表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お仕事は繁殖させる事?  作者: 鹿熊織座らむ男爵
第二章 おまけ
51/54

先王夫婦

先王夫婦をいちゃいちゃ(死語)させたかったのに…。

 王宮の奥、長らく人が住んでいなかった場所は今、先王と先王妃イレーネの二人が住んでいる。

 元々王位を譲ったあとゆっくり暮らせるようにと二十年以上前に建てられた物だが、誰も住んでいない間も侍女達がしっかりと管理してくれていたお陰で、ホルン達の居る王宮の中央と大差はない。

 先王とイレーネは、日中は王宮に出向きホルン達と交流をしたり、二人きりでテラリウム内でお茶をしたりと、ゆったりとした時間を過ごしていた。

 今日もまた、マンドレイクの栽培場の外で、ガラスの中を縦横無尽に飛び回る愛くるしいマンドレイク達を仲良く眺めていた。


「本当に何度見ても……元々はホルファティウスがモデルになったと言うだけあって、綺麗な造形をしてますわね。と言いますか……」


 構って欲しそうに二人の前に集まるマンドレイクを見上げながら、イレーネはつい心の声が漏れてしまったように、ぽつりと小さな声を落とす。


「静の母神もどう言う経緯でホルファティウスをモデルに選んだのか……」


 イレーネの隣に立つ先王も、呆れたような嬉しいような、複雑な声色で正面を向いたまま呟く。

 しかしイレーネは首を振ると、ふと隣に立つ先王を見上げながらくすりと笑う。


「ホルファティウスと言うよりも、目元は貴方で、あとはシンシア……生母様ね」


 イレーネの言葉に先王はびしりと固まり動かなくなった。

 ランス公爵の娘であり、ホルンの生みの親シンシア。

 元々イレーネとシンシアは友人同士であり、シンシアが王族に嫁いだあとも交友関係があった程だ。

 しかしシンシアが亡くなり、イレーネが王室に上がった時期を境に、イレーネはシンシアの名を口にすることは無かった。

 先王も体の弱いシンシアを娶った時に、周囲にシンシアは夭逝するかも知れないと口々に言われていた。しかし、それでもと一緒になったが、まさかホルンを産んですぐ、そこまで早く逝ってしまうとは思っても居なかった。

 そして残されたホルンは、一目見て母シンシアとそっくりの子。

 王妃の居ない今、シンシアと同じく体が弱い可能性のあるホルン一人きりと言うのは、王家としても周りとしてもあまりにも不安であった。

 そんな時、シンシアと旧知の仲でありシンシアに負けず劣らぬ美貌のイレーネに白羽の矢が立った。

 不安と周りからの重圧に耐えかねた王は、周囲を黙らせるように既に結婚し子どもも居たイレーネを強引に王室に上げてしまったのだ。

 そのせいで先王はつい最近までホルンに軽蔑され、アマデウスとイレーネ、メルには申し訳なく、ただただ窮屈な毎日をおくっていた。

 そんな日常が変わったのはザミラとイヴァンが来たから。

 二人が来て全てが徐々に明るい方へ行っていると安心していた矢先、まさかイレーネからその名を聞くことになるとは思っていなかった。

 王位も無事ホルンに受け継がれ、余生はゆったりと過ごすのみ。先王はもし仮に、もう背負う物も無くなったイレーネがアマデウスの元に戻りたいと進言すれば帰してやろうと思っていた。しかし、やはりその瞬間がもしかしたら今かも知れないと思うと、イレーネの顔を見ることも出来ない。


「年々ホルファティウスがシンシアに似てきてどうしようかと思っていたのですが、成人する頃にはしっかりした男になってくれて安心しましたものね」


 マンドレイクを見上げながらころころと笑うイレーネだが、先王は今にも心臓が飛び出しそうでそれどころではない。


「……イレーネ――」

「陛下?」


 意を決した先王が口を開きかけた時、テラリウムの扉からのそりとアマデウスが顔を出した。

 両手にマンドレイクを持ち不思議そうに小首を傾げのしのしと這い出してくるその姿は、血は繫がっていないと言うのに何故かイヴァンに瓜二つで、さすがの先王もイレーネも顔がにやけて元に戻らない。


「アマデウス様……最近は文官のお役目にマンドレイク育成も……?」

「いや、イレー……先王妃様、これはそのー……ぼんくら息子の所に追加する分です。あいつの育てている特殊なマンドレイクの数を増やす事になりまして……」

「その追加分のマンドレイクを、なぜ文官のアマデウスが持って行くのだ?」


 先王とイレーネの二人から間髪入れずにつっこまれるアマデウスは、どうにもバツが悪そうに口ごもり、曖昧な笑みを浮かべる。

 質問攻めにしつつも、実は先王もイレーネもその理由を知っていた。

 イヴァンもアマデウスもその性格からか、すぐにお互い【親父】【馬鹿息子】と言う程打ち解けていた。

 しかし、いくら打ち解けたからと言ってもお互いべったりとする程の歳でも無く、むしろ歳の離れた友達と言ったような関係だ。

 その為アマデウスもイヴァンの様子を見に行きたくとも、何となく世間話をするのも妙に気恥ずかしく、こうしてたまに口実を作ってはイヴァンの所に顔を出していた。

 アマデウス本人は上手い事口実を作っていると思っているらしいが、イヴァンや他の文官、はたまたホルンやメル達には既にバレており、時折メルが嬉しそうに先王とイレーネの所に報告に来ていたのだった。

 今日もまた、マンドレイクを口実にイヴァンの栽培場に陣取るつもりらしい。

 それをどう誤魔化すか必死に思案しているらしく、腕に力が入りすぎているのか、鷲掴みにされたマンドレイク達が悲痛な顔で先王とイレーネを見上げている。


「アマデウスよ、そのマンドレイク達の表情が……幼いホルファティウスが泣いている様で少し複雑なのだが……」

 

 先王の言葉にはっと息を飲んだアマデウスが手を放すと、解放されたマンドレイク達は一斉に先王に飛び付き小さな鳴き声を上げる。

 先王は、顔に貼り付きみぃみぃと鳴くマンドレイクの向こうで、イレーネとアマデウスが目尻を下げ仲良く笑っているのが見えた。

 

「……やはりイレーネは私と居るより、アマデウスと居た方がしっくりくるな」


 ぽつりと溢した先王の言葉に、アマデウスとイレーネが驚きの表情を見せた。


「今更だが、二人には申し訳ない事をしたと思っている……。幸いにもホルファティウスが王位を継いでくれたお陰で、私も無事用無しとなった。――イレーネ、アマデウスの元に戻りたかったら止めはしない」

 

 突如なんの前触れも無くそう言い放った先王に、イレーネ以上にアマデウスが戸惑い狼狽える。

 最初こそ驚きの表情を見せたイレーネだったが、今は表情一つ変えず真っ直ぐに先王を見つめている。そのすぐ後ろで大きな体をしたアマデウスがおろおろと背を丸めている姿は、こんな状況で無かったらきっとふき出していただろう。

 イレーネはたっぷりと時間をかけ先王を見つめていたが、メルそっくりに不満そうに眉間にシワを寄せ腕を組むと、かつかつと先王の真正面まで歩み寄る。


「そんな理由で今更離縁されるおつもりですの?」


 そう切り出したイレーネは、不満そうに先王の胸を指でトントンと叩く。


「あれ程情熱的に私を王室に迎え入れておいて用が済んだら離縁するなんて、そんな話、ホルファティウスが聞いたらまた反抗期になりますわよ?」


 じりじりとにじり寄ってくるイレーネの剣幕に、先王はじりじりと後退し始める。


「しかし――」

「しかしも何もありませんわ! 私はもう王家に骨を埋める覚悟で王妃の務めを全うしてきましたのに! ……確かに私は悪い女ですので、今も変わらずアマデウス様の事は愛していますわ。でも、それと同じ位あなたの事も愛していますのに! いつもいつも、私の気持ちは無視されるのですか!?」


 ついには扇子を取り出し先王の胸を叩きだしたイレーネに、さすがのアマデウスも止めに入るべきかと一歩踏み出した時、王宮の二階のホルンの執務室の窓が勢い良く開いたと同時に、イヴァンが思い切り跳び出してきた。

 さすがに空を跳ぶイヴァンの姿に三人の注意が向くと、その直後窓から半分身を乗り出したホルンが書類を片手に叫ぶ。


「何ですかイヴァンさーーん! この書類不備しか無いじゃないですかーー!!」


 今まで聞いた事が無い程ホルンは大きな声を上げ、今にも窓から飛び降りそうな程身を乗り出している。

 その怒りの矛先であるイヴァンはかるくホルンに手を振りぴょんぴょんと跳ねて移動していたが、テラリウムに集まる三人に気が付くと一足で駆け寄って来た。


「なんか珍しい組みあ――って、母さん何かすっげぇ怒ってんじゃねぇかよ……来るんじゃ無かった」


 ひょっこり顔を出したイヴァンだったが、すぐさまイレーネの機嫌の悪さを察知し一歩下がるが、マンドレイク達が一斉に貼り付き逃げ出せなくなってしまった。


「丁度良いところに! この人ったら酷いのよ!?」


 マンドレイク達を顔から引き剥がしていたイヴァンだったが、絶賛不機嫌中のイレーネはイヴァンの腕を掴むや、今あった事を全て洗いざらいぶちまけてしまった。


「へー……」


 そしてさすがのイヴァンもこのリアクションである。

 いきなり親の夫婦喧嘩に巻き込まれたあげく、少し面倒臭い、むしろ誰も触れたくないであろう事案に巻き込まれ死んだ目をするしか無い。

 イヴァンに愚痴を言っても気が収まらないイレーネは、扇子を片手に頬を膨らませふんっと顔を背けたまま口を閉ざしてしまった。


「何というか……親父頑張れ。頑張れば母さん取り戻せるぞ。あと先王おとーさんも頑張れ。親父に母さん取られるぞ」


 イヴァンからしたら全員が親。イヴァンのその複雑な言い回しに先王とアマデウスは手で顔を覆ってしまった。


「親父は母さん取られたのに未だに愛されてるって、男としてすげー魅力あるんだな。んで、先王おとーさんは親父と同じ位愛されてるけど、親父を忘れさせる程では無いと」

「なぁ馬鹿息子よ……お父さん今その冷静な判断聞きたくないかも知れない……」


 ついにその場にしゃがみ込んでしまったアマデウスに、イヴァンは特に気にした様子も無く話を続ける。


「母さんが今どっちも好きなのはしょうが無いな。浮気でも何でも無いし。でも母さんは嫁いだ時王家として責任を背負って生きていくって決めたんだろ? だったら変な遠慮してる先王おとーさんが悪いわ。母さんが親父の事を忘れられるくらい自分に惚れさせないと誰も幸せになれないわ。いやー親父が魅力的過ぎてこま――」

「父上ー! そこの職務怠慢弟ひっ捕まえて下さーいっ!!」


 テラリウムの向こう側からホルンが叫びながら走ってくるのを確認した瞬間、イヴァンはマンドレイク達を抱えると一目散に走り去ってしまった。

 目まぐるしいイヴァンの言動にもう笑うしか無いアマデウスだったが、イヴァンと入れ違いに三人に合流したホルンの不満げな顔に更に笑みを深める。


「あぁ、また逃げられた。……珍しい組み合わせですね。父上、ついに母上に愛想を尽かされたのですか?」


 これまでの話を知らないはずのホルンだが、見事に触れられたくないところをえぐる。

 しかし、ホルンは何故かアマデウスの腕を引き歩き出すと、そのまま付け加えるように口を開く。


「まぁ父上が一方的に離縁しない限り、母上は王家を背負ってくれるでしょうが。と言いますか母上を捨てるとか言い出したらホント、何様って感じですよね。伯爵、話は変わりますがご子息を捕まえたいのでお手伝いをお願いします」


 若干不機嫌な為か、魔王化寸前のホルンはずるずるとアマデウスを連れ、半ば暴言のようなことを言い残し去って行った。

 イレーネと二人だけで取り残されてしまった先王は、胃に穴が開きそうな程気まずくて仕方が無い。


「……私がシンシアの名を出したのが気になったのでしょうけど、もう全て過去の事。私も全て受け入れ王室に上がったのですから、そろそろ本当の意味で私を受け入れて下さいませ……」

 

 沈黙を破り先に口を開いたのはイレーネだった。

 イレーネは先程までの怒りが嘘のように静まりかえり、どこか寂しそうに足元を見たまま動かない。

 そのころころ変わる感情と寂しそうな雰囲気は、本当にメルにそっくりであった。


「アマデウス様がイヴァンの言葉を本気にして私を取り返しに来たら、あなたは諦めてしまうのですか……?」

「すまなかった! すまなかった先程のは失言だった!」


 イレーネの泣き出しそうな声に、先王は慌てて肩を抱き寄せる。

 

「離す気は更々無い! ただ、やはりその……どこか負い目を感じていてな。だが先程の静の母神の言葉で気が付いたよ……完膚なきまでにそなたを惚れさせ、アマデウスなんかどうでも良いと言わせてみせよう。今後の人生の良い目標が出来たぞ……くっくっくっ!」


 イレーネの気持ちを知れて、今後の目標も決まった先王はにやりと笑みを顔に貼り付け不敵に笑う。

 その姿に満足そうな笑みを浮かべたイレーネは、王宮の端で跳び回るイヴァンと追い掛けるホルンとアマデウス、それと数名の近衛兵の姿を視界の端で眺めながら、今晩早速メルに報告しようと更に笑みを深めた。


 実は数日前、先王が負い目を感じていると分かっていたメルが、隠居した今、少し押せば先王の本当の気持ちが聞き出せるのでは無いかと、何とも酷いことをイレーネに言っていたのだ。

 さすが、イヴァンを捕まえ結婚までこぎ着け、怒らすこと無く良いように程よくホルンを利用する程の手腕を持つメルの案。

 イレーネもメルの話を聞いて確かにそうかも知れないと思っては居たが、しかしまさか、シンシアの名を出しただけでこうなるとはさすがに思っては居なかった。

 憶測だが、もしかしたらメルが事前に揺さぶりをかけていたのかも知れないと思うと、我が娘ながら怖い才能だと、ほんの少し身震いするイレーネだった。

結果「えっメルこえぇ」話になりました←

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ