第409話 ジュールちゃんは大会に興味がないようです配信
「はっきり申すアル。まったく、興味がわかないネ」
「だよねぇ~」
スコティッシュさんの操る飛竜に乗って、シュンカトウ共和国のドラスト商会へとやって来た私。早速、食堂で働いているジュールちゃんを会議室にまで呼び出してもらった。そして、大会がある件を話したんだけど、ジュールちゃんの反応はこのような形である。
そりゃあ、そうか。ジュールちゃんにとって、メニューに載っている料理は全てラーメンか、それ以外か。そして、ラーメン以外の料理は全てラーメンを引き立てるモノでしかないのだから。
「せめて、ラーメン勝負なら、この『ラーメン業務特化型アルファ・ゴーレムサポートシステム搭載型ゴーレム・モード"仕事"』、一世一代の大仕事としてお受けする予定アルが」
「それだと、ワットちゃんが不利すぎるでしょ」
ワットちゃんの領分は、洋食。洋食の様々な料理でお客様をもてなすのが彼女に与えた命題であり、だからこそ1つ1つの料理はお客様に提供する分としては問題ないが、競うとなると話は別だ。
――――そう、2人とも商売には向いているが、大会というモノに向いてなさすぎる。
そもそも、2人に料理で決着をつけようという気概はない。
あくまでも周囲の、彼女達の店のお客様が、「2人が料理対決したらどちらが勝つんだろう?」という悩みを持っていて、そのために対決しようと言い出しているだけの話なのだ。
2人に料理人としての因縁みたいなモノはないから、出来るとすれば売上対決くらい? でもそれだと、回転率の高さを売りにしているジュールちゃんの圧勝になっちゃうのは言うまでもない話だろう。
「こりゃあ、やっぱりエコロさんの方には私からお断りしておくよ。多分、ワットちゃんも勝負にならないと思うし」
「そうして欲しいアル。それじゃあ、私はそろそろ店の仕込みに――――」
ジュールちゃんが立ち上がろうとしたその時、会議室の扉が大きな音と共に開かれる。
「大将。こちらに居られましたか」
そこに居たのは、綺麗な扇子を持った、3mを越える和服の長身美女。頭には鉢巻きを巻いており、黒いエプロンをしているのが実にシュールであった。
「【アオギ】……いま、私はススリア代表と話している所アル。些細な用件なら、あんたに任せるヨ」
「――――っ! こっ、光栄のいたり! では、早速、食材の買い出しに行ってまいりますぅ!」
ジュールちゃんに褒められて、一瞬、女の子がしちゃいけないようなヤバい顔を見せた彼女は、即座に走り去っていった。
「ジュールちゃん、彼女は……?」
「私の弟子の、オウギワシの獣人族のアオギという女アル。なんでも、ラーメンに感動して、自分もラーメンを作りたいと直談判してきたネ」
オウギワシ……確か、飛ぶ鳥の中で最も重い鳥として有名な鳥だったはず。その重さは、大型の鳥であるグンカンドリやコンドルをも上回り、頭の羽根が扇のような形に見えるからその名がつけられた。
最大の特徴は、その握力。140㎏の握力にて、最強の猛禽類と数えられるオウギワシは、自分の重さの2倍であろうとも軽々と持って飛ぶことができるという。
「あの巨体ながら、狭いところであろうとも、軽々と通り抜けられるから、配達員として重宝されていたので、試しにとラーメン配達に出したところ、すっかりファンになって、今ではうちの副店長になってしまったアルヨロシ」
「実力はあるのか」
……ふむ。そうか、副店長レベルとなると、あるいは――――
「――――? ススリア代表、大丈夫アルか? ラーメン作って、食べて元気になるヨ!」
「いや、大丈夫だ。それよりも、もしかするとこの大会の話、なんとかなるかもしれない」
とは言っても、それを通すには、ワットちゃんの情報も探らないといけないけど。
「はぁ……まぁ、代表が元気なら、それで良いアルが」
「まぁ、という訳で今日はジュールちゃんのメンテナンスをしようかな」
私はそう言って、分解用の道具をジュールちゃんに近付けていく。
「だっ、代表? その手は何ネ? その道具で、なにするアルか?」
「なぁに、簡単な話だ。ジュールちゃんを開発した際にはなかった、新たな力があるだけの事」
そう、ジュールちゃんを開発した際、【オーラ】はあったが、【スピリッツ】はなかった。
あらゆるものを引き寄せたり、離したりするこの能力があれば、彼女の仕事能力はさらにパワーアップする事、間違いなしである。
「しっ、しかし、代表? 一度出来ている身体をバラすという事は、それなりに苦痛が伴うって、デルタちゃんからの情報にはあったネ。もし戦闘用じゃなかったら、耐えられなかったかもって」
「まぁ、確かに、言ってみれば腕を分解して、新たな腕を付けるようなモノだから。でもまぁ、凄い能力が手に入ると思えば――――あっ、逃げるな! 待って、ジュールちゃん!」
その後、泣いて懇願するジュールちゃんを捕まえた私は、無事、ジュールちゃんに【スピリッツ】の能力を与える事に成功したのでした。
ゴーレムの身体に、新しい技術を導入する
デルタちゃんの場合は完全に別の身体へと
移し替えるので問題なかったのですが
今回は、一部を変更という事で、ほんの少し変えただけです
全身麻酔を受けて、全身に手術を行ったデルタちゃん
局所麻酔を受けて、意識を残したまま手術を行ったジュールちゃん
どちらの方が、痛みを感じるのかは明らかでしょう?
ジュールちゃん、凄い痛かったでしょうね( ;∀;)




