第438話 タラッサと物々交換配信
その日、タラッサはいつものように教会の掃除に精を出していた。
タラッサとは、ススリアが錬金術師100連ノックをした際に、偶然誕生した生命体である。クリィム村の神様であるタラッサ・ルミナスが紛失してしまった、神様の要たる神コアを使って錬成して生まれたのが、タラッサである。
偶然誕生したタラッサは、その後、イスウッドにある教会にて聖職者として奉公をしている、という訳である。
神様の魂を宿したタラッサが、そんな神様達を祀る教会で聖職者をしているなんて、なんたる皮肉であろうか。
「~~♪」
当の本人は、鼻歌混じりで、今日も楽しく掃除をしていたのであった。
「――すみません。聖職者様でございますでしょうか?」
と、そんなタラッサを、1人の旅人が話しかけて来た。その旅人はタラッサの顔を見ながら、そう聞いてきていた。
「はい、そうですが……あなたは?」
「私は配信者でして、『物々交換をしながら旅をする』という企画をしております。10個くらいの品物を持って、その品物を出会った村人さん達と交換していくという企画です」
「これがその配信用魔道具で――」と、彼の前を一定の距離を保ちながら飛ぶ球体を指差す。
タラッサは「なるほど」と頷いたのを見て、旅人は1つの箱を取り出した。
「この箱の中には、私が今まで物々交換して得た品物が入っています。もしよろしければなんですが、私の企画に参加して頂けないでしょうか?」
「聖職者として、悩める人の相談に乗る事は勿論です。では、早速拝見させてもらいましょう」
「企画への御理解、ありがとうございます。よろしくお願いします」
ペコリと旅人は頭を下げて、箱を開ける。
箱の中には、旅人が言うように、10個ばかりの物が入っていた。
牛乳が入っていたであろう瓶、キラキラと光る水晶、使い古された槍など、交換して得た代物なんだろうなというモノばかりである。はっきりと言わせてもらえれば、必要ない、要らない代物ばかりだ。
「(元々彼が持っていた品物が悪いんでしょうか? それとも、企画成功のためと、多少格が低い代物を受け入れたから悪いのでしょうか?)」
タラッサは母親として、不出来な息子を見ている気分になり、今すぐにでもこの旅人を母親として抱きしめたい気持ちになった。しかしながら、今の自分は聖職者、そんな事をする身分ではないと自分を戒めて、交換するモノの選定に映る。
「(――あら?)」
そんな中、タラッサは1つの物に目を奪われた。
「あぁ、それですか。とある子供から貰った物でして、子供からして見れば遊べる物の方が良いと、独楽という回る遊具を貰って行きました」
旅人の解説を聞きつつ、タラッサはその物にスッと手を伸ばす。
それは小さな宝石であった。宝石と言うと綺麗な色をしているのが思いつくだろうが、タラッサが拾ったその宝石は、変な模様が刻み込まれている人工物。確かに子供にとっては、独楽の方が遊び勝手が良いだろうと思って、この宝石を手放したんだろうなと想像がつく。
「私、これを貰います」
タラッサはそう言いながら、服のポケットの中から光線銃を箱の中に入れた。この光線銃は、ススリアがお遊びで作った遊具型魔道具であり、作動させると周囲に敵兵を思わせる空中飛行物体が現れ、それを光線銃で撃って行くというそういう魔道具であった。
タラッサが説明すると、旅人は「そりゃあ面白そうだ」といって、光線銃を手に取って、宙に敵兵の幻影を生み出して、遊び始めた。その様子を配信で流しながら、「物々交換で、凄い代物を手に入れました!」と嬉しそうに語っていた。
しかし、本当に凄い物は、この宝石だと、タラッサはそう思っていた。
この人工的に刻まれたであろう、変な模様。一見すると意味のない模様に思えるが、ちゃんと見て行くと、その模様には小さな文字で『イスウッド』や『セントール』などという文字が書き込まれていた。
――そう、これは地図である。これが地図だと分からなかったのは、この世界の地図のほとんどは、紙1枚にだだっ広く書かれている地図が主流だから。まさか、この丸い宝石が、地図だなんて普通の人には思えないだろう。
そして、この地図の真ん中。赤いバツ印が刻まれた場所に書いてある地名。
それが、タラッサの目にとまったのだ。
――"バンブリア"。
「ここにありましたか」
バンブリア、それは神コア――つまり、神様であるタラッサだからこそ知っている、古の時代からある隠れ里。普通の人間にはまず辿り着けない、とある種族がひっそりと暮らしている場所。
「バンブリア。別名、バンブーエルフの里」
そう、全てのバンブーエルフの故郷。
全てのバンブーエルフの故郷であるため、『シュンカトウ騎士団第五の槍』ピエームの故郷でもある。
『快感のブラッド』と契約をして、『回転鋸剣』の姿へと変身できる能力をもらうも、その代償として彼女に関わる記憶や記録がこの世から消え去ってしまった、可哀想な子供。
そんな子供の出身地を見つけ、タラッサは嬉しくなった。
「記憶や記録は残っていなくても、故郷に帰れないのは寂しい事、だからね」
という訳で、次章は
『バンブーエルフの故郷』編を
開催させていただきまーす!!
まぁ、次回は
フルーレティの話になりますが(*^_^*)




