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 そんなこんなでどうにか夜会本番。

 会場となる大広間は侍女と執事達が一日かけて整えていたらしく、最奥の数段高い位置に設けられた本日の主役の国王とその家族の席は、色とりどりの花と装飾に埋め尽くされ、会場を取り囲むように端に転々と設置された席にも丁寧な装飾が施されている。

 飾りつけは席だけではなく会場中くまなく施され、会場を一周取り囲むように作られた二階の回廊までも華々しく彩られている。

 これだけ盛大な飾りつけを行ったのなら、やはり今回着付けは魔術師長にお願いして正解だったとイヴァンとザミラは深く納得した。当初は侍女のマーサが着付けを行うと進言していたのだが、何だかんだ忙しかったであろうマーサに頼まなくて良かったのだと胸を撫で下ろす。

 夜会の時間が近付くにつれ、続々と王宮に馬車が集まる。

 華々しく着飾った貴族達はお互いに挨拶をしあうと、自然と何個かの固まりに分かれ世間話に花を咲かせ、しばらくするとふらふらと他の固まりに移動して行く。

 勿論貴族に知り合い等居ないし固まりの中に突入して行く気もないイヴァンとザミラは、壁際で仲良くグラスに移し変えた液剤を口に運んでいた。

 会場中が色々な香水の臭いで満たされ始めた時、本日の主役の国王が壇上に現われ会場が一斉に沸いた。

 

「あ、王様のすぐ後ろに居るのって王妃様? 遠めでもメルそっくり!」


 一目王族達を見ようと殺到する貴族の先をゆったりと歩くドレスの女性。淡い緑色の上品なドレスを纏った女性はメルと同じ鮮やかな金の髪をきっちりと結い上げ、国王の一歩後ろで穏やかな笑みを浮かべている。

 

「すっげぇ、大人なメルだ。あ、ホルンとメルもい……あいつらの無表情って怖いよな。……ん? ホルンの横にくっ付いてるのが弟か?」

 

 見るからに重そうなマントを羽織り殺到した貴族達に笑みを向けている国王の脇で、イヴァンの服よりも幾重にも装飾があしらわれ、更に動きにくそうなマントを身につけたホルンが、一切感情の篭っていない冷ややかな目で立って居るのだが、そのホルンの後ろに隠れるように少女の様にな大きな瞳を持つ金髪の少年がおどおどとしながら立っているのが見える。

 笑顔の王妃の横に居る、ピンクのふんわりとしたドレスを身に纏ったメルもホルンと同様に、自身の前に集まる人だかりが見えていないかの様にぼんやりと表情一つ変えず佇んでいる。

 午前の一般解放の時とほぼ同じ口上を述べる国王はさらりと無視し、イヴァンとザミラは普段見られない王族の末子に興味深々だ。

 二人揃って壁沿いで爪先立ちをし眺めていると、ふと大きな紫の瞳と視線が交差する。

 思いがけず目があったイヴァンが反射的に笑顔で手を振ると、少し俯き眉根を寄せしばし何かを考えた時期国王候補は、ふと顔を上げると目の前に立つホルンの服の裾をくいくいと引っ張り出す。

 十歳にもみたないまだ幼い少年が、少女の様に愛らしい少年とはまた違った、彫刻美の青年の裾を引っ張っている光景は一枚の絵画のようで、その何気ない光景に一部から感嘆の声が上がる。

 更にホルンが表情を緩め少し屈むと、弟は少し背伸びをし近付いて来た耳に両手を沿え耳打ちをする。その光景に更にため息のような感嘆の声が上がる。

 王族が少し動いただけでも貴族はああ言う反応を示すのかと、イヴァンとザミラがくすくすと小声で話していると、弟の頭を撫でながらホルンは姿勢を正すと、ふっと視線を向けて来た。

 口上を述べる国王はそのやり取りに気付かなかったようだが、ホルン達と同様に一歩下がって待機していた王妃とメルはそれを見ていたらしく、ホルンの見つめる先にそれぞれ視線を流す。

 思いがけず高貴な四つの視線が集中してしまったイヴァンとザミラは、困惑しながらも冷静に笑顔で手を振る。正直王族相手に手を振るのは冷静な判断かと聞かれたら微妙な所ではあるが、だからと言って視線を逸らしたり大慌てするよりは良いと無理矢理納得する。

 イヴァンとザミラを見つけた瞬間、少し目を見張った直後すぐに嬉しそうに顔を綻ばせたホルンと、今すぐ卒倒するか泣き出すのではないかと思う程の感動を湛えたメルの満面の笑みは遠目でも輝かしく、ホルンとメルの様子をしばし眺めたていた王妃は、何か納得がいった様に笑みを深めると、嬉しそうにメルに話しかけているようだ。

 だが王族兄妹から輝かしい笑顔が出た瞬間、会場が一際歓声で沸いたのと同時に、その視線の先を追って貴族達が各々振り向き始めたので、イヴァンとザミラはそっと柱の陰に避難し始めた。

 

「思ったより二人共元気そうだね。と言うか、二週間イヴァンを我慢したメルの笑顔の破壊力……! 今日、弟君紹介してくれるかなー? あ、そんな時間無いか」

「あの感じで抱き付かれたら受け止めれる自信が無いなー。と言うかいつもの張り付いた笑顔じゃない、ホルンの素の笑顔って貴重な気がする。紹介……いや、あの様子じゃダンスが始まったら二人は休む暇何て無いだろ」

 

 そんな会話をしていると丁度国王の口上が終わり、それと同時に優雅な音楽が流れ始める。

 すると集まっていた人達は、銘々ダンスのパートナーを探し始めるか、端で飲み物を片手に雑談を始めるかの二手に分かれ始めたが、相変らず王族兄妹の周りにはそれぞれ独身貴族と思われる人達が溢れかえり、まだ幼げな弟の元まで娘を嫁がせたがっている親達が、入れ替わり立ち代り順番に話しかけている有様だ。

 今日に限りこの場は既婚・未婚・身分等全て関係無いただの祝いの席となっており、貴族にしたら一年で数度しか訪れない王族とダンスが出来るチャンスらしい。

 ホルンとメルは慣れた様子でダンスの誘いに答え、部屋の中央で貴族達に紛れくるくると回っているが、はじめよりもどこか表情が柔らかいのはイヴァンとザミラを一目見たからだろうか。

 色とりどりのドレスが花のように咲き乱れる会場をぼんやりと眺めつつ、イヴァンとザミラは壁際で液剤をひたすら飲み続けていた。

 通常は一曲同じ人と踊るか、キリが良い所で他の人と交代するのだろうが、なにぶん希望者が多いホルンとメルはすぐさま色々な人にとっかえひっかえ振り回され、あまりにもその様子が面白かったのか、イヴァンとザミラは近くに人が居ない事を良い事に思い切り笑い転げていた。

 何曲かするとしばしの休憩の為か曲が止まった。すると踊っていた人達が一気に散らばり再び複数の固まりを形成しだす。

 この時間は座ってダンスを眺めていた国王と王妃も雑談に混ざるのか、数人が二人の元まで歩み寄るとそのまま同じように話し始めていた。

 ホルンの周りにも同じ事が言え、踊り終わったと思った矢先ホルンは人の波に埋もれていってしまった。大変そうねー等と他人事のように話していたイヴァンとザミラだったが、ふと、話しかける人の群れの間を縫うように、猛然と近付いて来る金髪に気付いた。

 

「旦那様! ザミラ! お久し振りですわ!」


 さすがに抱き付きはしなかった物の、ダンス中緩む表情を我慢に我慢していたメルはここぞとばかりに満面の笑みを浮かべ近付いて来た。

 

「おー、メル。今日のドレス華やかで似合うなー。髪も綺麗に編み込まれてるし、これなら花飾りなんか無くても十分見栄えするんじゃないのか? あー……そう言うもんでも無いのか。と言うか、こんな端に来て大丈夫なのかよ?」

 

 他に視線がない事を確認しながら、熱っぽい視線を送ってくるメルの頭を軽く撫で、イヴァンが不思議そうに小首を傾げる。

 ザミラはメルを柱の陰に押して行き、更にそのまま体で隠すよう隣に立つ。

 

「本当は二人に紹介しようと弟を抱えていたのですけれど、さすがに身動きが取れなくなって来たので皆さんにぽいっと差し上げて、その間に私はここまで来ましたの! 兄様も置いて来たので当分は持つと思いますが、さすがにダンスが始まったら戻らないと……」

「うん、正しい生餌の使い方だと思うよ……?」

 

 ザミラはほんのりと人の間から見え隠れする白銀と、その群れに向かって少しずつ動いて行く小さな金髪とそれに群がる人だかりを切なげに見つめながらため息をつく。

 ザミラは正直弟の方は分からないが、ホルンはこれ位の事などストレスだな位にしか思っていないだろうなと判断し、何事も無かった様にメルに向き直る。

 

「ダンスが始まるまでかー、結構すぐだね。あーあ、いつか堂々とメルとお茶がしたいよー」

「私もですわザミラ! こうなれば一刻も早くお二人を養子に迎えてくれそうな王侯貴族を探さなければ……! って、あら?」


 力強く宣言し上を見上げたメルが不思議そうな声を上げた。

 イヴァンとザミラもそれに習うように揃って顔を上げると、そう言えばと苦笑いを浮かべつつ小さく手を伸ばす。

 するとイヴァンとザミラの指先にふわりと降りて来たのは、しっかりと正装をしたレイとファティだった。

 

「分かるか? レイとファティ……ホルンマンドレイク。この二週間、本気で育ててみたら、完璧な人間みたいな見た目になったんだよ。あー、こうやって飛びまわるのは知ってたよな……?」

 

 葉だった部分は髪へと変貌し、細部はしっかりと手足の指まで再現された、ホルンとメルの小さな生き写しのような二体。

 イヴァンは簡単に説明しレイとファティをすとんとメルの手の中に落とす。

 メルが感動のあまり口を魚のようにパクパクさせていると、会場に静かに曲が流れ出した。

 会場と手の中のレイとファティに交互に困ったような視線を向けるメルに、たまらず吹き出したイヴァンは、メルのドレスのフリルの裾にでも隠れておけと、メルと一緒にレイとファティを送り出した。

 イヴァンとザミラは後ろ髪を引かれる様に会場に戻って行くメルの、広がった袖部分にレイとファティが潜り込んで行くのを楽しそうに見送る。

 そして会場に戻ったメルは真っ先に王妃の元に駆け寄ると、手元は見えないがレイとファティを渡したのか、王妃の顔が驚きの表情でぴしりと固まっているのが確認出来た。

 そのまま顔を上げイヴァンとザミラに視線を移した王妃は、二人の困ったような笑顔を確認すると、メルそっくりな顔にメルと同じ満面の笑みを浮かべた。

 すると今度は王妃が立ち上がりにこっそりと時期国王候補に近付くと、メルが自身にそうした様に隠れて手渡す。すると同じようにぴしりと固まった時期国王候補は、手元と王妃の顔を何度も確認すると、これまた王妃と同じ満面の笑みで力強く抱き締める。

 いつだったかホルンが兄弟仲は良いと言っていたが、あの様子を見る限り本当なのだなとザミラは一人納得していた。

 次にレイとファティは当たり前のようにホルンの元まで運ばれて行ったのだが、あいにくダンス中で対応出来そうに無い。

 初めてのお使いを見守る気持ちで眺めていると、さすがはメルの弟、近付いて来た弟を不思議そうにちらちら見るホルンの背中に回り込むと、容赦無くジャケットをめくり思い切り背中にレイとファティを突っ込んでしまった。

 確かにダンス中に周りに知られずポケットに入れるのは難しいが、だからと言ってジャケットの中に突っ込む位なら、むしろマントの内側に忍ばせた方が自然だったのでないだろうか。

 あまりにも大胆な行動に、イヴァンとザミラと王妃、それと近くで踊っていたメルの四人はたまらず吹き出してしまった。

 そして案の定、心構えも無く思い切り背中に異物を入れられたホルンは、ダンス中に背中を反らせびくりと固まってしまった。

 ホルンはそのまま踊っていた相手にやんわりと視線だけで暇乞いをすると、弟の肩を押しながら端まで移動し見えなくなってしまった。

 

「ホルンさん、弟君を怒ってると思う? びっくりしてると思う? 喜びはしないよねー」

「面白い顔をしてるのは確かだろうな」

 

 直接見れず少し残念な二人だったが、王妃がホルン達の消えた方を見ながら必死に笑いを堪えているのを見ると、よほど面白い反応をしたのだと理解出来る。

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