第138話 ガンマとメガロ配信
「なぁ~、取りなしてくれよ~。俺も使いたいんだよ~、あの赤いの~」
「…………」
どうも、巨匠の命令を受けて、お魚の生態調査をしているガンマちゃんです。
----ただいま、巨匠とプロレスにて戦ったメガロくんにしがみ付かれております。
10歳と言われても、2mを越す少年に抱き着かれますと、私、とっても困ってしまいます。
私、ベータちゃんやアレイスターなどと比べますと、かなり小柄な体格なんで、こんな大きな少年に抱き着かれると、マジで本当に困るんですが……。
「あの、すいません。いま、作業中なんで、どいてもらえませんか?」
「取りなしてくれるなら、どくぞ!」
「なに、その脅し文句みたいなの……」
折角、海水の測定とかしていましたのに、これでは正確に測れないじゃないですか……。
仕方なく私は、メガロくんの話を聞くことにした。
「それで、巨匠----うちのマスターに用事があるという事でよろしいでしょうか?」
「そう! あの赤いのがあれば、俺だって【リイル】ちゃんを王様に出来るんだって思ってるんだ!」
「リイル……?」
私がうっかりその名を、口にしたのが悪かったのだろうか。
「リイルの事を知りたいのか! よーし、それならしっかり、この俺が説明してやろうではないですか!」
どうやら藪蛇だったらしく、私は彼からリイルの事を聞かされる羽目になるのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
メガロくんから聞いた話を整理すると、こうだ。
この国には、国王と、その座を狙う次期国王候補である王様の子、王子が3人居るらしい。
その中には、今日、巨匠を案内したギジエも居るんだそう。そう語る当の本人は、まさか巨匠の隣に居たのがその次期国王とは思っても居ないみたいだけれども。
「タコの魚人族で、いつもは"はいしん"というのをしているんだそうだ。良く王城を抜け出すとか聞いたことがあるけど」
……なんでそれで、気付かないんだろうか。
ともかく、そのギジエ第一王子は早々と自分は次期国王にはならないと宣言している。
そのため、実質的に戦いは2番目のリイル王女、そして3番目の【サビキ】王女のどちらかだと言われている。
「リイル王女は、すっごく優しいんだ~! 俺のような子供達にも、時折遊びに来てくれるし! 良い匂いもするし!」
「なるほど……」
このウミヅリ王国の王位は、どちらが強いか。より正確に言えば、より強い者を仲間にしているかによって決まって来る。
最終的には、全国民集まってのプロレス勝負。お互いに一番強い者が戦い合い、勝利したモノが、次期国王だとされている。
リイル王女が持つ最強戦力は、騎士団長にして、カニの魚人族の【ズワイ】。
サビキ王女が持つ最高戦力は、自分自身。なんでもテッポウウオの魚人族らしく、遠距離からの高圧による水鉄砲を得意としているのだそう。
そして現状、ズワイ騎士団長が何度やっても、サビキ王女が勝つという無双状態なんだそう。
「ちなみに、リイル王女自身は?」
「リイル王女? 確か、エビの魚人族だったと----はっ!? もしや、リイル王女自身が戦えと?! 王女自身が強くなる必要はないだろう!」
「サビキ王女は、戦ってるのに……?」
ともかく、そのサビキ王女というのが圧倒的に強いらしい。
なんでもテッポウウオの魚人族の特徴として、腕から大量の水を発射し、さらには水の勢いを変える事で斬りつける事が出来るから強いんだそうだ。
武器なし、魔法なしのプロレスにおいて、水を発射するという武器を持っているサビキ王女が有利。さらには、その武器ですら、水の勢いを強める事で、ウォーターカッターのように出来る。
プロレスというフィールドにおいては、サビキ王女が有利すぎる。
「だから、俺達はいつもこう思ってるんだ! ズワイ騎士団長が倒せないなら、俺達自身が強くなって、サビキ王女を倒してやるって!」
「そんなに酷いんですか、サビキ王女?」
「あぁ! ズワイ騎士団長と模擬プロレスする際も、『私に勝つ気があるんですか?』だの、『このままじゃあ私が国王になりますね! リイル王女に王位は似合わな~い』とか、色々と意地悪を言ってるんだ!」
めちゃくちゃ煽ってる……。
他にも、時折、王族が登場するイベントがあっても、この2人だけはいつもいがみ合っているという感じなのだそう。勿論、仕掛けるのは常にサビキ王女側から。
そんなサビキ王女が未だに国王になってないのは、彼女がまだ成人していないから。
この国では15歳を成人としており、そんなサビキ王女の誕生日が来週に迫っているのだそう。
「このままだと、確実にサビキ王女が国王になる! そうなる前に、あの女の鼻っ柱を折ってやるんだ! 彼女自身も、『もし自分がリイル王女陣営の誰かに負ける事があれば、王位継承権を返上する』とかいってるし!」
「それだけ自信満々だと、言う事ですね」
しかし、そのズワイ騎士団長も責任重大というか、情けないというか。
こんな子供に、「あまりにも情けないから、代わりに倒します!」と言わせるとか、私だったら情けなさすぎて泣いてますよ。
「まぁ、事情は理解しました。巨匠が納得するかは不明ですが、一応は相談程度は出来ないか。聞いておきましょう」
「そうか! よろしく頼むっ!」
嬉しそうにそう言って、「話があれば『銀のウミネコ亭』へ!」と告げて帰るメガロ。
----さて、巨匠にどう納得してもらいましょう。




