表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/54

14

 結局イヴァンから後は任せたと言われたものの、いくらなんでも怒り狂った猛獣ライアンに抵抗出来るわけも無く。

 そしてイヴァンと同じような事が多少出来るザミラだが、さすがにホルンを抱えては難しく、即降服する事にした。

 現在、王宮内の廊下ではこの国の宰相で王太子でもある人物と、最近その人物の下に付いた者が、超絶不機嫌な近衛師団長の小脇に抱えられて持ち運ばれると言うなんとも言えない光景が広がっている。


「私の……王宮デビューが……」

「私も職場、と言いますか自宅でこのような目に遭う日が来るとは思ってもいませんでした……」


 官僚や侍女達がライアンの雰囲気を察知し隠れてしまったせいで、顎を真っ直ぐに伸ばさないと見えない位高い天井と、二、三十人横並びになっても通れる程広くどこまでも続く大きな廊下に居るのはこの三人だけ。

 それぞれライアンの両脇抱えられたザミラとホルンは抵抗する事無くぐったりと持ち運ばれ続け、一つの大きな扉の前に連れて来られた

 そして扉を開けるのであれば二人を降ろせば良いものを、何故かライアンは二人まとめて片手で小脇に抱えると、ノックをし扉を開けた。

 豪奢な敷物に調度品、巨大な楕円形のテーブルと絢爛な蜀台。ただ部屋の中は灯りが灯っていない為か薄暗く、あまり細部まで見る事は出来そうにない。

 部屋の奥、テーブルの端に目を向けるとそこには厳しい目をした茶色の髪の男性が一人、侍女も付けずに座っていた。

 ライアンは部屋に入り一礼すると、ようやく二人を降ろした。


「メルティーナ様ともう一名も連れて参りますので、もうしばらくお待ち下さい」


 ライアンはそう言い残すと部屋を後にする。

 重厚な扉が完全に閉まると外の音が一切聞えてこない、完全な静寂の空間になった。

 未だに全力でイヴァンは逃げているのだろうか。一国の姫を連れて逃げ回るのはさすがにまずいのではないか。あぁ、でもイヴァンの事だからそろそろ諦める頃だろうか。

 ザミラがぼんやりとそんな事を考えていると、テーブルに座る人物が仰々しく一つ咳払いをした。


「ホルファティウス、進捗はどうだ」


 その鋭い眼光からは想像も出来ない程退屈そうな声色でホルンの名を呼ぶ。

 ホルンは一切感情の読み取れない凪いだ顔を真っ直ぐとその人物に向けると、普段よりも格段低い声で話し始めた。


「先程マンドレイクの方は打開策が見つかった所です。スレイプニルに関しましては再度、早急に森に行く必要があり、これからその準備に入る予定ですが、どちらも万事問題なく進んでおります。スレイプニルの繁殖はどうしても時間がかかるかと思われますが、マンドレイクに関してはそれ程お待たせする事は無いでしょう」


 【口を出すな】本当はそう言いたいのが露骨に分かるホルンの言い回し。

 ザミラは先程の厩の話から察するに、目の前に座っているのはこの国の国王だろうと予想し、薄暗い中に座るその人物の顔をチラリと盗み見る。

 髪色こそは全く違うが、瞳の色はホルンと同じ紫色。

 そのまま鼻、口、耳に輪郭へと視線を彷徨わせたザミラは、ふと隣に立つホルンに顔を向け思わず聞えるか聞えないか位の小声で呟く。


「……似てないね、全く……」

「……ちょっと待ってて下さいね?」


 緊張感の欠片もないザミラの発言をやんわりと受け流し、ホルンは再び国王に視線を戻した。


「では、今は立て込んでおりますので報告は以上と――」

「マンドレイクを担当していると聞く男の母神は薬理学者とし王宮官僚とする。必要であれば魔術師をつける事を許可しよう」


 暇乞いをしようと中途半端に頭を下げた状態のホルンは、その言葉に耳を疑った。

 言葉の意味が分からないザミラはとりあえず無言を貫く事にした。


「官僚……罪人疑いで王宮で身柄を拘束している者を、ご自身の配下に置かれるおつもりですか」


 そう言えばそんな理由でここに来たのだったとどこか他人事のように聞いてたザミラだったが、国王がすっとザミラに視線を向けたので思わず固まってしまった。


「そこの母神は今は仮に宮内府の主馬寮とでもしておこう。母神をただの馬の世話係とするのは体裁が悪い、後程改めて新しく役職を作ろう」


 さすがのザミラも驚きホルンに視線を向けると、ホルンはその彫刻美のような顔を崩し、盛大に眉間にシワを寄せ国王を睨みつけていた。


「……何が言いたいのですクソ親父」

「良い贈り物だな。本当にお前は出来た息子だ。母神はこの父が喜んで受け取ろう」

「想像はしてましたがここまで早いとは。随分と我慢が出来ないのですね、がめつい人だ。ですが、残念ながらお二人は渡せませんね。もし二人に用があればイヴァンさんはメルに、ザミラさんは私に許可を取って下さい」


 この国で最も高貴な親子喧嘩に絶賛巻き込まれ中のザミラは笑みを消し、獲物を仕留める時のように気配を消すとじりじりと下がって行く。

 だが、にっこりと不敵な笑みを顔に貼り付けたホルンが正面を見据えたままザミラの腕を掴み自身に引き寄せると、国王に向け挑発的な笑みを浮かべると、ザミラの髪をかき上げ耳飾りに触れる。そしてそのまま耳飾りを隠すように耳の後ろで留めていた留め具をぽいっと投げ捨ててしまった。


「なっ……!?」

「ぎゃぁぁ!」


 耳飾りを見て絶句する国王と女子にあるまじき悲鳴を上げるザミラをよそに、ホルンは満面の笑みを浮かべると自身の耳飾りの隠し留め具も投げ捨てる。


「こういう事ですのでお二人はあげれません。残念でしたね、業突く爺」


 ホルンは自身の首筋に沿う黒の耳飾りを見せつけるように小首を傾げそう言い放つと、絶句している国王を無視しザミラを抱え部屋を出てしまった。

 今度はホルンに持ち運ばれ廊下を歩くザミラだったが、侍女達の視線に気付き大慌てで耳飾りが隠れるように耳の横で大きな三つ編みを作る。


「ホルンさんそろそろ降ろして!」

「メルとイヴァンさんを見つけてから見当します!」

「今見当しよ!?」


 ザミラを肩に担いだ宰相服のホルンが王宮内を走り抜ければそれは目立つ。

 一つだけ幸いだったのが、ホルンはザミラを右肩に担いでいたのでホルンの耳飾りが他の人に見えなかった事だ。



 王宮内を駆け抜けザミラとホルンが厩の二階に戻って来て少しした時、イヴァンとメルはなぜか出て行った窓からひょっこりと戻って来た。


「お帰りイヴァン……お疲れ」

「おーただいまー。俺体力落ちたかもしれん。あんまり高く跳べなかった」


 なぜか走っていたイヴァン本人は息一つ乱れていないというのに、抱えられていたメルが肩で息をする程疲弊していた。

 イヴァンはメルとレイをソファに降ろすと、自分はその反対側のソファにぼすっと身を投げごろごろとし始めた。


「兄様……私、初めて壁を駆け上がりましたわ」

「すみませんメル、ちょっと何言ってるか分からないのですが」


 叫びすぎたのかメルの声は若干枯れ気味に。

 そしてホルンは何事も無かったかのように二人に先程の国王とのやり取りを説明し始めた。


「だからか、途中から近衛兵が追って来なくなったんだよ」

「ライアン師団長が木槌を振り回し追い掛けて来た時は、流石にもう駄目かと思いましたわ」

「バルコニーぶち壊してな、凄い執念だったなー。うざ過ぎて弓持ってたら確実に射抜いてたわ」


 イヴァンとメルが口を開く度に一体この短時間で何をして来たのかがいよいよ謎になってくる。ただ、ザミラもホルンもうっすらとそれは聞いてはいけない事なのだと悟り、何事も気付かなかった事にし話を進める。


「お二人には申し訳ありませんが、今王宮内に用意していた部屋に戻りますと瞬く間に取り込まれてしまう可能性がありますので、当面こちらで過ごせるよう必要な物を運び込ませます」


 ぐったりとした表情でホルンはそう言うものの、イヴァンとザミラはあまりその事は気にしていなかったのか、まるで他人事のように返事をするのみだった。

 それよりも二人としては、例え国王に取り込まれたとしても待遇は変わるかも知れないがやる事は変わらない。ただただ、この国の頂点に立つ親子の親子喧嘩に巻き込まれた挙げ句、譲れ譲らない問答の末さらっと婚約しました宣言をされた事の方が神経をすり減らす原因となっていた。

 疲労困憊の四人は一先ずその事は考えない事にし、テーブルの上に置き去りにしていたマンドレイク達の話題へと移っていった。


「こうなればイヴァン、さくっと量産用の薬にする罪悪感は湧かないけど程良く可愛い愛せるマンドレイクを作ろう」


 ザミラの無茶苦茶な要求に文句を言わず、イヴァンは黙ったまま早速マンドレイクの一つに耳飾りをくっつけると思案顔のままそのマンドレイクの頭を撫でる。

 するとレイの時のように一瞬光を放ちそれが収まった時、マンドレイクは確かに変化を起こした。


「……可愛いかどうかって言われたら、無理。母神でも、愛せない、デス」

「なまじ人っぽくなったせいで不気味さは増しましたね」


 マンドレイクの葉と茎はずっしりと量が増え、体もがっちりとした筋肉質な物になり、とどめと言わんばかりに仏頂面のおっさん顔の物が出来上がってしまった。


「オオオォォオォォォ」


 しかも発せられた言葉は予想通り低く野太い雄叫び。


「あ、もしかして旦那様、今度は私では無くライアン師団長の事引き摺ってません?」


 メルのその言葉に全員一斉にテーブルのマンドレイクに視線を落とす。

 言われてみたらライアンの特長が如実に表れている様に見える。

 イヴァンの受けたイメージがそのまま反映されている為か、本物よりも厳つい気もしなくもない。


「だってトラウマになるぞあれ……。引き摺るなって方が無理だろ。だからってまたレイを作るわけにもいかないし、加減が……」


 イヴァンに万人が程よく愛せる物を見せながら作らなくてはいけなくなり、再び深い溜息が部屋中に広がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ