第202話 カゲミツくんご執心のサクラアさん配信
「すいません……いきなり過ぎましたよね。反省しております」
しおらしく、そう言いながら頭を下げるサクラアさん。
「反省してくれたようでしたら、私から言う事は何もございません」
一方で、謝罪相手であるカゲミツくんも、サクラアさんの謝罪をすんなりと受け入れた。彼からして見れば、いきなり迫って来られて、さらには求婚されるという状態に驚いているだけだから。
「私なんかに求婚をしてください、ありがとうございます。本当の求婚は、私なんかよりも素晴らしいお相手様にしてくださいませ」
「素敵ぃ♡ カゲミツさん♡ やっぱり付き合ってくださいぃぃぃ♡」
「話聞いてました?!」
……うーん、また求婚しちゃってるぞ。サクラアさん。
これで8回目だ。
『求婚されてカゲミツくんが困る』、『サクラアさんが謝る』、『カゲミツくんが許す』、『それを受けてサクラアさんが再び求婚する』。
この流れが、かれこれ8回も、私の目の前で繰り広げられている。いや、止めろよと思うかもしれないが、4回目の段階で「もうこの話は終わりにしましょうよ」と言って介入したのだが、その際にカゲミツくんが
『ほら、ボスもこのように仰ってますし。サクラアさん。この話は一旦、ここまでと致しましょう』
『サクラアさんだなんて、そんな他人行儀な……"サクラア"って、呼び捨てで良いんですよ♡ なにせ、私達は結婚してるも同然なんですから♡』
『求婚どころか、もう結婚してる関係に?!』
……みたいな流れになってるので、ややこしくなるから、私はツッコむのをやめた。
「(ここまでカゲミツくんに固執するって……なにかあるのか?)」
アマゾネスは強い男なら誰だろうと夫にする種族ではあるが、流石に誰であろうと見境なしに求婚するチョロインな種族ではないはずだ。それに、魔法学校に通っていたんだから、普通に人並みの異性交流はあったはずだ。
それなのに、なんでここまでうちのカゲミツくんに執着するのだろうか……?
「(もしかして……)」
そんな事を考えていると、2人の距離が急接近。
もうカゲミツくんの唇の辺りに、サクラアさんの唇がくっついて、キスしちゃうという寸前な所を、カゲミツくんが必死に押し留めている所だった。
なんなら、搭載された刀剣の機能を使って、殴り掛かっている様子もあった。
……けっこう、ヤバイ状況かもしれん。
「たっ、助けて! ボス! 助けて!」
このままじゃあマズい状況だと判断した私は、サクラアさんにお願いして止まってもらう。
「すいません、サクラアさん」
「なんですか、義母さん?」
いま、なんか不穏な当て字が見えた気がするが、ここはスルー。高いスルー能力というのも、この世界では必要な技術である。
「あなたがどうして、カゲミツくんに執着しているのか分かりました。あなたは結婚したいんじゃありません、単にカゲミツくんが欲しいだけです」
「ボス?! それは、一緒の事なのでは?!」
カゲミツくんは、少し黙っておいて。いま、それを説明している最中に唇を奪われたいの?
「来週、またお会いしましょう。今回の変形式人形のお礼として、1つ、お返しを渡したいので」
「お返しなら、カゲミツくんでも……」
うん、それはやめてあげて。全力で嫌がってるから。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その後、なんとか説得に成功して、1週間後に再び会う事になった。無論、今回と同じくカゲミツくんと共にだ。
「すいません、ボス……次は行きたくないかもです、私」
「あー……」
これは、相当トラウマってるなぁ。ちなみに"トラウマってる"とはいまこの瞬間に私が作った言葉であり、意味としてはだいたい皆様お察しの通りである。
「大丈夫だよ、カゲミツくん。君が感じている悪寒の正体、それについても検討がついています」
「流石はボス! 私の悩みも、そしてどうすればそれを解決するのかも分かっているだなんて!」
唯一分からないのは、なんでここまでカゲミツくんの話術があがっているのかという事だけだよ。まぁ、それはいま重要じゃないから言わないけど。
「サクラアさんがカゲミツくんに執着していた理由は、彼女がアマゾネスであり、そして君に使ったのが妖刀だからだよ」
カゲミツくんは、心臓の代わりとして妖刀【厄狐丸】を搭載している。
妖刀は、魔剣と呼ばれる特別な刀の一種であり、魔術付与とは別に1つの性質を有している。
----その性質というのが、『戦闘の愉悦化』。
妖刀を振るうと、快楽が得られるのだ。人を斬ると罪悪感が出るのが普通だが、この妖刀はそれ以上の悦楽を持ち主に与える。
戦闘が楽しくなるだけならそれは良いのだが、たいていは戦闘にかかわる人殺しなどの嫌な部分が、全て悦楽として、快楽としてなっていくため、たいていは人殺しになっていくために、けっこう危険な刀と言われている。
私としては、妖刀は妖刀。ただの刀である。
それを使って人殺しになるかはその人次第である。
でもって、サクラアさんがカゲミツくんにご執心だった理由は、その妖刀が原因なのだろう。
戦闘民族だもんなぁ、アマゾネスは。
「だからきっと、別の妖刀----アマゾネスの彼女の心惹かれる武器を使えば、それで良いと思うよ」
「それだと良いんですけれども……」
まぁ、無理だったならば、最悪カゲミツくんを彼女の嫁入り道具の1つとして納品するために、女性型に変えるしかないかもねぇ。
「……あの、ボス? もしそうなった場合、どうなるんです?」
「性格を一から再構築するのは難しいので、女性の身体に男性人格が搭載されたゴーレムになりますねぇ」
「それは嫌だ」と、カゲミツくんから懇願される私なのでした。




