすぎた。
それが故に、彼は圧倒的な力を求めて、快感のブラッドと契約して、5年間、その力にてこの村を守って来た。
――【最強砲】。
その銃が撃ち抜いた物は全て破壊されるという、究極の魂変化武器。彼の意思によって、威力の調整が出来るという最強すぎる武器。この武器によって、土砂崩れは一瞬にして収まり、魔獣たちは一瞬で塵へと変わり、盗賊たちは全員倒された。
5年間、この村にこれといった大きな被害が出なかったのも、この青年がこの銃にて村の守りを1人で担っていたからだ。
だからこそ、今ここで【最強砲】という武器を失うのは痛すぎる。そのために青年は、快感のブラッドと契約を続行する事を求めたのである。
「お願いします! この契約が続かないと、この村は守れないんです! お願いします、この村を守る力を俺にまだ貸してくださいませ!」
「……それ、3年前にも言ってませんでしたっけ?」
「はぁ~」と溜め息を吐く、快感のブラッド。元々、この青年に【最強砲】を貸していたのは2年という契約だったのを、この青年が何度も何度も、必死に頭を下げたからこそ、さらに3年伸ばしたのは、ブラッドなりの恩情というヤツなのだ。
「私はこの力を、一度たりとも私欲に使っておりません! この村に対する被害を、そう降りかかる火の粉を払っていただけ! それだけでございます!」
「悪魔である私に対して、私利私欲に使っていないと、聖人っぷりをアピールされてもなぁ~」
青年の必死の要求に対して、快感のブラッドはこの村はもうダメだと、見切りをつけていた。
「(そもそも、彼1人に全てを委ねすぎたんだよね、この村は。
土砂崩れも、魔獣への被害も、それから盗賊が来やすいという問題も、1年では全て解決は無理にしても、少しばかりは改善する方向に、なにかしら出来るはずなのに)」
結局、この村がしていた事と言えば、来る災害に対して、この青年が【最強砲】をぶっ放して、それではい終了。ただ目の前の困難に対して、それを突破するだけなのだから、あまりにもダメすぎる。
「(まぁ、その分、この村に対する彼への依存症のような絆は、ずぶずぶに高まり続けた! 最高級の牛肉を、これ以上味わわずにいるのは、それは食材に対する冒とくというモノ!)」
パクリっと、青年を、その絆ごとムシャムシャと食べると、青年はそのまま糸が切れたかのように、静かに倒れる。
それと同時に、この青年に関する、ありとあらゆる記憶と記録が、快感のブラッドの中に流れ込んでくる。
「あーぁ、結婚までもう秒読みだったのかぁ~。そりゃあ村の英雄じみた活躍をしていたからね、彼ってば。誰からも愛され、誰にでも優しい好青年、しかしてその青年は私のような意地悪な悪魔に食べられてしまうのでした、っと!」
これでもう、彼という圧倒的な力で守られていた村はもうない。直にすぐ、この村は何かしらの災害によって、この世から消えうせるだろう。
「せめて、この青年の遺体、もとい【最強砲】という武器だけでも回収――っと、なんだこれ?」
その時である。
ブラッドの腹が、ぐぅぐぅと鳴り始める。
「腹が減った? いや、いま極上の食材を食したばかり。どちらかというとこれは、今まで食べた事のある何かに、異変が起き始めている?」
どういう事だろうと思っていると、草むらがガサガサっと揺れ始める。
「ガハハハッ! 俺達ゃあ、盗賊団【オークのねぐら】だ ! そこの女、俺に付き合ってもらおうか!」
「――あ?」
草むらから出てきたのは、ヒゲを生やした汚い男達。ろくに身体を拭いてもいない、山賊連中である。そんな山賊連中が15人ばかり現れ、快感のブラッドを取り囲む。
どうやら、山道に女1人で居たから、狙い目だと思われたみたいである。
「なんだ、山賊ですか。困るんですよね、襲撃するってのに身体を清潔にして、臭い消しをしないような輩風情が」
「はっ、はぁ?! てめぇ、俺達をバカにしてるのか?! 俺達をなんだと――」
それ以上、盗賊団が言葉を口に出来る事はなかった。
何故なら、たった1人。一番奥で、えらそうにふんぞり返っていた男を除いて、全員が【最強砲】によって消滅したからだ。
「うっ、嘘だろう?! おっ、お前何をした?!」
「この村を守る青年の記憶や記録は消しても、この村の近くで多くの山賊や盗賊が消えているというのは、噂程度で残っているはずなんですがねぇ。なんで、それなのに攻めてくるかが、この私には理解できません」
「よっと」とそう言って、快感のブラッドは、1人だけ残された盗賊に声をかける。
盗賊は逃げようとするも、逃げられなかった。まるで蛇に睨まれた蛙のように、ただじっと、ブラッドに見つめられていた。
「ここから無事に帰りたいなら――私と契約しましょう。私の手足となって、調査にご協力するなら、殺しはしないし、なんなら新たな力も授けましょう。
私は今から、この腹の虫が鳴る原因を探りたいのです。付き合ってくれますよね?」
なお、盗賊に、断るという選択肢は、当然ながら用意されていなかったのだった――。
ジャガーノートと言うのは、
元々はヒンドゥー教の神「ジャガンナート」に由来する言葉で、
「止めることのできない巨大な力」や「圧倒的破壊力」を持つものを指します
圧倒的破壊力という意味でして、
青年の魂武器である【最強砲】というのは
"圧倒的な破壊力"を持つ武器として、名前を与えました
まぁ、もうやられましたけど(*´Д`)




