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追放された俺は逆行転生した〜TS吸血姫は文化を牛耳る〜  作者: 石化


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高天原

 

 俺の高天原生活が始まった。


 住居は、オモイカネのところだ。


 書物じみたものに初めて出会ったので夢中で読んだ。

 知識を羅列したものだったのが不満だったが、それでも本は本だ。


 どこまで行っても紙さえなかったことを思えばすごい進歩だと言える。


 歴史を強制的に覚えさせる件だが、思っていたほど恐ろしくはなかった。

 というよりこの体がハイスペックすぎるだけか。

 一度聞いたことは忘れないとかどこの天才だよ。


 割と分量はあったが、オモイカネが満足するくらいの歴史知識は簡単に吸収できた。どこか聞き覚えがあるようで、でも新鮮な話の数々は、とても興味深かった。

 ヤマタノオロチとかいう蛇をスサノオという人が退治したらしいけど、俺が戦った蛇に特徴がよく似ていた。ああいう蛇ってどこにでもいるんだな。恐ろしいことだ。


 自由な時間は、高天原を探索した。だいぶ広いが、それでも、2、3時間もあれば見て回れるくらいだ。なお体のスペック差による移動可能距離の違いについては考えないものとする。


 白ともよく会う。

 彼女はウサギのくせに屋敷をもらっていて、屋敷を借りている俺とはえらい違いだ。なんでも新しく自分で神社を持つらしく張り切っていた。

 茶を啜って茶菓子を食べるというご隠居ムーブをかましたい時にはよく訪ねる。口では文句を言いながらも耳は跳ねてるので向こうとしても嬉しいのだろう。ツンデレウサギだ。


 あとは、アメノウズメという友人が出来た。

 白のところで茶を飲んでいたら、いきなりやってきたテンションの高い巫女っ子だったが、割とすぐに打ち解けた。

 そのあと、歴史の勉強の時に彼女の名前が出てきたのには驚いたが、それ以前にオモイカネが自分の功績をひけらかしていたので、そのことはすぐ頭から消えた。オモイカネはなんで自分のことをそんなに誇らしげに言うかな⋯⋯。

 天照を岩屋から引きずり出す策を考えたんだから確かに頭はいいんだろうけどさ。


 そんなこんなで、天界での暮らしは悪くない。ただ、血を吸えないのだけが嫌だ。普通の食事をしていても、栄養は取れるんだけど、そろそろ新鮮な血が飲みたくなってくる頃だ。



 流石にそれをやってしまったら高天原から追放されそうなので必死に我慢している。


 ●


「ねーねー夜っ!面白い話して欲しいな!」


 縁側で、ウズメが無茶振りをしてきた。

 この程度答えられなくて小説家になれるわけがないと思いつつも、アドリブに弱いのも小説家だぞと思う。

 そういえばこの頃は知識を詰め込むだけで、文章に起こす訓練をしてこなかった。

 描写力と知識があっても、書かなきゃ小説は生まれない。

 当然こう言うフリにも対応できない。


「なるほど。私の小説に向かう姿勢を指摘したってわけですね!」


 納得した。ちなみにウズメの前では一応取り繕っている。バレている可能性は存分にあるけど。


「いや普通に話のフリだけど?夜ってたまに脈絡ないこと言うよねっ。」


「わかるー。」


「その合いの手適当すぎない?」


「それなー。」


 白の返事がいつになく何も考えていない。さては何か悪いものでも食ったのか?


「白、大丈夫?」


「元気がないならウズメちゃんが裸踊りしてあげようかっ?」


「いやそれはいらないから。脱ぐのやめて。」


 ウズメは、オモイカネも自慢していた天岩戸の件で、裸踊りがくせになってしまったらしく、俺は矯正に苦慮している。

 岩戸の前で飲めや歌えやどんちゃん騒ぎをして天照の気を引いて引きこもり状態を改善したって、いかに高天原の歴史書にそう書かれていても信じられない。

 でも、当事者たちはここにいるしな⋯⋯。


 なんならウズメが服を脱ぎかけてるし。

 白い柔肌が非常に美味しそうに見えちゃうからマジでやめて。


「あんまりふざけてると、襲っちゃうからね。」


「誰が、誰をっ?」


「私があなたを。」


「ふーん。踊るウズメちゃんを捕まえられるってならやってみなよ!」


 ああもう。

 庭で踊り始めちゃったし。


 仕方ない。いやこれはウズメが挑発するのが悪いんだって。


 久々に全力を出してみよう。

 新鮮な血が手に入るぞ。


「夜。ダメ!」


「白?」


 俺に飛びついてきたもふもふウサギに怪訝な顔を向ける。


「そんなことをしたら、夜がここにいれなくなっちゃう。そんな光景が、さっき見えたの。」


 白には時々未来が見えるらしい。さっき反応が鈍かったのはそれを見ていたからだろう。彼女の自己申告だし、どこまで本当かわからないが、少なくとも、ウズメを吸血したらそうなることは目に見えている。


「ありがとう、白。頭が冷えた。」


「よかった。」


「とりあえずあのバカは止めるけど。」


  少なくとも裸踊りはやめろ。


 吸血する気はなくなったが、取り押さえてやる。覚悟しろ。


 俺は見事なステップを踏んで踊っている彼女に飛びかかった。

 芸能の神様らしいし、踊りは本当にうまいし美人なんだけどなあ。本当脱ぎグセさえなければ非の打ち所がないのに。残念だ。


 そして無駄に極まってるせいで、俺の速度を持ってしても捉えきれない。

 くそう。踊り子って絶対戦闘職じゃないだろ。RPGじゃないんだから。

 目がチカチカしてきて捉えきれないんだけど。こっちがフラフラしてきたぞ。くそう。負けてたまるか。


「へっへーん。ウズメちゃんの方が早いもんね!」


 せめてドヤ顔のフレームを無理やり入れてくるのやめてもらえませんかねえ!めちゃくちゃうざい。格闘ゲームをやっていたとしたら明確に煽りに位置するよそれ。しかもそこを狙っても簡単に躱されるし。


 俺の戦闘力はかなりのものだと自負しているんだけど、ウズメには敵う気がしない。


「おっと、お前たち。ここにいたか。」


 俺とウズメが一進一退の攻防を繰り広げているところに、オモイカネがやってきた。


「天照様がお呼びだ。付いて来い。」


「私ですか?」


「お前とウズメだ。⋯⋯ウズメはそのダンスをやめろ。」


「えーいいじゃん。オモイカネも楽しくやろうよ!」


「はあ。ともかく、天照様のところに行くぞ。」


「私はどうなんですか?」


 オモイカネには頭が上がらない様子の白が、尋ねた。


「お前は自前の神社があるだろう。しっかりはげめ。」


 オモイカネは幾分つれない。


「大丈夫だって白。すぐに戻るから。」


 未来視で見た内容に不安を覚えているであろう白を勇気付けて、俺たちは天照の元に向かった。


 ちなみにウズメは踊り続けていた。疲れないんだろうか⋯⋯。

 ともかく裸ではなくなったのでとやかくは言わないことにする。



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