即位後の珍事件
ザミラ「何でいきなり即位後の話? もっと先に書く事いっぱいあるでしょ?」
ホルン「まぁ、戴冠式なんて儀式的な物つまらないですからね。もっと他に書く事はあるかと思いますが」
作者「ネタが思い付きませんでした……」
ホルンが即位した翌日、元々政務も行っていたホルンは、今の所敬称と執務室の場所が変わった位しか変化は無かった。
先王付きだった侍女達はそのまま継続して先王に仕える事となった為、広い執務室にはホルンとザミラの二人だけという状況だった。
何故か普段厩に引きこもっているはずのザミラは、ドレス姿に被り物という不自然な格好で、仕事中のホルンのすぐ脇に隠れるようにしゃがみ込んでいた。
「ザミラさん、今日はどなたから逃げて来たのですか?」
「……おとーさん」
ザミラが正式にランス公爵の養子になった日から色々な大人達の手によって、ザミラは王妃になるべくマナー等の教育を一から叩き込まれていた。
当初は石喰い鳥やスレイプニルの世話がある為、各自無理はせず可能な範囲でザミラに接していたのだが、ザミラを構いたくて仕方が無くなったランス公爵が暴走したのを皮切りに、イレーネやアマデウス、メルや王宮仕えの従者までも我先にとザミラを取り合う様になっていた。
その為ここ最近は、ザミラが王宮内を逃げ惑うと言う生活が続いていた。
執務室の外から慌しい足音が聞えて来るたびに、ザミラはびくりと体を震わせ机の下、ホルンの足元に入っていこうとする。
ホルンはそれを嫌がる事も止める事もせず、くすくすと笑うと椅子の上に足を上げて座り、ザミラが中に隠れやすいようにする。
すると突如執務室の扉が開け放たれた。
「ホルン! ちょっとかくまってくれ!」
音に驚き飛び上がったザミラが机に頭をぶつけ、それに連動するようにびくりと固まったホルンを尻目に、部屋に駆け込んで来たイヴァンは机を飛び越えホルンの後ろにすとんと座り込んだ。
「イ、イヴァンさん、どなたから逃げてきました?」
「おとーさん。あ、ザミラお前、今外に出ない方が良いぞ」
揃ってホルンの足元に潜り込む兄妹は、深いため息をつくと見事に気配を消した。山育ち狩り暮らしの経験が変な所で生きている。
「あとホルン、さっき俺の所に先王様とランス公爵が来た」
「はい? 変な組み合わせですね。なぜイヴァンさんの所に?」
仕事を放棄したのか、ホルンも二人に習うように机の下に潜り込んで来た。
「一緒には来なかったけど用件は一緒だった。マンドレイクが一株欲しいって言って来たから渡したんだが……」
言いにくそうに話を区切り曖昧に微笑んだイヴァンは、すぐ隣に座るザミラに耳打ちをする。
ホルンが眉根を寄せその様子を見ていると、ザミラがぐっと笑いを堪え、イヴァンと全く同じ曖昧な笑みを浮かべホルンに視線を向ける。
「観賞用にと言う事では無いのですか?」
その言葉に堪えきれなくなったのか、ザミラはぐふっと吹き出しイヴァンの背中に顔を突っ伏す。
「観賞用だけど、えーと、マンドレイクの外見に要望があって……。二人共お前の形にしてくれってさ。それもファティ位リアルなやつ」
思い切り顔をしかめたホルンはイヴァンの説明を待っているのか、椅子に頬杖を付き笑い転げるザミラに視線を移す。
「その、な。先王様はようやくホルンが心を開いてくれたって泣いて喜んで、今までおおっぴらに可愛がれ無かった分ホルンマンドレイクを可愛がりたいらしく、ランス公爵も娘さん、ホルンのお母さんにそっくりなお前をずーーーっと溺愛してたけど立場的に難しくて、今その欲が爆発、し……うははは」
「なっ――」
イヴァンの衝撃的な言葉に体を起したホルンは見事机に頭をぶつけ轟沈。そしてイヴァンとザミラは二人揃って呼吸が出来ない程笑い轟沈。
痛みに耐えながらのろのろと顔を上げたホルンは、うずくまるイヴァンに恐る恐る問いかける。
「イヴァンさん、その気持ち悪い要望、まさか叶えて……」
「先王様に渡したのはファティより一回り大きいやつ。勿論外見はファティ位精巧。ランス公爵のは……ホルンが、女装したみたいな、や……うははははは」
「今すぐ侍女を呼びます! イヴァンさんとザミラさんを差し出すかわりにその二つを回収します! 王命にしても良いです!」
ホルンは思い切り立ち上がると机の上にあった侍女を呼ぶベルを手に取る。慌てて立ち上がったイヴァンとザミラは必死にその手にしがみ付きどうにか制止しようとする。
「ちょっとホルンさん!? 何で私まで!?」
「待て待てホルン! お前が直接二人に溺愛されるよりはましかと思って渡したんだぞ!?」
「そんな下心丸出しな身内に、いくらマンドレイクとは言え溺愛されるのは気持ちが悪すぎます! ザミラさんはランス公爵の機嫌をとって来て下さい! イヴァンさん早く回収して来て下さらないと栽培場に幽閉しますよ!?」
「圧政! 即位してすぐ暴君かよ! 仮にもお前の妹の旦那だぞ!?」
「私は断腸の思いで愛妻を差し出すのです! もうメルの旦那も母神も何も関係ありません!」
「そこまで苦渋の選択なら無理しなくて良いですよ旦那様!?」
最高権力者とその身内の二人が喧々と騒ぎ立てる声は廊下まで筒抜けとなり、結局騒ぎを聞きつけた侍女とアマデウスが駆けつけ、即座にイヴァンは回収されて行った。
「ザミラさん、そんな愛らしい事をしても駄目ですよ? 父のは力ずくで回収出来ますが、ランス公爵のはザミラさんのお力が必要なんですから、ね? ほら、私の為にと思って頑張って下さい。後程いくらでも我が儘を聞いてあげますし、たっぷり甘やかしてあげますから」
「今我が儘聞いてよ甘やかしてよぉ……」
いやいやと頭を振りホルンにしがみ付くザミラだったが、完全に魔王モードに突入してしまったホルンには効果が無い。
満面の笑みでよしよしと優しい手つきでザミラの頭を撫でるホルンだが、ザミラはその笑顔が怖すぎて顔が上げれない。
結局侍女が申し訳無さそうにランス公爵を連れて来た事でこの騒ぎは一段落したのだが、ホルンが腕まくりをし先王の所に向かったのを確認した侍女は、もう一波乱ありそうだと掃除用具と救急道具一式を持ちその後ろについて行った。
作者「先王様とランス公爵は実はホルンを溺愛してた設定を本編で出せなかったので思い切ってぶちかましました」
ホルン「本当に迷惑な設定を有り難う御座います。そして、イヴァンさんにザミラさん? いつまでも笑っていると記念すべき圧政被害者第一号にしますよ?」
イヴァン「いや、もう……」
ザミラ「既にね……」





