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追放された俺は逆行転生した〜TS吸血姫は文化を牛耳る〜  作者: 石化


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エピローグ

 

「困ったら我の屋敷に来るのはやめてほしいんだが。」


「かわいい弟子の頼みは聞くものですよ。」


「はあ。」


 安倍晴明はため息をついた。


「それで、そっちは?」



「私の、眷属、なんですかね?」


「つまり妖怪だな?」


「私の配下ですから滅多なことはしませんって。」


「⋯⋯、まあいいか。」


「それより師匠、ずいぶん力が弱まりましたね。ひょっとして死ぬんですか?」


「そりゃあ人間だしいつか死ぬだろ。」


「師匠なら超越者になるとか転生体を用意するとかしそうですけど。」


「⋯⋯、いや、我はもう十二分に楽しんだよ。これで我の生は終わりだ。後悔はない。」


「いつか弟子に追い抜かれますよ。」


「そうなれば本望だよ。」


「あーあ。丸くなっちゃって。つまらないですよ。なんでこう無常思想を受け入れる人間ばかりなんでしょうね。」


「馬鹿弟子は馬鹿弟子なりに頑張れよ。目的が果たせるといいな。うちの紙は好きなだけ持っていっていいぞ。」


「師匠が微妙に優しいんですけど、刀でも降ってくるんですかね。」


「それ我に失礼だからな?!」


「ま、ありがたく数日泊まらせていただきますよ。師匠はできるだけお達者にしてくれてると嬉しいです。」


「弟子の頼みだ。そのくらいは気合で持たせてもいいぞ?」


「嘘ですよ。早く楽になっていいですから。」


「そうか⋯⋯。」


 安倍晴明は、眩しそうに目を細めるのだった。



 師匠といつものごとくじゃれあった夜は、少女と二人っきりの部屋に移った。


「さてと、自分が何者なのかわからない?」


「はい。気づいたらあそこにいました。夜さんが、私の上位者なのは感じられるんですけど、すみません。」


「いや責めてる訳じゃないから。」


「そうですか⋯⋯?」


「多分、あなたは私の吸血のおかげで生き返ったんだと思う。若返った状態で。」


「なるほど?」


「生前の名前、聞きたい?」


「いえ、良いです。私は自分の名前は自分で決めます。」


「なんで?」


「前世がなんだろうと、私は私なんですよ?」


「そっか。立派だ。」


 夜は納得した。元もとの香子は一つの到達点だ。

 だが、今の彼女なら、香子とは違った場所に立つことができるのではないか。

 そんな期待が頭から離れない。


「どうせなら、夜さんが、つけてくれても良いですよ?」


 声色に慕わしさを乗せて、少女は言う。


 その期待を無視することはできず、夜は、名前を考えるはめに陥った。

 だが、彼女のネーミングセンスは壊滅している。


「薫で。」


「はい。これからの私の名前は薫です。」


 にっこりと笑って、少女はその名を受領した。

 元の名前との関連に気づいたのだろうか、それとも、ただ、夜に名付けてもらったことが嬉しいのか。


「それで、差し支えなければ、物語を書いてほしい。」


 夜は、再び英才教育を施す気満々だった。


 だが、薫は首を横に振った。


「私は、前世で、全てを出し切りました。だから、今度はあの時私を支えてくれた誰かのように、小説を書きたい人をサポートする仕事がしたい。」


「編集かな?」


「意味はよくわからないですが多分それです。」


「なるほど。」


 夜はしばらく悩む。

 薫の才能が世に出ないのは残念だ。


 だが、あの文筆系最強の才能が、自分のサポートをしてくれると考えれば、その分を補って余りある。


 真夜に、最高の小説を作ると約束した。


 その、目標に大きく近づけることだろう。


 夜は迷ったが、結局薫はサポート役を行うことになった。


 文章の整合性をチェックし、踏まえるべき歌を引用して、夜の作品を何倍ものクオリティに引き上げる。その仕事は、確かに、後の世の編集者と相違なかった。


 紫式部が、サポートにくわわった!!!


 ●


 夜と薫は、ある場所に来ていた。


「なんで、ここに行きたかったんですか?」


「なんでって、そりゃあ、世話になった人のお墓だからね。」


 少し荒れた五輪の塔の姿をした墓石を夜は丁寧に掃除する。


「誰です?」


「清少納言という人だ。とてつもなく偉大な作家だった。」


 夜と香子が宮中に入り、忙しくなったのと前後するように、清少納言は宮中を去った。彼女の仕えていた中宮定子は、実家の権力争いの余波で、かつてのような力はなく、帝の情で宮中に残っているような有様だった。

 その定子も出産の後、あえなくこの世を去る。

 清少納言は宮中を辞し、ひっそりと生活するようになった。

 定子との輝かしい日々を描いた枕草子は、権力的な対抗相手である藤原道長の絶頂期であっても、多くの人に読まれ、絶賛される随筆だった。


「とても気っ風のいいお姉さんだったよ。」


 夜は彼女を懐かしむ。


「そうですか、あの枕草子の作者ですか。」


 薫の表情が柔らかくなった。

 彼女は失った記憶を物語で穴埋めしようというように、貪るように書物を読みあさっていた。その中に、枕草子が存在していたのだろう。


「私もお祈りしますね。」


 夜と、薫、二人は並んで、祈りを捧げる。


 どうか安らかに。

 いつか、自分たちがそちらに行ったら、また、創作を見せ合おう、と。



「それは無理さね。二人とも、死にゃしないだろうに。」


 カラカラと笑う快活な彼女の声が、空からかすかに聞こえた気がした。


 見上げた二人の上をカラスが三つ四つ寝床へと飛び急いでいた。


 秋の夕暮れのことだった。




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