第292話 ギルド長、はじめてのお仕事体験配信
冒険者達を見送ったノワルーナ姫。しかし彼女にはまだやるべき事が、山積みであった。
冒険者ギルドの3階、一番豪華な部屋であるギルド長室へと戻ったノワルーナ姫は、大量の書類と向き合っていた。この大量の書類は、冒険者ギルドを運営するために必要な初期書類である。
初期書類とは、契約や入社など、ある事柄を始める際に必要となる書類の総称である。この大量の100枚近くある書類は、イスウッドで冒険者ギルドを開始するに当たって必要となる書類である。
冒険者ギルド内での、冒険者のランク分けの定義。どのくらいの実力を示せば、上に上がれるかの明確な定義。これらは既に他の冒険者ギルドが活用している明確な基準があるため、それを流用する。
ギルド内で問題があった際に、どう責任を取るのかについての書類。たとえばギルド所属の冒険者が、貴族や人員を故意に殺害した場合、どう対応するかについての基礎事項である。
それから、冒険者が取って来た素材の流通路の開拓。ギルドとしては、冒険者が持って来た素材を売る先を見つけておく事で、冒険者に対する信頼になる。持って来ても「売れる店との販路を持ってないので、引き取れません」というのはあまりに不誠実だから。また、売れる店は信頼がおけるお店である事が望ましく、この店の選定、そして専属契約の書類にも、ギルド長として判を押しておく必要があった。
基本的に、ギルド長室に置かれている書類は、基本的なモノばかりだ。「剣を振る際は、しっかり剣を握らせましょう」だの、「依頼を受ける際は、報酬がちゃんと払えるかを調べましょう」レベルの、本当に基本中の基本と言って良いモノばかり。
きっと、以前の、ガンマちゃんによって洗脳される前のノワルーナ姫であれば、何も考えずに、ただ印鑑を押すだけのロボットになっていただろう。しかしながら、ガンマちゃんの洗脳により、ノワルーナ姫は1枚1枚しっかりと目を通していた。
「この契約は、印鑑を押すべき。そしてこれは、罠だから、押すべきではないわ」
そうして、彼女は大量の書類の中から、判を押して置くモノと、判を押してはいけないモノを区別していく。判を押してはいけないモノというのは、押した瞬間こちらの圧倒的不利な条件で話が進む事になってしまう、そういう代物だ。きちんと読んで置けば騙される事はないのだが、逆に言えばきちんと読まなかった場合、とんでもない結果になるという、とてつもない扱いが困る書類だ。
元々、この書類の山は、経理担当の者達数十名が仕分けしていたモノなのだが、なんでそんな判を押したら不利になる書類が混ざっているのか。
そもそも、このような、こちらが不利になる書類が生まれたのには、2つの理由がある。
1つ目の理由は、ノワルーナ姫を、経営の事を何も知らない素人だと思って舐めて利用しているようなものが作った書類であるから。2つ目の理由は、ノワルーナ姫がきちんと実務能力があるかを確かめるための書類であるから。
1つ目の理由で作られた書類を持って来た所は、こちらを良いように使おうという魂胆が見え見えであり、信用が出来ないために契約しないようにブラックリスト入りに。一方で、2つ目の理由で作られた書類を持って来た所は、こちらが信用できると知ったら引き受けてくれる優良取引先であるために、優先的に話を持ち込むリストに入れる。
同じ不利な条件が書かれた書類なれども、その後の対応によって、こちらの事業の発展を促すモノもあれば、逆にこちらの事業を潰す可能性もある。それほど厄介な書類なのである。
この2つの書類の見極めはかなり難しく、そのため経理担当の者達は最終的な判断を下すのはギルド長であるノワルーナ姫だと判断して、上げて来ているのだ。
実際、その見極めは、本当に難しい。
取引先の企業名で判断すれば良いのではと思うかもしれないが、元々騙す気満々で作られた書類であるため、他の企業の名前を騙っている場合もあるくらいなのだ。そして、誰も知らない企業名で書かれていた書類が、実は取引したいと思っている企業が偽名として名乗っている場合もある。
しかしながら、その逆もあるため、見極めは本当に難しいのだ。
この見極めは、シガラキ代表ですら何度も失敗している事だった。また、【アルファ・ゴーレムサポートシステム】を持つミリオンですら、難しいからと手を付けない事を最初に明言しているくらいだから、相当難しいのは確かである。
「よし、やっていきましょうか」
しかし、そんな難しい見極めを、ノワルーナ姫は完璧に見極めていた。
一度も迷うことなく、それでいて信頼できる取引先と、ブラックリスト入り確定の書類を分けている。もうここまで来ると、一種の才能と呼べるレベルにて、ノワルーナ姫は完璧に分けていた。
こうして、彼女はギルド長の初仕事として、信頼できる取引先を25件も獲得に成功し、この冒険者ギルドのさらなる発展に早速貢献できたのであった。
「ヤバい条件を書いておいて、それを見極める能力があるかを見極めるための書類」!!
こういう、こちらを見定めようとする書類もあると思います!!




